9月6日に熊谷で行われた合同セッション、専大は筑波大と、20分区切りの実戦練習を行った。
両チームのベストメンバーがそろったはじめの40分のスコアは専大0-21筑波と「完敗」だった。しかし専大は、スクラムだけは意地を見せた。
この試合で専大のゲーム主将を務めたのが、右PRの栗山塁だ。
胸板も盛り上がった背も厚く堂々たる体躯だが、176㌢の体格は、大学強豪の中に混じると小柄にも見えてしまう。
それは専大FW全体の傾向でもある。例えば、この日、左PRのブラウン健人は167㌢。それでも、筑波大に対してはスクラムでは終始優勢を保った。20分×4本の実戦練習後のスクラムのみのセッションでは圧倒していた。
「きょうが、4年生になって初めての他校との交流だったので、まだ全体の中の立ち位置、自分たちの強さがわかるわけではありませんが」と栗山は神妙。
「ただ、リーグ戦が始まって自分たちのスクラムが実際に優位でも、そうでなくても、自分たちのやるべきこと、方向性は変わらないので。これを突き詰めていくだけです」
実際のパックを見ると、組んでからのヒザの粘りといい、人の塊がより小さくなるように見える姿勢の沈み込みといい、応援したくなるスクラムだった。両プロップの背中とお尻は曲がらず、ひねらず。まさに堅牢な柱のよう。沈み込みから一瞬の間を置いて、相手の結束が「ざざざっ」と崩れ後退する。
実戦形式では完敗したが、このスクラムセッションでは、専大FWの表情に精気が戻った。スクラムは、小兵のこのチームにとって、固めておきたい一つの拠点だったからだ。
チームを3番の位置で引っ張る栗山は、桐蔭学園出身。高校で1学年上のPR、石田楽人に声をかけられて、専大に行くことを決めた。
「石田さんは、ラグビーでは厳しいこともしっかり言ってくれる先輩。オフはフランクに話をしてくれて、高校時代から頼れる存在でした」
そして、進路選択には、もう一つ密かで小さくはない理由があったという。
それは、専大の寮のごはんのおいしさ。
「体験で練習をしにきたとき、ごはんをご馳走になりました。それがすごくおいしくて。家から出るなら、ここのごはんを食べて過ごしたいなと思いました。ボリュームもあるし、できたてほかほか。今でも、それは幸せだなって思います」
話しているだけで、そのおいしさが再現されるのだろう、なんとも言えない笑顔に、毎回の食事への感謝があふれていた。
「今年は休校もあった。今の時期は3食を寮で食べています。どうしても単調になる生活で、食事の意味は大きい。今年は余計にそれを感じます」
昇格3年目、栗山にとっては4年目の勝負シーズンが、ウイルス感染症の影響で特異な1年になってしまった。
「昨年は5位で入れ替え戦を回避、今年もそれ以上を目指すには、当然、これまで通りではダメなんだと思っています。僕らから仕掛けて、ボールを動かして走り勝つためにも、セットプレーは本当に重要で。その意味でも、初めての外とのセッションで、手応えがつかめたのは大きい」
入学時の体重103㌔から、1年で115㌔まで増やした。大学ラグビーで生き残っていくには体の強化が絶対だと覚悟していた。その延長線上で、今はリーダーとして専大のジャージーを背負い、2020年シーズンの航海に漕ぎ出そうとしている。
開幕は10月4日に定まった。相手は、昨年7点差で敗れた大東大だ。その決戦に向けて栗山類はきょうも、力を出し切り、スクラムを牽引し、仲間を鼓舞して、おいしいごはんで心を満たす。