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コロナ禍にもエースとの争いにも負けない。早大・南徹哉副将、葛藤経て明かす決意。

2020.10.23

早稲田大学4年の南徹哉。好きな言葉は「正しい判断より強い決断」(撮影:向 風見也)


 最後のシーズンがこんなことになるなんて。

「もちろん、思いました」

 早大4年で副将の南徹哉はきっと正直に告げた。

 2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月には東京・上井草の寮を一時解散。毎年恒例の関東大学春季大会も中止となり、毎年恒例の夏合宿も大きく形が変わった。加盟する関東大学対抗戦Aの開幕も、通常より1か月遅い10月となった。

 大学選手権2連覇を目指すチームでレギュラー入りを目指す最上級生としては、出鼻をくじかれたと感じても不思議ではない。

「僕らみたいな去年Aチーム(主力)に定着したわけではない選手にとって、いろんな選手に試合のチャンスが与えられる春シーズンは大事。なんというか…最初はすごく、ショックは受けました」

 もっとも秋になれば、「試合数が限られ、いつか練習ができなくなる可能性もあるなかでは、一回、一回の練習が大事です」。最後尾のFBに入る身長177センチ、体重82キロの22歳は現実を相対化。いまはひとつのパス、ひとつの接点、ひとつのキック処理の精度にこだわる。

 春先の「ショック」を乗り越えたリーダーは、かねて相良南海夫監督に告げられてきた内容をこう咀嚼(そしゃく)するのである。

「今年は10/10試合、10/10試合と(いうイメージで)積み上げていく。1試合、1試合で、それまでやってきたことを出そうとするのが大事。例えば、(積み上げの総量が)7/10、6/10で終わる試合があると、20/20ではなく13/20の状態で3試合目に向かうことになってしまうので」

 小学3年で鞘ヶ谷ラグビースクールに通い始めた。筑紫丘ラグビークラブジュニアスクール、福岡県立修猷館高校を経て、1浪の末に早大文学部へ入学。一緒に副将をするLOの下川甲嗣は、高校の後輩だ。

 2年時にFLの定位置をつかんだ現NO8の丸尾崇真主将と異なり、いまに至るまで激しい部内競争を強いられてきた南。対抗戦ではこれまでの3試合で2度先発し、10月4日の青学大戦(東京・秩父宮ラグビー場)、18日の日体大戦(埼玉・熊谷ラグビー場)をそれぞれ47-21、70-5で制した。目下、3連勝中である。

 11月以降は帝京大、筑波大、慶大、明大と、前年度の上位校や伝統校とぶつかるが、部内でも引き続き強力なライバルに挑む。

 河瀬諒介。大阪・東海大仰星高から加わった1学年下のFBだ。

 身長183センチ、体重90キロの体格と走力を活かした突破が魅力。17歳以下、高校、20歳以下と年代別の日本代表にも入った花形である。今季はやや出遅れていたが、10月までに控え組の練習試合に復帰。さらなる復調が期待される。

 しかし南は、ひたひたと迫る河瀬の実力を踏まえたうえで「1試合でも多く出場して、最後に自分が(12月参戦を目指す大学選手権の)決勝戦に出て、優勝したいと思っています」。日本のラグビーファンが期待するスター候補にも、簡単には背番号15は渡さない。

「河瀬が本当にすごい奴なのは知っている、僕にはないところがいっぱいあるのもわかっています。でも、その河瀬にも勝たなきゃいけない。ボールを持ったところで比べると向こうがピカイチです。僕は――もちろんそこ(球を持ってからの走り)でも負けていいと思っているわけではないですけど――無駄走りをしたり、自分が絡まないところでも声で周りを動かしたりと、泥臭いプレーで頑張るしかない」 

 国民が自宅にとどまっていた時期も寮に残って「去年の2月から実家には帰っていない」という南。社会の変化にも、好敵手との争いにも、正面から向き合っている。

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