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【再録・ジャパン_09】 姫野和樹[2017年12月号/解体心書]

2020.09.18

「キャプテンだから一番走らなきゃいけないし、一番先にタックルにいかなきゃいけない。僕をキャプテンにしてくれたジェイクに感謝しています」(撮影:長岡洋幸)

*『ラグビーマガジン』にかつて掲載された日本代表選手のインタビューを抜粋して再録

【運命のキャプテン】
[連載・解体心書] 姫野和樹(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)

 出会いは必然と言われる。それでも一人の将との出会いで、ここまで運命が変わる選手もいないだろう。姫野和樹。ポテンシャルの高さは高校時代から知られる存在だった。それが憧れのチームに進み、世界的名監督と出会い、より自らを磨くチャンスを与えられた。トップリーグでの活躍が認められ、この秋の日本代表にも名を連ねた。この出会いのストーリーは、まだ始まったばかりだ。(文:森本優子/年齢、所属などはすべて当時のもの)

「2年後の 年W杯に向けて、トヨタから代表選手を出したい」。今季、就任したジェイク・ホワイト監督が語っていたプランが、早くも動き始めた。めた。10月19日に発表された日本代表には表には、トヨタから姫野和樹と、フェツアニ・ラウタイミの名前があった。

 愛知出身の姫野は新生・トヨタの象徴として、入社1年目で主将に抜擢された。豊田市はW杯開催会場でもあり、トヨタからの代表選出は、より世間の注目を集めそうだ。

  姫野は名古屋市中村区出身。父・信幸さんは、プロではないが競輪選手で182センチの長身。姫野はサイズと反射神経を受け継いだ。

「小さい頃から体は大きくて、並ぶといつも列の一番後ろ。リレーもいつも1位でした」

  小学校時代にやっていたのは、サッカーと野球。野球は4番でショート。サッカーはゴールキーパー。どちらも続ける気はなかった。

 野球は「中学に入って坊主にするの 西陵だったが、まだ花園に出たこと が嫌で」辞めた。サッカーを辞めるときは、関係者が「絶対に日本代表になれる」と家まで説得に来たほどだった。

  そんな少年が夢中になったのがラグビーだった。名古屋市内の強豪・ 御田中に入学。先生や先輩に誘われて1週間の仮入部をした。

「お試し入部だし、面白くなかったらすぐやめようと思ったら、見事に はまりました(笑)。自分の身体を最大限に活かせる。身体のぶつかり あいで自分の力を証明できるのが楽 しくて。それが楽しくて、今もやっ てる感じです」

  高い身体能力を存分に活かせるが ゆえに、ラグビーに魅せられた。

「とにかくやんちゃでした。今思うと恥ずかしいくらい。授業はそれほど真面目じゃなくて、職員室にちょくちょく呼び出されてました。勉強 より部活に熱中してて、授業が終 わったら即グラウンドに出て、少し でも早くラグビーボールに触りた かった。今じゃ考えられないけど(笑)、それが僕の原点です」

  当時、県内の高校で強かったのは西陵だったが、まだ花園に出たことのない春日丘に進む。

「宮地監督にも熱心に誘っていただきましたし、西陵と春日の試合を見に行ったら、ボールをワイドに振っていた。自分に合うのはこっちかなと。春日がまだ花園に行けていなくて、それもいいなと」

  春日丘では1年からNO8でレ ギュラー。見事花園初出場を成し遂 げ、1年で花園の芝を踏んだ。2年 目も花園に出場するが、3年目は県 予選ベスト4で敗退。大学は、岩出 雅之監督が1年の頃から誘ってくれ た縁で、帝京大に進学した。

「1年の冬に、たまたま愛知県に用事があって学校まで来てくださったんです。それまで自分が常勝軍団で やるなんて考えたこともなかったけ ど、そこから強いチームでやりたい と意識が変わりました」

 高校生活を終え、帝京大に入学直 前の3月、ジュニア・ジャパンに選 ばれて豪州・NZに遠征。スーパー ラグビー予備軍を相手とするパシ フィック・ラグビーカップに参加し た。結果は6戦全敗だったが、姫野 にとっては忘れられない遠征とな る。

「高校では結構やれていたので、自信を持っていったら、周りはトップリーグの有名選手や大学の実力者ば かり。そこで挫折を味わいました。

 1試合目(対ブリスベンアカデミー 戦)、メンバーにも入れなくてスタ ンドで試合を見ていた。試合が終 わってバスで仲間を待っていると き、僕は窓側に座ってて、ぼんやり と光に照らされたスタジアムを見な がら、ポロッと泣きました。〝俺、 何してんやろ〞と。本当に悔しかっ た。次の日から、練習でがんがんア ピールしたら、2試合目はリザーブ に入れて、その後は4戦連続先発で 出られました」  周囲は佐々木隆道、村田毅、堀江 恭佑ら、名だたるトップリーガーだ。 そこで高校生が奮い立ってリザーブ に入ってしまうところが、期待の高 さを証明している。遠征には、前年 に日本代表ヘッドコーチに就任した エディー・ジョーンズ氏も同行。筑 波大2年で参加していた福岡堅樹を すぐジャパンに抜擢した。姫野も ジョーンズ氏から高く評価され、7 月に菅平で行われた日本代表合宿に 呼ばれた。だが、そこでアクシデン トが襲う。

「最初の練習で足の甲をケガしてし ったんです。高校のときから骨にひびが入っていて、手術したほうがいいと言われていたのを保留していたら、大事な時に爆発してしまった」

「1年半、ラグビー出来なかったん ですけど、自分にとってはマイナス になってない。どう過ごすかと考え たとき、監督から身体が細いと言わ れていたので、とりあえずデカくす ることから始めようと。

