ラグビーリパブリック

「ラグビー思い切りしておいで」。スクラムドクター、長谷川慎さんの思い。

2020.09.29

2016年から2019年W杯まで日本代表のスクラムコーチを務めた長谷川慎さん(撮影:早浪章弘)


「ほんとはまだ自分が組みたいのかもしれないです(笑)」

 2007年に現役を引退してコーチの道へ。今季で14年目に突入したのは、ヤマハ発動機ジュビロでコーチを務める長谷川慎さんだ。「スクラム番長」の異名を持つ慎さんだが、コーチングでは自身の経験を語ることはない。

「今と昔のスクラムは違う。今のルールに沿ったコーチングをしないといけません。スクラムに関しては、個人から8人へと考えが変わりました」

 個人で組むスクラムから8人で組むスクラムへ。責任が分散したことで、従来よりもフロントローの負担が減ったと分析する。ただ、それはスクラムを軽視していいということではない。

「スクラムでめちゃくちゃ押されてしまうと、いくら走れる人でも走れない。スクラムは8人全員が役割を果たすことで、今まで1人で踏ん張っていたところを8人で分担できるようになった。そのおかげでフロントローが走れたり、HOが堀江(翔太)みたいにタックルしたり、オフロードしたりできるようになったんだと思います」

 だから考え方が変わっても、スクラムで勝ちにいく姿勢は今も昔も変わらない。

「選手もコーチもどんな試合であれ、不安を残して試合に行きたくない。今日のスクラムで押されたらどうしようと考えた時点で勝負には負けている。不安がないように試合に臨むためには、スクラムが強い方がいいに決まってるんです。だから僕としてはコーチとしてスクラムを不安にさせてはいけない」

 ただ、「大きなところで言えばスクラムはリスタートの一つでしかない」ともいう。そこに慎さんのコーチングへの思いが垣間見えた。

「選手はスクラムだけではなく、ラグビーをしないといけません。僕はFWのスクラムという特別なところを助けてあげる。できるだけ簡単にして、みんなの意思統一を促して、責任を分担してあげる。ラグビーを思い切りしておいでと言えるようにやっています。

 スクラムは全部が全部うまくいくわけではありません。うまくいかなかったときの理由を1000から選ぶのではなくて、10くらいから選ばしてあげたい。一流の選手からそうでない選手まで全員のモヤモヤを消してあげたいんです」

 990の理由を消すために、「スクラムドクター」と謳われるようになった今でも学びをやめることはない。

「いろいろな方の評価に自分自身の評価が今のところ追いついていない。僕のコーチングはまだまだ未熟で、選手と一緒に勉強させてもらう日々です」


 では冒頭の言葉は「スクラム番長」の性なのだろうか。それでも、いまスクラムを組むことはないのか聞けば、笑って一蹴された。

「狙われるから嫌です(笑)。もう自分は組みません」

 いまは「ドクター」に徹する。



〈長谷川コーチにはラグビーマガジン11月号掲載の「短期連載 初心者必見スクラム講座『スクラム知ろうぜ』」でもご登場いただきました。そちらもぜひご確認ください。〉

Exit mobile version