ラグビーリパブリック

明大・箸本龍雅主将が「うまくいかないこと」を歓迎するわけ。

2020.10.26

10月18日、パワフルな突進で筑波大の選手にあたりに行く明治大のNO8箸本龍雅(撮影:長岡洋幸)


 明大ラグビー部の朝は早い。

 10月23日の通常練習は6時半に始まり、グラウンドの中央では翌日に練習試合が組まれた3番手格のCチームが汗をかく。その脇では主力候補が肉弾戦のサーキットや走り込みなどで心身を追い込む。

 やがて、翌々日にトレーニングマッチが組まれた1年生チームもグラウンドへ集まる。主力組は早めに切り上げたが、そのうちの1人である箸本龍雅は8時過ぎまでその場にとどまった。控え勢の実戦練習が落ち着くのを待った。

「いつも(控え組のトレーニングを)見ているわけじゃないんですけど」と本人。かねてFW陣のミーティングで新たな課題を共有しており、この朝は「それができているか、見ていました」とのことだ。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月からの約2か月間、寮を一時解散。全体練習は7月中旬に再開し、8月中旬の夏の菅平合宿をおこなわない代わりに同月下旬の福島合宿で部内競争を激化させた。

 普段は9月に開幕することの多い関東大学対抗戦Aへは10月4日に突入し、折り返し地点を過ぎた。12月に参戦の大学選手権で2季ぶりの頂点に立ちたい箸本は、しみじみともらした。

「いよいよ時間ないなぁって、実感しています。あれもやりたい、これもやりたいという感じなんですが、やっぱり、時間はない。1個ずつクリアして、次の段階へ行く時にその前にできたことができなくなっていたら意味がない。積み重ねがめっちゃ大事になってくるかと」
 
 18日、埼玉・熊谷ラグビー場で開幕3連勝を決めた。

 今季充実の帝京大が11日(東京・帝京大グラウンド)に54-17で下した筑波大に、33-17と競り勝った。攻撃中の接点で圧力を受けるなど苦しい時間帯もあったが、試合後の記者会見で箸本はこう述べた。

「きょうの試合を観てもらったら『メイジ、やられてるな』と思われがちですけど、個人的には1点差でも勝てばいい」

「勝ち切れたのはいい経験になった」

 努めて前向きでいるようにも映った一連の談話。その心を改めて問われれば、本人は課題が見つかってよかったのだと強調した。

「(シーズン序盤に)うまくいかないことがあるのはチームとしてもいいこと。(現状は)まだまだうまくいっていないし、満足できる状況ではないですけど、(会見で)ああ言ったのはチームにそう演じようとしているのではなく、本音かなと」

 思いの背景には、前年度以前の経験がある。箸本は1年時から3季連続で大学選手権の決勝でプレー。ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ昨季は、対抗戦で36-7と圧倒した早大に35-45で屈している。

「去年、僕たちは課題のないままうまくいって、対抗戦で優勝して、そこから――いま考えれば――『追求心』のようなものがなく、このままいけるだろうと思って、最後、負けた」

 ここには就任3季目の田中澄憲監督も、「去年はどちらかと言うと、うまく行ってしまった、という感じです」と同調する。

「特別、何かをしたわけではないけど、慶大、帝京大、早大に(対抗戦で)完勝。『え、強いのかな』という感触で行って(シーズンが進んで)しまい、最後…。自分たちの課題が見つからなかったのかもしれないです。今季は、この前の筑波大戦でも苦しみながら勝った。反省材料が増えるのは大事かなと」

 箸本が「うまくいかないことがある」ことを「いい」とするのは自然かもしれなかった。

「対抗戦で大差が開いていても、選手権(の同カード)ではお互いに準備をしあっているのであまり点差は開かない。だから、対抗戦で課題をいっぱい出すことが――今年は特に――大事なのかなと思っています」

 今回は、攻撃陣形の連動性をリチェックした。接点周辺に並び立つFW数名が有機的にスペースへ駆け込めば、防御を拡散させて接点でのプレッシャーも軽減させられる。ミーティングでその点を共有し、この日の早朝練習で動きを確認した。

 チームは現在、大きくボールを動かしたり、数的優位がないなかでも果敢に仕掛けたりする方針を打ち出している。簡潔に戦うより複雑なタスクに挑んでいるから、自ずとエラーは起きる。しかし…。

「うまくいかないからといって受け身になったプレーをしていると、自分たちの本当の課題が見つからない。うまくいかないにしても、いまできることを全力でやることで課題が見つかる」

 身長188センチ、体重107キロの背番号8。昨季オフにはサンウルブズの練習生となるなど将来を嘱望される。

 明大では、東福岡高時代に続いて主将を任される。ラグビーを始めた小学生の頃は「身体を当てるのが嫌い」だったという青年はいま、突破役として、さらには船頭役として日々を大切に生きる。

 自身とともに1年時から主力の山沢京平副将は今季、相次ぐけがで戦列を離れている。箸本はミーティングの際などに、故障中の山沢が自分からものを言い出しづらいと感じてか「京平、どう」と意見を求める。

「京平は、結構、分析をやってくれている。リハビリ中で時間があると思うんですが、そのなかでもチームにできることが何かと考えてくれていて。あまり自分から言ってくるわけではないので、こっちから『京平、お願いしていい?』と伝えたら、結構、(意見を)言ってくれる。…そういうことも、考えてやっています」

 世界が無色透明の膜に覆われたのを受け、チームは事実上の「ロックダウン」を実施。八幡山の寮に住む全ての部員は、就職活動や通院など特別な用事がない限り近隣エリアに止まる。電車やバスは原則的に使わない。

 特異な状況下、箸本は「僕だけじゃなく、チーム全体が危機感を持ってやってくれている。そこは、あまり心配していないです」との態度を貫く。

「(ライバルの)試合はよく見ますけど、まだ相手がこうしてくるからこう…という段階に来ていない。明大がやりたいこともできていないので、それを完成させてから(相手への)対策へ…となる」

 オンフィールド、オフフィールドの両面で、足元を固める。

 11月1日、東京・秩父宮ラグビー場で慶大とぶつかる。

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