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【ラグリパWest】入替戦だけが大学ラグビーではない。龍谷大学

2020.09.25

入替戦に出ることのみが学生ラグビーではない、と話す龍谷大の藤谷徹監督(右)と小池健雄主将。ラグビー部が日々、練習で使う南大日グラウンドは古都の緑あふれる京都市山科区にある

「意味のないことではない」

 藤谷徹(ひとし)のその一言が荒れかけた場を救った。龍谷大の監督は関西大学ラグビーリーグ委員会に出ていた。
 暦は夏から秋へ変わる頃だった。

 今秋の四部にわたるリーグ戦を「不成立」にして、「親善試合」あるいは「交流戦」に形を変える話がまとまりかけていた。
 コロナの影響で調整が遅れているチームがあるためだった。勝敗は来季の成績に反映されず、入替戦も実施されない。

 その方向性に対して、上位リーグへの昇格を狙うチームから非協力的な意見が出た。
「入替戦がないなら試合しても意味がない」
 それに対しての藤谷の反論だった。

 9月24日、委員会を管轄する関西ラグビー協会は、11月7日から一部に相当するAリーグの開幕と所属8チームが4試合ずつ戦う変則スケジュールを発表した。
 入替戦は四部すべてで行わないことを添付書類に明記している。

 藤谷の発言は自チームの利害を超える。
 Bリーグの龍谷大はこれまで6年連続2位で入替戦に出場していた。その度にAリーグに跳ね返される。入替戦の消滅は、大学からの支援も、今の強化から、最高の「重点」に復活する機会の先送りを意味する。

 それでも、藤谷は入替戦にこだわらない。
「どういう形態をとろうが、試合をすること自体が、学生が力を発揮する場であり、集大成。そこに対していかに取り組んでいくか、ということも大切なことだと思います」

 そして、新しい目標を口にする。
「Bで全勝して、12チームのトップに立つことを目指します。もちろん、我々にとって、最終目標はA昇格です。でも、こうなった以上は、地に足をつけて戦って行きます」

 委員会に出席したひとりは言った。
「藤谷さんのあの一言は大きかった」

 藤谷は京都の神川中の教頭だ。この中学は日本代表キャップ21を持つ坂手淳史(パナソニック、HO)の母校でもある。
 教員と監督との兼務は3年目に入った。かつてラグビー部の顧問をつとめた西京極中では、日本代表キャップ2の安井龍太(キヤノン、FL)の成長に手を貸し、藤森(ふじのもり)中では、ケガが少なくなるように校庭に天然芝を植えた。

 現役時代はPRだった。東山から龍谷大に進む。4年時の1989年には入替戦で立命館大を24−4で破り、初のAリーグ昇格を実現させたメンバーのひとりになる。
 その創部は1929年(昭和4)。関西Aリーグの最高位は3位。大学選手権には7回出場するも、すべて初戦負けしている。

 2007年の入替戦で摂南大に22−62と敗北。18年過ごしたAリーグから降格した。以降、再昇格はない。
 ただ、関関同立に続く、関西有力私大の「産近甲龍」(京都産業、近畿、甲南、龍谷)の一角であるため、高校生の人気は高い。

 主な日本代表はキャップ5で監督経験者の大内寛文(リコー、FL)や現役では同1の伊東力(ヤマハ発動機、WTB)らがいる。
 ジャージーの色は赤。仏教系の大学らしく、梵字が薄く入っている。2013年度、スクールカラーを紫紺から変更したのに合わせて、従来の青から変わった。

 ラグビー部が活動している南大日グラウンドはサッカー、アメフトとの共用だが、今年は人工芝が張り替えられている。
 その新装グラウンドで9月19日にはチームを4つに割り、部内マッチを行った。

「今年に入って初めての試合ですね」
 藤谷はほほ笑む。フルタイムのOBコーチ、FWの河本明哲、BKの室屋達也はもちろん、日本代表キャップ1を持つ羽根田智也(ワールド、LO)や部長の原田太津男(たつお)の姿もあった。原田は経済学部教授。洛北の高校3年間、ラグビー部に在籍した。
 南大日は「オール龍谷」の空気が満ちる。

 79人の選手を主将としてまとめるのは小池健雄だ。兵庫・報徳学園出身のHO。監督の秋シーズンへの思いを理解する。
「目標がなくなった訳じゃあありません。Bでの全勝に向かってやるだけです」
 そして、続けた。
「試合が全部なくなった、僕らの学年は引退ですから」

 藤谷の指導は週末に限られるため、小池を中心にした選手の自主性が磨かれる。
「キャプテンをやったことがなかったので、最初は何をしていいかわかりませんでした」
 高3時の主将は栗原勘之(かんじ)。今、同志社大の副将をつとめる。HO小池、PR栗原のバインドで臨んだ96回全国大会は、3回戦敗退。石見智翠館に19−24だった。

 龍谷大は今年1月から本格的に練習をスタートさせ、3月下旬からコロナのために全体練習を休止した。再開する7月下旬まで、小池はオンラインでの週2回のトレーニングやミーティングの先頭に立った。

「徐々に運営に携わることが楽しくなってきました。色んな人たちの意見を聞きながら、自分たちで回していることが実感できます」

 龍谷大の秋初戦は10月25日に予定されている。相手は元Aリーグで、大学選手権出場実績もある大阪経済大。大阪・摂津にある相手校グラウンドで、キックオフは12時30分。まずは3チームのリーグ戦だ。

 入替戦ではなく、その先にある人間的成長を目指す「リューダイ」。それは学生スポーツのあるべき姿を示している。


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