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喪失感からの新たなモチベーション 7人制ラグビー五輪代表候補の林大成「ステップ」で魅せる

2020.10.30

府中合宿中の林大成。リーダー的な存在であるひとり(撮影:松本かおり)


 2021年夏開催予定の東京オリンピックでメダル獲得を目指す男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表の候補選手たちが、10月26日から30日にかけて東京都府中市で強化合宿をおこなっている。

 そのなかのひとりである林大成が29日、オンラインでの合同取材に応じた。

「今日は午前中、試合をしました。前回の鹿児島合宿から強度を上げ、フルコンタクトでやってきました。試合ができるというのが何よりもラグビーを楽しめる瞬間なので、まずはその喜びが大きかったです。自分自身、ワールドシリーズを戦えるほどのコンディションに戻っているという感覚はいまのところわからないですが、試合ができる喜びと楽しさを感じられたことがよかったです」

 2018年、東海大学卒業後から在籍していたキヤノンイーグルスを退団し、日本ラグビー協会と7人制専任選手契約を締結した。いまも所属しているチームはない。新型コロナウイルスが日本国内で蔓延して代表活動が自粛を余儀なくされた期間は、ひとり黙々とトレーニングに励んだ。

「3月中旬に関西に帰りました(大阪府出身)。普段は3日以上同じところにステイすることは基本的にないんですけど、1か月くらいは神戸の近くにいて、トレーニングをひとりでやっていました。ステップとかシャドーボール(壁当てしてひとりでパス練習などができるボール)を使った練習はひとりでできるので。ただ、最初のころは(コロナ禍が)ここまで長期になると思っていませんでした。トレーニングに励むこと自体は難しくなかったんですが、オリンピックがあるかどうかわからない、いつ活動が再開されるかわからない状況で、モチベーションを保つのが難しかったですね」

 オリンピックという舞台に向かって突き進んできた分、喪失感は大きかったという。1年延期が決まったものの、収束が見えず中止もささやかれるなかで、オリンピックに左右されるのは仕方がないことだとは理解していても、オリンピックがなければ、ラグビー選手として、アスリートとして自分は価値がないのかと考えた。

「オリンピックが終わっても自分のキャリアは続きます。なので、オリンピックがなかったとしたら、自分はどうしていきたいのかということを考えました。オリンピックを度外視にして、自分にとっての原動力を別に作って進んでいくことが必要だと思いました」

 新たなモチベーションにしたのは、自身が得意とするステップを通してラグビーやセブンズの魅力を発信していくことだった。世界中の人がインターネット上で見ることができる動画共有サービスの『YouTube』にチャンネルを開設し、ステップを中心としたさまざまな動画をアップしている。
 Xリーグに属するアメリカンフットボールのチームに出向いて1対1の勝負をした動画は、約30万回再生された。

「僕がいま活動を続けているステップで、ラグビーそのものをもっとおもしろいものだということを伝えたいです。ステップでラグビーの魅力を伝えるために、僕自身が世界でこのステップを使って活躍することが一番大切だと思っています。世界には多くのステッパーがいますが、自分の活動を広げていった先に、世界を巻き込んでステップの大会のようなものが開けたらいいなと思っています。ステップというプレーはバスケットボールやハンドボール、アメフトなどいくつかの競技と共通するものがあって、そういう選手たちと勝負していくなかで、ラグビーやセブンズというものを知ってもらうきっかけになったらいいなと思っています」

 動画の再生数よりも、動画を見た人から「こんなプレーができるようになりました」というようなメッセージをもらう方が嬉しい。誰かの成長や喜びにつながれば、それがいちばん嬉しいと林は言う。

「ラグビーを16年間やってきて、いまがいちばんプレーしていて楽しいです。モチベーションとして、ステップで、もっと世界の舞台で活躍したいという思いはあります」

 2019年は15人制のラグビーワールドカップで日本中が盛り上がったが、7人制のセブンズはそもそも見たことがないという人が多いかもしれない。見てもらえれば、きっとおもしろさは伝わるはず。

 だからこそ、来年夏のオリンピック開催を願う。

「自分がおもしろいと思っているもの、価値があると思っているものを、多くの方に見ていただきたいと思っています。見てくれた人の心を動かせるようなプレーができたら、僕自身もとっても嬉しいです」

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