ラグビーリパブリック

【コラム】最後は信じて

2020.10.22

2019日本大会の日本代表たち。その大学時代の言葉を集めた(撮影:髙塩 隆)

 ラグビーの関東大学対抗戦Aとリーグ戦1部の試合が、10月から各地で開かれている。この国にとっては、世界の常識が塗り替えられてから初めてとなる一線級の公式大会だ。

 他方、昨年のいま頃にワールドカップ日本大会に出ていた日本代表勢は、それぞれの所属先で2021年1月以降のシーズンへ調整を重ねる。

 本稿では、日本大会組の大学時代の談話を回顧する。いまも当時も変わらぬ資質が垣間見られれば。

「試合中、詰まる(手詰まりになる)局面ってありますよね。そういう時には『俺に放れ!』と自分にボールを回してもらって、何とかして仕切り直せればいいかなと」(堀江翔太)

 帝京大主将時代のインタビューにて。「アタックでは、自分にボールを放ってくれたら何とかするっていう気持ちがあります。相手の守備がこうだったらこういう動きをしよう、とかいうイメージは頭の中には結構あるので」。人の思いを背負って前に進もうとする当時の心は、日本大会で控え組をコーヒーへ誘ってモチベーションを保つ姿と重なる。当時は対戦相手との力関係も反映されてか、パワフルな突破を繰り返していた印象。しかし当の本人は、「自分ではガツガツ突き進んでいくというより、相手をうまく避けていっているイメージなんです。周りからは『そんなことない(そう見えない)やんけ』って言われますけど」とのことだ。

「自分の言葉の足りなさを気づいた、この1年だったと思います。皆の心に火をつける言葉というのをどう自分に採り入れたらいいかを考えさせていただいた。日本一に向けて、もう一度チームを本気にさせる言葉、行動を示していきたいと思います」(坂手淳史)

 2016年1月某日、帝京大の主将として臨む大学選手権決勝を前に。言葉選びで誰を参考にしているかを聞かれると、こうも続けた。「1年生の頃から、3人の素晴らしい主将の下でプレーをさせていただいて、その3人の言葉が自分のなかに強く残っていた。それで、監督に指摘されたのが『コピー』『真似事』と。3人の言葉というのをそのまま伝えている、そこに自分の気持ち、気迫を乗せられていない、形だけの言葉になることが多くて。そこを自分の言葉にする、気を乗せるということをしないと、周りには入ってこない」。実際に自分が話した言葉やその時々の状況を振り返るなか、本気のメッセージを伝えるスキルを磨いていた。

「皆、食事の部分でも意識している。アップの前にもストレッチをたくさんしていて。水も、めちゃ飲んでいる。自分も水を結構、飲んでいて。それで、去年よりもいいコンディションで試合ができるようになっています」(具智元)

 拓大4年時はスーパ―ラグビーのサンウルブズでもプレー。海外経験で成長した点を聞かれて。周囲から素直に吸収する姿勢が日本代表の背番号3の獲得に繫がった。フェーズが重なった際に攻撃ラインで球をもらえるポジショニングについても学習できたとのこと。

「普段の練習からリスペクトされるようになりたい」(リーチ マイケル)

 登録名が「マイケル・リーチ」だった東海大2年時に日本代表に初参加。手を抜かない姿勢で一目を置かれたい旨を伝えた。2019年冬の候補合宿時、走り込みのセッションで姫野和樹とトップを争う30歳がいた。

「毎回、平常心を保てるか(が鍵)。緊張しましたけど、自分のプレーができたんじゃないかと思います」(姫野和樹)

 帝京大4年時、春季大会で公式初先発した際に。年代別の日本代表に名を連ねながら、下級生時は左の第五中足骨を骨折。回り道を余儀なくされていた。「勝負は社会人になってから」。心に決めた通り、トヨタ自動車で1年目から主将に抜擢されるや一気に代表の中核へ出世。22日、ハイランダーズへの期限付き移籍のため会見する。

「実際、筑波大戦も、早大戦も、明大戦も厳しい時間はあって。でも、我慢強く、我慢強く戦った結果、スコアが開いただけなので。全然、自分たちが上に立っているとは思えないです」(流大)

 この人が主将を務めた2014年度の帝京大は、日本選手権でトップリーグ勢を破った最後のチーム。加盟する関東大学対抗戦A、学生王者を目指す大学選手権では快勝続きだった。積み上げてきたフィジカリティやスキルに「自信」があると話した一方、相手を圧倒し続けてきた当事者としての思いについては丁寧に言葉を選ぶ。「反省しないと、隙に付け込まれる。慢心だけはしないようにしています」

「試合に出ないメンバーが自分の目標、チームの目標に向かって努力している時に、感じますね」(中村亮土)

 帝京大の主将時代、自分のチームが誠実だと感じるのはどんな時かと聞かれて。「チームの一員であると自覚しないと、そういう行動は出ないので」。流の1学年上で、大学選手権5連覇を達成。ジョセフ率いる日本代表でも、2017年秋の遠征時に控え組にあってタフに身体をぶつけるなか「自分という人間をわかってもらえたのかな」。日本大会では全5試合で背番号12をつける。

「本当にレベルの高い試合を経験させてもらっている。それぞれの試合で出たのと同じ課題が、もう1回、次の試合で出ないようにと心がけています」(福岡堅樹)

 筑波大2年だった2013年6月、対ウェールズ代表2連戦を終えて。1戦目では自陣からのキックミスで失点を招いたが、2戦目では迷わずプレーするよう心がけて歴史的勝利に喜ぶ。当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチからはこうも言われていたそう。「試合中に素早く(課題を)修正できるのが一流選手だ」

 大学の試合を観て回る社会人チームの採用担当者が、こんな旨で漏らした。

「選手の人間性は、観察しなくてはならない」

 苦しい時にどんな態度をとるか。

 周りに人がいない時に仲間へどんな声をかけるか。

 選手としての技能以外に重視されるかような資質は、本人との直接の対話よりも「観察」によって見抜くという意味だろう。たしかにスカウトする側とスカウトされる側という関係上、採用担当者に話しかけられた選手が本性をさらけ出すかはわからない。

 そして、筆者を含めた報道関係者が選手を取材する際も、きっと同じ構造が成立する。

 今後もその点を留意し、かつ目の前の人の目、声に触れ、最後は信頼して、発信したい。