ラグビーリパブリック

ボクシング元世界王者に教わった。ジュビロ×八重樫東の2日間

2020.10.28

五郎丸歩(左)のパンチを受ける八重樫東さん。(撮影/松本かおり)

世界を獲った男は「ラグビー選手のフィジカルの強さは凄い」と言った。(撮影/松本かおり)
山本幸輝(左)と植木悠治。好ファイトを見せた。(撮影/松本かおり)


 バスッ。バス、バス、バスッ。
 スタートの合図とともに、タックルバッグを叩く音が軽快に響く。が、そのリズムもやがて鈍くなる。
 ボクシンググローブを着けたFB五郎丸歩は、「3分、思っていたよりすごく長く感じました」と振り返った。

 一般のファンにとって、ボクシングの1ラウンドは短く感じるものだ。しかし、フットワークを使って動き続け、パンチを出し、相手の一撃を避け、受ける3分がどれだけタフか。
 五郎丸をはじめ、ジュビロの選手たちがそれを体感した。
 10月26日と27日、ヤマハ発動機ラグビー部の選手たちがボクサーになった。

 ボクシングの基礎を指南したのは元世界チャンピオンだ。
 八重樫東(やえがし・あきら)さんは、WBA世界ミニマム級、WBC世界フライ級、IBF世界ライトフライ級王座と3階級を制覇し、「激闘王」と呼ばれた。今年9月、37歳で引退した。

 1日目は基礎編、2日目は応用編。ピックアップメンバーが取り組んだラストセッションでは、パートナーと向き合いパンチを出す3分間も設けられた。
 パンチをもらってしまい、鼻血を出す選手もいた。

 世界を獲った男は、初日の選手たちとの対面直後、約30分のトークタイムから熱を伝えた。
 恐怖感に打ち勝って前へ出るスタイルの原点。顔を腫らしながらでも勝利を掴む闘争心、戦いへ向けての心身の準備について話した。
 トレーニングでは、フットワークを使いながらパンチを出し続けるフィットネスや、俊敏性の重要性を伝えた。

 八重樫さんのトークの中で、特に選手たちの心に響いたのが「覚悟」という言葉だ。
 恐怖心との向き合い方。決戦に向け、一日一日をやり切る。すべての時間を悔いなく過ごす。そうやって「覚悟」をただの言葉でなく、大きなものにしていく作業だ。
 LO大戸裕矢主将は、「覚悟を作ることの重要性を感じました。(自分自身を)120パーセントに持っていく。チャンピオンベルトを獲るマインドを最初から実感しました」と話し、「恩返しに自分たちがチャンピオントロフィーを持って優勝報告をしたい」と話した。

 フットワークや縄跳び、シャドーボクシング、ミット打ちなど、2日間のすべてのセッションを終え、PR山本幸輝は、額に汗を浮かべたまま言った。
「3分間動き続けるのは、ラグビーにはないタフさでした。動かないと打たれる。動きまわり、手を出し続ければ有利になる。疲れた時こそ前へ出ることの大切さをあらためて学びました」

 堀川隆延監督は、追い込まれる選手たちの姿を見つめ、期待を込めた。
「やろうとしているラグビーのラスト5分、ラストワンプレーの場面に活かされるように感じました」
 強い思いを持ってこその頂点。マインドセットにも、自分たちとの共通点を見つけていた。

 2日間に渡り、ジュビロに熱を与え続けた八重樫さん自身は、最後のトレーニングを終え、「みなさんの気持ちを見せてもらい、パワーを感じました」と選手たちにお礼を言った。
「これから指導者としてやっていく上で、多くの学びがありました。ラグビーもボクシングも、競技に対する気持ちは同じ部分がある。お互い盛り上げていきましょう」

 ラグビーのトレーニングを2日間見つめ続けた。中でも、スクラム練習から多くの熱量を感じたようだった。
「ものすごい迫力でした。そして、長谷川(慎)コーチの空気やテンポの作り方、選手の気持ちの高め方。それらは本当に参考になりました」
 言葉の端々から、お互いにとって実りのある2日間だったことが分かった。

Exit mobile version