ラグビーリパブリック

貴重な緊張。当事者が振り返るワールドカップ日本大会開幕戦。

2020.09.21

上段左から山田章仁、ユーリ・クシュナレフ。下は具智元(スクリーンショット)


 ラグビーワールドカップ日本大会の開幕からちょうど1年が経った2020年9月20日、オープニングゲームに出場した選手たちがオンラインでトークイベントを実施した。

 丸の内からラグビーの魅力を発信する「丸の内15丁目PROJECT.」が、『ONE TEAM FES @ONLINE0920』を主催したのだ。

 ホームの日本代表からはリザーブのPRだった具智元、ウォーターボーイを務めたFLの徳永祥尭、ベンチから外れたSHの茂野海人がリレー形式で登壇。アウェーのロシア代表からは、SOとして先発したユーリ・クシュナレフが参加した。

 2015年のワールドカップ・イングランド大会で日本代表だった山田章仁がMCを務め、ファンの質問を矢継ぎ早に受け付ける。

「すごく盛り上がっていた分、緊張しましたが、忘れられない経験になりました」

 こう回顧するのはクシュナレフ。対する具も、山田の「緊張した?」という問いかけに「自分はリザーブだったんですけど、頭真っ白になるくらい緊張して、ぼーっとしました。ベンチで緊張したのは初めてでした」。周囲のスタッフの様子を聞かれれば、「スタッフの顔を見る余裕がないくらいでした」と続けた。

 試合前、日本代表の移動用のバスが渋滞に巻き込まれたのは有名な話。徳永は「渋滞に巻き込まれた記憶があって。より緊張度が高まった記憶があります」とも証言する。

 クシュナレフが当時で2度目のワールドカップ出場だったのに対し、日本代表からイベントに参加した3選手がワールドカップのメンバーとなったのは昨年が初めてだった。具はこうも回顧した。

「自分は試合会場に入るまでは『そんなに(従来の代表戦と)違うかな?』といつもの感じだったんですけど…。試合のホイッスルが鳴った時には、いつもと違う感じでした」

 先制したのはロシア代表。前半4分、日本代表のミスを皮切りにトライを奪っていた。しかし、日本代表はハーフタイムまでに12-7と勝ち越し。最終的には30-10で勝った。敗れたクシュナレフはこうだ。

「日本代表が緊張していたこともあり、勝つと思っていました。ハーフタイムにロッカールームへトレーナーが来て『これはいけるぞ』と言い、私たちも自信を持ちました。しかし、試合中、チャンスを活かせず、負けてしまいました」

 イベントでは、ワールドカップ全体の感想や今後の抱負も聞かれた。

 「観客の声に気づいていました」とは、クシュナレフ。「特に少年の声が印象に残っています。そこで知り合った10~12歳くらいの子どもとはいまでも連絡を取っていて、ラグビーのアドバイスをすることもあります」。街では、ファンにロシア語で話しかけられることもあったという。噂される母国へのワールドカップ招致へも、前向きな談話を残した。

「開催されたら素晴らしいこと。それを望んでいます。ロシアは過去にサッカーのワールドカップも開催しました。人々は友好的でインフラも整っています。観光できる場所も多いです。ロシアでワールドカップが開催されれば、ぜひとも遊びに来てください」

 結局、日本代表はプールA・4戦全勝で8強入り。具は今回のイベントで、アイルランド代表戦のエピソードも披露する。

 自身はこの日、前半終了間際にビッグスクラムでスタンドを沸かせている。ただし、退いた後の熱狂ぶりも記憶に残るという。後半18分に福岡堅樹が勝ち越しトライを決めた瞬間を「ベンチが盛り上がって、スタジアムも盛り上がって。そのシーンはいま思い出しても鳥肌が立ちます」と紹介した。

 自身についてさらに聞かれると、南アフリカ代表に敗れた準々決勝について言及。静かにリベンジを誓った。

「スクラムはワールドカップを通して安定していたけど、南アフリカ代表(を相手)にはうまく組めなかった。次はスクラムも試合も勝ちたい」

 日本代表が挑んだ全5試合でウォーターボーイを務めた徳永は、グラウンドレベルから見た印象的な選手を聞かれても「選手一人ひとりに注視して見られるほど余裕がなくて」。大歓声が飛びかうなか、イヤホンに入る首脳陣の指示に耳を傾けていた。

 時計の針をロシア代表戦前に戻すなら。そう聞かれれば、より具体的に反省点を明かした。

「ロシア代表戦の前よりも、もうちょい前に戻りたいです。というのも、ジェイミー(・ジョセフ ヘッドコーチ)のもとでメンバーに入るには信用を勝ち取らないといけない。それはワールドカップに入ってからでは遅かった。フィジー代表戦(7~8月にあったパシフィックネーションズの初戦。徳永はベンチ外だった)などでもっとアピールすれば、ワールドカップでもっとメンバーに入れたと思う」

 2023年のフランス大会では試合出場を目指すが、その前に所属先の東芝で優勝を狙う。

「日本代表に選ばれるには自分のチームで頑張らないといけない。フランス大会へ行くのは目標にしていますけど、所属する東芝から数多くの選手が選ばれるようにしたい気持ちが強い。(国内最高峰の)トップリーグで優勝するのが目標です」

 茂野も、出番のなかった日本大会を経てさらなる進化を誓う。

「僕自身武器だと思っているのは強気な性格。ディフェンスのタックルの部分でも勝てるとは思っています。あとはボールタッチ回数をもっと増やしたい。それは僕の今後の課題。そこを伸ばしていけば確実に成長しますし、ワールドカップも見えてくると思います」

 2020年の代表活動が見合わせとなるなか、ファンからライバルについて聞かれると「ライバルは自分ですかね」と応じた。

「自分自身に勝たないと成長というのは見られないと思います。日々、成長につなげられる行動をしていこうと思います」

 4者とも熱狂に包まれた44日間を相対化していた。

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