10月4日に始まった関東大学対抗戦Aにあって、鮮烈な印象を残したのが奥井章仁だ。大阪桐蔭高の同級生である江良颯とともに、新人ながら帝京大のレギュラーに定着した。
球を持てばタックラーに当たり勝って前進し、向こうに絡まれぬよう球を地面に置く。
自身の上空へ高い弾道のキックを蹴り込まれれば、相手のプレッシャーが至近距離に迫った瞬間に飛び上がって捕球を試みる。空中にいる選手へタックルしてはいけないという競技ルールに沿って、最善手を打っているような。
いま有する強さ、うまさ、賢さを本番での動きに反映する背番号8。菅平での夏合宿中に『ラグビーマガジン』のインタビューへ応じた際、こう決意を明かしていた。
「多くの試合に出て経験を積んで、最終的には1年生でも(上級生に)引けを取らないよう上のレベルで活躍したいです」
高校2年時に日本一に輝いた。高校日本代表には2シーズン連続で選出され、3年時には20歳以下日本代表にも加わった。
2017年度まで大学選手権9連覇の帝京大では、合流後まもなく一時解散に応じた。しかし、自宅待機の部員は5月から段階的に都内の本拠地へ帰還。奥井も「6月の初めのほう」には、仲間と再会できたようだ。
「(例年なら)春は1年生も(試合に)出るチャンスがあって。そこがなくなったのは正直ショックでしたけど、そうなったものは仕方がない。できることをやろうと切り替え、いま、そうできています」
注力したのは身体づくりだ。公式で178センチ、自己申告で「102キロ」という身体の中身を一気に変える。
「大学に入って、少し、締まったと思います」
筋力をつけるためのウェイトトレーニングでは、高校まで「(チーム内で)だいぶ、(重量を)上げられるほうだった」という奥井も、「大学に来たら下のほうでした。入った当初は、大学生がすごい重りを上げるので、そこで差を感じました」。力自慢に囲まれることで、自らにより強い負荷をかけなければと必死になった。
食事も見直した。「22パーセント」あったという体脂肪率を「18パーセント」に絞れたのは、運動しながら栄養バランスを意識できたからだと本人は考える。
「高校では体重を増やし、身体を大きくすることをメインでやっていましたが、大学では大きくすることだけではなく、フィジカル、スピード、体脂肪…と、事細かに考えてやってくださる」
グラウンドに出れば、周囲の「意識」に刺激を受ける。
「練習が始まる前に集まって、主将が一言、話す。それまでは皆、リラックスしてストレッチなどをしているんですけど、(集合の号令がかかった)その瞬間、皆が主将の方へ向かっていく。オンとオフの切り替えがあると感じました」
練習で定められたランニングコースをショートカットしない…。ミーティングの途中にそっぽを向かない…。かような凡事徹底の「意識」は、2020年度の帝京大の好調ぶりを下支えする要素のひとつかもしれない。奥井はこうも述べるのだった。
「高校時代では――そうしないようにはしていたんですが――たまになぁなぁにしてしまっていた部分が正直、ありました。帝京大にはそういうところが全く、ない。一個、一個の細かなところのレベルが高いです」
ポジションチェンジも期待される。
かつてNO8だった堀江翔太は、帝京大卒業後に最前列のHOに転向。いまや日本代表の主軸となり、ワールドカップに3大会連続で出場中だ。昨秋のワールドカップ日本大会で堀江と正HOの座を争った日本代表の坂手淳史も、帝京大入学前はNO8でプレーしていた。
奥井にも、HOなどのFW第1列へ転じる可能性がまったくないわけではないのだろう。もっともいまは、現時点での持ち味を発揮しやすそうなNO8で試合に出ている。岩出雅之監督はこう話す。
「僕も、本人もそう思っていることですけど、まずは大学で試合に出た方がいいと思うんです。長いスパンで(最前列に転向して)やった方が…というのは、後々にわかること。いまやっていること(FW第3列)は『とりあえず』ではなく、いまも充実させて、成長するために(と捉えている)。後々、本人が望めば(転向もありうると)話しています。ただ、未来のイメージを持つ時期が来るまで焦らずに…」
当の本人も、夏の時点でこう意気込んでいた。
「コーチの方も『どこ(のポジション)がいい』という意見を聞いてくださって、自分も『バックロー(FW第3列)がいいです』と意見を言えています。コミュニケーションが取れています。高校の時も、U20でもFL(NO8とともにFW第3列を構成)でやらせてもらっている。バックローで頑張っていきたい気持ちは強いです」
11月1日から後半戦が始まる関東大学対抗戦A、12月からの参戦が期待される大学選手権でも、焦らず、堂々と戦う。