バスッ。バス、バス、バスッ。
スタートの合図とともに、タックルバッグを叩く音が軽快に響く。が、そのリズムもやがて鈍くなる。
ボクシンググローブを着けたFB五郎丸歩は、「3分、思っていたよりすごく長く感じました」と振り返った。
一般のファンにとって、ボクシングの1ラウンドは短く感じるものだ。しかし、フットワークを使って動き続け、パンチを出し、相手の一撃を避け、受ける3分がどれだけタフか。
五郎丸をはじめ、ジュビロの選手たちがそれを体感した。
10月26日と27日、ヤマハ発動機ラグビー部の選手たちがボクサーになった。
ボクシングの基礎を指南したのは元世界チャンピオンだ。
八重樫東(やえがし・あきら)さんは、WBA世界ミニマム級、WBC世界フライ級、IBF世界ライトフライ級王座と3階級を制覇し、「激闘王」と呼ばれた。今年9月、37歳で引退した。
1日目は基礎編、2日目は応用編。ピックアップメンバーが取り組んだラストセッションでは、パートナーと向き合いパンチを出す3分間も設けられた。
パンチをもらってしまい、鼻血を出す選手もいた。
世界を獲った男は、初日の選手たちとの対面直後、約30分のトークタイムから熱を伝えた。
恐怖感に打ち勝って前へ出るスタイルの原点。顔を腫らしながらでも勝利を掴む闘争心、戦いへ向けての心身の準備について話した。
トレーニングでは、フットワークを使いながらパンチを出し続けるフィットネスや、俊敏性の重要性を伝えた。
八重樫さんのトークの中で、特に選手たちの心に響いたのが「覚悟」という言葉だ。
恐怖心との向き合い方。決戦に向け、一日一日をやり切る。すべての時間を悔いなく過ごす。そうやって「覚悟」をただの言葉でなく、大きなものにしていく作業だ。
LO大戸裕矢主将は、「覚悟を作ることの重要性を感じました。(自分自身を)120パーセントに持っていく。チャンピオンベルトを獲るマインドを最初から実感しました」と話し、「恩返しに自分たちがチャンピオントロフィーを持って優勝報告をしたい」と話した。
フットワークや縄跳び、シャドーボクシング、ミット打ちなど、2日間のすべてのセッションを終え、PR山本幸輝は、額に汗を浮かべたまま言った。
「3分間動き続けるのは、ラグビーにはないタフさでした。動かないと打たれる。動きまわり、手を出し続ければ有利になる。疲れた時こそ前へ出ることの大切さをあらためて学びました」
堀川隆延監督は、追い込まれる選手たちの姿を見つめ、期待を込めた。
「やろうとしているラグビーのラスト5分、ラストワンプレーの場面に活かされるように感じました」
強い思いを持ってこその頂点。マインドセットにも、自分たちとの共通点を見つけていた。
2日間に渡り、ジュビロに熱を与え続けた八重樫さん自身は、最後のトレーニングを終え、「みなさんの気持ちを見せてもらい、パワーを感じました」と選手たちにお礼を言った。
「これから指導者としてやっていく上で、多くの学びがありました。ラグビーもボクシングも、競技に対する気持ちは同じ部分がある。お互い盛り上げていきましょう」
ラグビーのトレーニングを2日間見つめ続けた。中でも、スクラム練習から多くの熱量を感じたようだった。
「ものすごい迫力でした。そして、長谷川(慎)コーチの空気やテンポの作り方、選手の気持ちの高め方。それらは本当に参考になりました」
言葉の端々から、お互いにとって実りのある2日間だったことが分かった。