ラグビーリパブリック

主体性と革新を。大久保直弥HCを携え、ヤマハ率いる堀川ビジョン

2020.09.18

1972年生まれ、47歳。2006年に33歳の若さでヤマハ監督となって以来、指導陣の主幹を担う


 2年目の堀川隆延GM兼監督[写真]の元、新体制で強化を進めるヤマハ。大久保直弥HC(ヘッドコーチ/前サンウルブズHC)を筆頭に、テクニカルアドバイザーには、Jリーグ清水エスパルスなども指導してきた陸上コーチの杉本龍勇氏(法大経済学部教授)が新たに名を連ねている。長谷川慎アシスタントコーチは、スクラムコーチから「ハイパフォーマンスコーチ」と肩書きを変えている。総指揮を執る堀川氏に来るトップリーグへの構想を聞いた。

――2021年1月からのシーズンを想定してどんな準備をしているか、昨季からの流れをおって教えてください。

 前回のトップリーグに向けて責任者が清宮(克幸=前監督)さんから私になり、変わったことと、変わらなかったことがあります。

 まず変わらなかったのは、ヤマハスタイルです。これまで作り上げてきたラグビー、ストラテジー(戦略)の独自性、そこに毎年、新しい要素をオンしていく作業、常に新しいものを目指す革新のスタンスは貫いていきます。

 変わったことは、チームカルチャーをより意識していくこと。特に、オーナーシップ、主体性を選手一人ひとりが持って前に進もうと話しています。清宮さんのようなカリスマ的リーダーがいなくなり、私がその代わりをするのか? それはとてもできることではないですよね。指導者の交代を機にして、今後は一人ひとりがよりクラブに、チームにコミットするチーム作りに、思い切ってチャレンジしようと考えました。

 前シーズンは6節で中止となってしまいましたが、1節でトヨタに勝ち、2節の神戸戦は12点差で敗れました。ターゲットにしていたこの神戸戦で、新しい取り組みの成果を実感することができました。かつてのヤマハだったら、大敗をしているパターンだったと思います。グラウンドにいる彼ら自身が判断をして、自分ら動いたから粘れた。私たちが目指しているチームの兆しを感じました。

 粘り強いチーム。負けにくいチームですね。

 私が敬愛する指導者に、クリストフ・ユリウス(現ボルドー・ベグル)がいます。経済力に乏しいクラブを渡り歩いては強くするタイプのコーチなのですが、彼とお会いできた時に、いろいろな話を聞きました。「潤沢な資金に恵まれないチームこそ、カルチャーを作るべきだ」「粘り強いチーム、負けにくいチームになる」。そんな言葉が印象に残っています。

 ‘19年シーズンは、これまでで最も長い準備期間を与えられたシーズンでした。57週ありました。

 チームにカルチャーを作る、そんな大きなテーマに取り組むのには、ちょうどよかった。カップ戦から、選手たちにはさまざまな負荷をかけました。メンバリングの面、リーダーシップの面。それが、身を結びつつあったので、リーグの中止は残念でしたね。

――来る‘21年シーズンに向けて、大久保HCを獲得しました。

 ヤマハには選手を育成をしながら強くする文化があります。無名選手を激しい鍛錬でトップレベルに押し上げていく。それを、日本人スタッフがやることに意味があると感じています。さらに、今後は日本のトップチームであるだけではなく、世界にチャレンジをしていきたい。

 大久保 HCに来ていただいたのは、彼が世界を知る日本人指導者だからです。サンウルブズでの働きはもちろんですが、彼とは以前、ジャパンAで一緒に仕事にあたったことがあります。ヤマハに共通するコーチング哲学を感じました。それは、「厳しい状況で、厳しい選択ができるか」を基準にしていることです。ああ見えて、彼はとても緻密なタイプなんです。「チャンピオンチーム」の持つ文化、「ここぞの場面で取り切るチーム」のあり方を、彼に植え付けてほしいと考えています。ヤマハの試合を見て彼が言っていたのは、重要な局面でのプレーの甘さ、でした。

――杉本コーチの存在も大きそうですね。

 彼自身が陸上短距離のメダリスト。先日、初めてのセッションをしてもらって、「1回でこれだけ動きが変わるものなのか」と驚きました。38歳のPR、山村の走りも確実に変わりました。これはかなり大きなインパクトになると思います。これまでのヤマハが取り組んできた革新はストラテジーのみ。この10年、身体的なプレースピードにはほぼ手をつけていません。そのぶん、伸びしろは大きいと感じます。

――長谷川慎さんは肩書きが変わりました。

 やはりワールドカップで世界との戦いの最前線にいたコーチ。彼にはスクラムに限らず、人材の能力を高めていくためのイノベーターになっていただきたい。個々の選手がパフォーマンスを伸ばす環境を作ってほしい。

 ファーストミーティングで選手たちに伝えたのは「記憶に残るナンバーワンチームになろう」という言葉です。

 私たちが掲げる「革新と情熱」で、観る人を魅了したい。すべては、チームにカルチャーが根付くかどうかにかかっています。

⚫︎ヤマハ 2020-2021 新体制 [7/27発表・抜粋] *は新任
代表=*大谷到
監督兼GM=堀川隆延
ヘッドコーチ=*大久保直弥、ハイパフォーマンスコーチ=長谷川 慎
コーチングコーディネーター=大田尾竜彦   
スキルコーチ=モセ・トゥイアリイ              
テクニカルアドバイザー=*杉本龍勇
プレイングアドバイザー=*名嘉翔伍          
主将=大戸裕矢、副将=*ヘル ウヴェ、ヴィリアミ・タヒトゥア