 1日2回のペースでウエイトし て、ご飯を食べまくったら、入学前 は百キロなかったのが118キロになっ て、プロレスラーみたいになりまし た。スクラムコーチの相馬さんが岩 出監督に〝PRにしたい〞と言ったみ たいですけど、さすがにジュニア・ ジャパンにLOで選ばれてるからそ れはないだろうと、免れました(笑)。

 2年の夏合宿で復帰したら、重すぎて走れなかった。早稲田戦で復帰 しましたけど、後半のインパクトプレーヤーという位置づけでした。4 年で110キロに絞ったら走れるよう になって、スタートで出させてもら いました」  本人の希望はFL。岩出監督のア ドバイスでLOも経験した。

「自分の好きなプレーしかしてな かった。知らなかったという表現が 正しいと思うんですけど、ブレイク ダウンでの仕事やタックルといっ た、ボールを持っていないときの仕 事や価値観を一切知らなかった。そ れを監督が見抜いて〝お前は自分に 足りないものをLOをやることで気づけ〞と。  今年になってから、自分の中では より良くなったかなと。キャプテン だから、一番走らなきゃいけないし、 一番先にタックルにいかなきゃいけ ない。僕をキャプテンにしてくれた ジェイクに感謝しています」

 大学選手権は負けなしで過ごし、憧れだったトヨタ自動車に入社した。

「中学生のころ瑞穂に行って、トヨ タを応援してました。名古屋の野球 少年がドラゴンズに憧れるように、 僕はトヨタが憧れだった」

  ファンだったのは、いまクラブ キャプテンを務める北川俊澄。一緒に写真を撮ってもらったのが思い出だ。入社後間もない5月中旬、その北 川とともに監督に呼び出された。

「ジェイクは5月に1週間来日した んですが、指導するのでなく、ずっ と練習を見てる感じでした。最後の 日に北川さんと呼び出されて、〝キャ プテンをやってほしい〞と言われま した。最初は〝俺が?〞と思ったんで すけど、憧れのチームでキャプテン をやれることは光栄ですし、ジェイ クは〝 年に向けて、もっと成長し てほしいという期待も込めてる〞と いうことで、驚きはしましたけど、 ビッグチャンスだと」 その場で即答。ホワイト監督は、 選手としての能力だけでなく、素直な性格や、物事を前向きにとらえる 資質を見抜いたのだろう。

 今いちばんくつろげるのは、寮の 近くのスターバックスで、一人でラ グビーノートを整理したり、本を読 んだりする時間。社会人になって、読書の習慣がついた。

「やっぱり自分の言葉で喋らないと、 本当に伝わらない。何より行動で示 さないと。それをやり続けることで、 言葉の重みも出てくると思う」

  まさに地位が人を作る。W杯優勝 監督の眼力恐るべしである。

FILE 
 
●名前/姫野和樹(ひめの・かずき)
●生年月日/1994年7月27日生まれ・23歳
●身長・体重/187㌢・108㌔
●学歴/岩塚小→御田中→春日丘→帝京大
●代表歴/U20日本代表、ジュニア・ジャパン
●家族構成/父、母、姉、妹
 
RUGBY
●ラグビーを始めた学年/中1
●ラグビーを始めた頃の憧れの選手/リッチー・マコウ
●ポジションの変遷/CTB→NO8→ LO→FL
●一番印象に残っているゲーム/大学4年時の大学選手権、東海大との決勝
●尊敬する選手/マイケル・フーパー。「僕にないものをすべて持っているから。ブレイクダウンの絡み、ランニングのコース…。それを身につけたらさらに成長できると思う」
●目標とする選手/マイケル・フーパー
●もっとも敵にしたくない相手/特になし
●どこに勝つのが一番うれしい?/チャンピオンチーム
●影響を受けた人物/帝京大・岩出雅之監督
●気に入った遠征地/イギリス ケンブリッジ
●好きなラグビー場/秩父宮
●好きな海外チーム/レッズ
●ラグビーのゴールは?/わからない。決めたくない
 
自分のこと
●好きな食べ物/ハヤシライス、肉
●苦手な食べ物/寿司、刺身
●好きな本/「海賊と呼ばれた男」。大藪正光チームコーディネーターが選手に配った本
●好きなタレント/木村文乃
●よく見るサイト/ラグビーリパブリック
●好きな映画/グラディエーター、マーヴェリックス。「試合前はグラディエーターみたいになりたいなって、映画にも出てくる“アメイジング・グレイス”を聴いて心を落ち着かせます」
●好きな俳優/ライアン・ゴズリング、ラッセル・クロウ
●好きな音楽/J-POP
●趣味/映画鑑賞、読書
●ニックネーム/ヒメ、ヒメちゃん
●尊敬するスポーツ選手/イチロー
●いちばん落ち着ける場所/寮の近くのスターバックス
●試合前に必ずやること/ノートの整理(スターバックスで)
●好きなプロ野球チーム/中日ドラゴンズ。アライバ(荒木・井端)のファンだった。
「小学生のころ、ユニフォームを着て名古屋ドームに行ってました」
●ラグビーをやっていなかったら/サッカーか野球
●帰省したとき必ず食べるもの/母の料理(から揚げ)
●トヨタに入って一番変化したこと/常に身体(行動)で示す
●名古屋自慢/ご飯がうまい
●お勧め/ひつまぶし
●これがなければ生きていけない!/映画。NET FLIXに登録していて、iPadで1日1本は観る。 洋画オンリー
My Favorite
●キャプテンになったことで、積極的に読書するように。「“国家の品格”を呼んで、武士道が大事だということで読み始めたんですけど…難しいです。わからない単語は携帯で調べるので、結構時間かかってます。でもそうやって調べるのが大事だと思うので」