来年の東京オリンピックでサクラセブンズ(女子7人制ラグビー日本代表)の中心となってメダルを獲得したいと意気込む大黒田裕芽は、この秋、約6年半在籍した埼玉のARUKAS QUEEN KUMAGAYAを退部し、名古屋に引っ越した。新しい環境のなかで自分を鍛えたいと思ったからだ。所属チームは名古屋レディースになったが、平日は中京大学ラグビー部で男子部員と一緒に練習をしている。自分よりも足が速く、フィジカルが強い男子選手たちにまざり、刺激を受けている。
「実は高校(千葉・市立船橋高校)のときのコーチがいま中京大学のコーチをやっていまして、中京大学男子ラグビー部のなかで一緒に練習をさせていただいています。東京オリンピックまでどうやって強化していくか考えたときに、もっともっとレベルが高い環境でやりたいなと思って、相談させてもらったところ、一緒に練習させていただくことになったんです。で、名古屋に移りました」
勤務していた会社も辞め、いまは仕事を探しながら練習をしている。貯金を切り崩しながらの生活だ。東京オリンピックを見据え、自分で決めたこと。10月14日、女子セブンズ日本代表候補の熊谷合宿中、オンライン合同取材で移籍について語った大黒田に後悔はなさそうだった。
「中京大では男子の選手と一緒に練習をさせてもらっているんですが、女子では出せないスピードをいちばん感じています。でも、練習を重ねるうちに目が慣れてきて、まったく手が出せなかったところが追いつくようになってきました。(東京オリンピックへ向けての自分の状況を)理解してもらっているので、こちらがやりたいシチュエーションの練習も取り入れてもらっています。メインは15人制の練習ですけど、セブンズにより近い練習とか、アフターとかでもつきあってくれる選手がいるので、すごく練習になっています」
大黒田は4年前、22歳のときにリオオリンピックに出場した。メダルを狙ったが、カナダ、イギリスといった強豪国の壁は厚く、最後は開催国のブラジルに敗れ10位に終わった。悔しさはまだ残っている。
「リオのときはぎりぎりまで練習に参加できない人がいたりして、チーム全体としての練習の強度や質を上げきることができなかったのが反省としてあった。だからいまは、精度と強度を上げながら常に試合に近い状況でやり続けることが重要だと思っています」
新型コロナウイルスの世界的大流行により、貴重な強化の場になると思っていたワールドセブンズシリーズは今年春からずっと開催されていない。再開されても、東京オリンピックまでにどれくらい試合数を踏めるのかわからない。だから、試合を想定した、中身の濃い練習にこだわる。
「あまり時間がないなかで、練習を無駄にしないようにしなきゃいけない。いままでは、試合で試して、できなかったことを修正して、という時間があったけれど、いまはそれができないので、練習の質にこだわっています」
コロナ禍でチーム活動が自粛だった期間は、走ることをメインに個人練習をやっていた。あまり自信がなかったスピードを鍛えられるチャンスだと、家の近くの公園などでスピードトレーニングを重点的にやった。
8月からは日本代表候補たちの合同練習も再開し、今回の熊谷合宿からは人対人のコンタクトもできるようになった。試合を想定して、オフロードパスの練習も多くやっている。
「いままでみんなで一緒にラグビーをすることが少なかったので、貴重な時間だと思って集中して練習ができています。まだまだプレーの判断がよくないところがあるので、精度を上げていかなければなりません」
以前は、日本代表チームのなかでは“妹的なキャラ”だったことを認める大黒田も、いまは上から3番目の年齢になった。来年の大舞台は27歳で迎える。チームを引っ張る立場であることは認識している。
「チームのなかでは経験と年齢も高くなってきているので、プレーではアタックでもディフェンスでもムラがなく常にいい判断ができるような選手になっていかないといけないと思っています。プレー以外のところでも、いいコミュニケーションをとるようにしたいですし、チームにとって必要なことを、厳しいこともちゃんと言っていかなきゃいけないところがあるので、中心となる選手になりたいです」
もっともっと成長したい。
東京オリンピックまで、あと約9か月。