ラグビーリパブリック

ラグビー金言【28】静寂を恐れない。どれだけ静かでも選手の声を待つ。

2020.09.23

現役時代はPRとして活躍し、U21ニュージーランド代表では主将。Jr.オールブラックスにも選ばれた。(Getty Images)


 2019年のワールドカップを最後にチームから離れた。
 それまでの16年間、オールブラックスのパックに影響を与え続けた世界的スクラムコーチである。

 マイク・クロンさんは1954年、クライストチャーチ生まれ。世界各国のクラブ、代表チームでコーチを務め、30年を超える指導者人生を歩んだ。

 長く指導の現場で過ごしてきたから、スクラムだけでなく、FWプレーのすべてに造詣が深い。
 2012年からはFWコーチを務めていた。

 元警察官。プレーヤーを高みに連れていくとともに、良き人に導くコーチでもある。

【マイク・クロンの金言】

 若い頃に警察官をしていたことを引き合いに出し、コーチングについてこう話したことがある。
「例えばラインアウトを構成するものに6つのものがあるとしましょう。それを指導する、選手たちが実行することは、殺人事件の捜査と似ているところがあります。犯人を起訴まで持ち込むには一つひとつ証拠を積み重ねていくしかありません。何かひとつでも足りなかったら起訴できない。丁寧にやりましょう。『だろう』はナシです。ラグビーのコーチングで言えば、『選手たちはこれはできるだろう、分かっているだろう』ではいけない。必ず積み上げる」

 パーフェクトに見える練習光景に対し、コーチは危機感を持たないといけない。
「選手たちは、自分たちができる範囲の中でプレーしがちです。プレッシャーを受けないラインの深さ、パスが乱れないラインの幅、ボールを落とさないスピード。それを繰り返していれば、選手たちはズーッとそのまま。気持ちよく練習できるかわりに試合でミスをするでしょう。そういった枠の中で選手たちがやろうとするなら、コーチはディフェンスをもっと前に出したり、工夫をしなければいけない。パーフェクトな練習は警鐘を鳴らしている。コーチは、快適な部屋にいる選手たちを外に出してあげることが大事です」

 コーチを始めてまだ日が浅かった頃のことを思い出して言う。
「オールブラックスのメンタルコーチが、私のやったセッションを撮影し、見せてくれました。そして、『いい質問を投げかけていますね。それに対し、いちばん良い答えを口にして、もっとも多く話している人は誰ですか』と言われました。良い解答者は私自信でした。若い頃の私は、選手に問いかけた途端に自分で答えを口にしていた。考えさせること、答えを考えつくまで待つことをまったくやっていなかった。静寂を恐れてはいけないのです。選手たち自身が答えを考えるまで、どれだけ静かでも待つのです」


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