えらいこっちゃ。
木村課長が、ついに社長になったでー。
愛媛近鉄タクシーでや。
名前の雅裕から「マサ」と呼ばれる50男の働き場所は、大阪の上本町から、その名の通り愛媛の松山に移りましてん。
「みんな、しっかりしてくれているから、やることないねんわ」
それは、ラッキー・バルボアやないかーい。伊予人は優しい。温暖な気候や山海のものなりのよさがそうさせるんやろね。
近鉄ライナーズの副部長から近鉄タクシーに異動したのは2年前の6月。社長を補佐する支配人として経験を積み、今年の6月に松山にやって来た。
今回は単身赴任や。愛妻とは離れ離れになっても、長男の圭佑くんとは近くなった。大分舞鶴でラグビーをしているからな。
三崎からフェリーに乗れば、1時間ほどで大分の佐賀関（さがのせき）に着く。
人生、行って来いでんな。
愛媛近鉄タクシーは55年の歴史を持つ。松山の本社と新居浜（にいはま）の営業所と合わせて121台の車を保有してるんや。車種はジャパンタクシーやクラウン、カムリなどトヨタ製。ラグビーでは熱く戦うけど、ビジネスでは手を組む。ええなあ。
従業員は約200人。大阪経済大や近鉄でLOとしてならしたマサはんは、親しみを持ってもらってる。
「坂田さんの高校の後輩です、っていう運転手の人もおるわ」
坂田正彰はんは地元の新田OB。サントリーのHOとして日本代表キャップ33を持ち、現役引退後はGMもつとめた。
マサはんは150近いグループ会社のひとつの社長になった。それらを統べる近鉄グループホールディングスでは部長級ということや。これまでの課長級からの昇進やね。
これは、企業スポーツでは大切なことや。OBが出世して、予算をぶんどって来て、クラブを存続させる。会社は基本、力のある者の意見が通るんやからね。
マサはんは社長室をあてがわれた。
部屋の扉は開けっぱなしや。いいぞ、みんなにオープン。相談事、ウエルカムや。
「いや、ドアを閉めたら、寝てまうねん」
居眠りせんためかいっ！
しかし、なんで愛媛に近鉄やの。鉄道を敷いてる関西や東海から遠く離れているやん。
「佐伯さんの出身地なんよ」
佐伯勇はん。近鉄中興の祖やね。この国でも有数の鉄道グループに成長させた元会長は、丹原（現・西条市）の出身なんや。
佐伯はんはライナーズにも関わった。1927年（昭和2）、大阪・八尾にある高安の操車場予定地に有志が集まってラグビーをやったんやが、そのメンバーのひとりなんやな。当時の社名は大阪電気軌道（通称＝大軌）。佐伯はんは入社1年目やった。
ライナーズの創部は2年後の1929年。これは、花園ラグビー場の完成に合わせてある。昭和天皇の弟君である秩父宮のお声かかりによる建設に敬意を表したんやな。
日本のトップレベルのチームでは最古の神戸製鋼に1年遅れることになるんやが、ほんまはそれより先やってん。
佐伯はんは1981年に発行された『近鉄ラグビー部50年史』の巻頭に『50年史刊行によせて』という一文を寄せてはる。
当時の近鉄の優勝は全国社会人大会（トップリーグの前身）8回、日本選手権3回と記念誌が出るにふさわしかった。
佐伯はんは1989年に86歳で亡くなった。マサはんはその半年前に入社している。
丹原町には遺品などを集めた「佐伯記念館・郷土資料館」がある。松山から車で1時間ほどの場所をマサはんも訪れた。
「記念館ができるのはすごいことやから」
偉大な先達に対する尊敬は忘れへん。
あんたもバリバリ仕事をこなして、建ててもらうか？
「建てるんやったら、東花園かなあ。でも、それやったら、今里さんを先にしたって」
今里良三はんは73歳。日本代表や近鉄監督を経験。SHとして代表キャップ23を誇った先輩に道を譲ることも忘れへんで。
愛媛の業界は、伊予鉄タクシーが幅を利かしている。本隊の伊予鉄道はバスや百貨店、不動産と幅広い商いでなじみやな。
目標は伊予鉄を抜いての1位か？
「そういうことですわ」
そのためには、客をつかまんとな。
「トップリーグにライナーズが戻ってくれたら、愛媛で試合をやってもらって、ファンのみなさん、タクシーに乗って来てください、って言えるんやけどね」
社会人ラグビーは年明け、25チーム参加で開幕する。トップチャレンジの近鉄は4位までに入れば、セカンドステージに進み、トップリーグ4チームとリーグ戦を戦う。新リーグ構想もあり、入替戦の有無は不明やけど、マサはんのためにも勝たんとな。
構成員3人の大阪エレファンツ「松山会」も帰郷したら近鉄タクシーに乗るんやで。会長、北条から市内の往復で、特急しおかぜは禁止します。ラグビー・ファミリーの力、思い知らしたってや。
■愛媛近鉄タクシー
松山配車センター 089−924−6111
新居浜配車センター 0897−37−3070