ラグビーリパブリック

慶大戦で今季初先発へ。明大・齊藤誉哉が途中出場の筑波大戦で落ち着いていたわけ。

2020.10.30

慶大戦へ向け練習する明大の齊藤誉哉(撮影:向 風見也)


 10月18日、埼玉・熊谷ラグビー場。関東大学対抗戦Aの第3節があった。

 開幕3連勝を狙っていた明大は、1勝1敗の筑波大の接点の圧力に苦しめられた。序盤は防御の連携ミスを好ランナーに突かれるなどし、接戦を演じていた。

 明大ベンチから2年の齊藤誉哉が飛び出したのは、19-12と7点リードで迎えた後半14分だ。

 ルーキーの池戸将太郎に代わって持ち場のSOに入るや、「(流れのできた)後半に入ったからというのもありますが、まとまった考えでオーガナイズできた」。味方の好守でつかんだ自陣でのペナルティキックから、長距離砲を放つ。左右に目を配り、自軍の攻撃陣形を整える。

「(チームは)スペースにボールを運びたくて、強いFWを前に出したい。SOに求められているところは、FWとBKのオーガナイズ、スペースの共有、コミュニケーション、立ち位置の整理、アタックの指示…」

 落ち着いて、目と耳を活用してこそSOだと捉えていた。

 ノーサイド。33-17で開幕3連勝を飾る。田中澄憲監督には「安心して見ていられた」と評された。

「齊藤、よかったですね。去年、経験しているので、さすがだなと思いました」

 身長180センチ、体重89キロの元高校日本代表候補。群馬の桐生第一高時代には、同部史上初の全国大会出場を経験した。昨季は大学楕円球界のディフェンディングチャンピオンだった明大へ入るや、関東大学春季大会の日大戦で1軍デビューを飾った。

 ただし本人は、ルーキーイヤーを「あっという間に過ぎちゃいました」と総括する。パス、キック、ランでインパクトを示しながら、首脳陣には「オーガナイズ」の領域に課題があると諭されていた。

「わからないことも多く。射場大輔さん(昨季のインサイドCTB、現 NTTドコモ)、飯沼蓮さん(SH)に引っ張ってもらって自分の色をあまり出せずに終わった」

 秋の関東大学対抗戦では、7位に終わる青学大とのゲームで先発したのみ。SOの位置では、一昨季まで最後尾のFBにいた山沢京平が強靭さと鋭さを示していた。

 何より、齊藤が本当の意味で辛酸をなめたのはむしろチャンスをもらってからだったかもしれない。

 チームが2季連続日本一を目指していた大学選手権の準々決勝で、故障の山沢に代わって正SOに入る。昨年12月21日の東京・秩父宮ラグビー場で齊藤を待っていたのは、想像以上の緊張と、関西学院大のミサイルのごとき防御だった。

「上がってくるディフェンスに対してパニックになって、どうしたらいいかわからずに試合中に(局面を)打開できなかった」

 結局、22-14と白星こそ挙げたが、当時のHOで主将の武井日向(現 リコー)は自軍の出来を「修正能力が甘かった」と振り返る。勝って兜の緒を締めよ、との雰囲気が漂った。

 準優勝に終わった同大会で、齊藤の出番はこれが最後となった。

 今年10月の筑波大戦後に田中監督が「去年、経験しているので…」と話したのは、関西学院大戦から大きな成長が見られたからだろう。

 本人も「(関西学院大戦では)むちゃくちゃ、緊張しました。それもあって(筑波大戦では)落ち着いて、いろんな状況を読めた」と話すのだが、そう安堵する前にはもうひとつ、ハードルに出くわしていた。

 8月下旬の部内戦で「パフォーマンスがよくなくて」。副将となった山沢の故障療養が長引くなか、9月の他校との実戦形式練習、10月4日開幕の対抗戦では東海大相模高卒の池戸に先発SOの座を譲っていた。新人から背番号10を取り返さなくてはならなかったのだ。

「悔しかったですね」

 齊藤はつぶやく。

「京平さんが抜けてチャンスが巡ってくるのは、昨季のシーズンオフくらいからわかっていたので…。出遅れたのは見ていてめちゃくちゃ悔しかったです」

 大抜擢に応える池戸を「うまいですよね。スキルフルで。去年僕があの立場で出ていたら、ああいうパフォーマンスはできない」と認めながら、欠場中は「将太郎をどう見たかというより、あの場所に自分がいたらどうするかという視点で見ていました」。コンディションの良かった頃の山沢、昨季まで早大の司令塔だった岸岡智樹(現 クボタ)の試合映像をチェック。「あの場所に自分がいたらどうするか」の詳細を詰めた。

「いい人のプレーをまねするところから始めました」

 そう。筑波大戦で落ち着いて戦えたのは、昨季の関西学院大戦で落ち着いて戦う重要性を再確認し、今季の雌伏期間に名手の落ち着きぶりを追体験しようとしたからだ。

「今年は、いろいろな視点を持ってゲームに臨んでいる感じです」

 11月1日、東京・秩父宮ラグビー場における慶大との第4節で、今季初めてのスタメン出場を果たす。メンバー発表前の練習時、こう述べていた。

「先週(筑波大戦に)出て、今週(慶大戦に)出られるかもしれなくても、その次の週はどうなるかわからない。一週間、一週間、自分のやることだけをやる。一試合、一試合全力を出して、チームをまとめる。いいパフォーマンスをすれば次の週につながる」

 山沢の復帰後も正司令塔であり続けるのが理想だ。地に足をつけ、堂々とタクトを振る。

Exit mobile version