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東京五輪へ向け、お役御免とはなりたくない。セブンズ愛する32歳の坂井「恩返しがしたい」。

2020.09.09

坂井克行。7人制ラグビーで最も世界を知る日本人選手(Photo: Getty Images)


 来年夏に開催予定の東京オリンピックを大きな目標とする男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表の候補選手たちが、9月7日から北海道で合宿をおこなっている。新型コロナウイルス感染症対策として、これまで何か所かに分かれて少人数グループで練習等を実施してきたが、久々に全体で集合しての合宿となった。

「初日の午前中の練習がフィットネステストから始まった。非常にきつい合宿がまた再開するんだなという思いです」

 そう話すのは、北海道合宿がスタートした日に32歳の誕生日を迎えた坂井克行だ。セブンズのキャリアは11年で、2016年のリオオリンピックでも活躍した経験豊富な選手。ワールドセブンズシリーズでは日本代表歴代最多の204試合に出場し、通算825得点、73トライも日本選手では断トツのレジェンドである。

 東京オリンピックが1年延期になったことについて訊かれると、「1年でよかったというのが正直な感想です。また4年後となると、もう歳も歳なので。いまは経験とかを売りにしていますが、若い選手が4年間で経験を積んでしまうと、『坂井はお役御免だな』ということも考えられる」と言って笑った。

 4年前のリオオリンピックで男子セブンズ日本代表はベスト4入りの快挙を遂げた。プールステージの初戦では優勝候補のニュージーランドを倒し、世界中を驚かせた。
 しかし、そのときの中心メンバーのひとりである坂井は、国内の7人制ラグビーをめぐる環境について憂慮している。セブンズが好きだから、東京オリンピック後の将来にも思いを巡らす。

オンライン合同取材で話す坂井克行

「極論な話、例えば明日オリンピックが中止になると決まったら、いまと同じような環境、メンバーで合宿が組めるのか。リオで4位になったのに、その後の合宿のメンバー招集はうまくいかず、かつかつでした。当時ワールドシリーズのコアチームだったにもかかわらず。そのときに力を貸してくれた橋野さん(橋野皓介=東京オリンピック1年延期決定後、第二次オリンピックスコッドから離脱)らもいまはいないということからも、強化という意味では同じことを繰り返してはならないと思うんです。強化体制が整うことが大事。セブンズに対して誇りを持てるような環境を作るのはベテランの仕事だと思っています」

 日本ラグビー協会に望むことは山ほどあるに違いない。しかしそれは別にして、いちばん大事なのは選手の意志だと坂井は強調する。

「セブンズをやっている延長線上にオリンピックがあるのであって、オリンピックに出るためのセブンズではない。自らの意志でセブンズがやりたいと思えるようなチーム作りがいちばん大事かなと思います。いきなりセブンズ契約できるという話があればいいですが、それは僕にはコントロールできないところなので。まずはいまいるメンバー、もしくはセブンズに興味があるメンバーが、セブンズをやりたいと思えるようなチーム作り、雰囲気作りというのが非常に大事になってくると僕は思っています」

 桑水流裕策、福岡堅樹、後藤輝也といったリオオリンピック経験者が東京オリンピックを目指すスコッドから離脱したいま、坂井の存在は貴重だ。4年前に番狂わせを起こしたが、強豪国との差を強く感じたと当時を振り返る。
「リオのときにいちばん痛感したのは、世界で常にトップ4に入るチームと一発勝負で当たったときの強さです。具体的に言うと、準決勝のフィジー、3位決定戦の南アフリカに関しては、ワールドシリーズのプール戦で何回か当たったことがある相手ですが、そのときとは比べものにならないくらい強かった。日本に対してなめてかかってこなかったチームは本当に強いということを思いました。それと、日本はあのとき5試合目、6試合目だったんですが、体力的にはかなりヘトヘトの状態でした。しかし3位決定戦で対戦した南アフリカは、『6試合目の10分でこのキレか!』というくらい体がすごく動いていて、その差は非常に感じました」

北海道で合宿をしている男子セブンズ日本代表候補の選手たち ©JRFU

 セブンズは15人制に比べ、番狂わせが起こりやすいと言われる。相手の調子も関係してくるが、こちらの戦術がハマれば世界に勝てるチャンスがある、というころが大きな魅力のひとつだと坂井は言う。
「そうはいっても簡単に勝てる世界ではない。いくら練習しても、世界の舞台に行ったらコテンパンになって帰ってきたということもいっぱい経験してきました。リオでは、ニュージーランドだけに照準を絞って大会に臨んだと言っても過言ではないくらい徹底的に準備をしました。それが本当におもしろいようにハマって勝ちましたが、あれだけ準備をしたにもかかわらず、点差にしたら2点差(14-12)だったことを考えると、世界に勝つにはまだまだ差があるということも同時に頭に入れなければならないと思っています。昨季ワールドシリーズを振り返っても、まだまだ差はあると僕はとらえています」

 東京オリンピックでのメダル獲得へ向け、やることはたくさんあるし、時間もたっぷりある。
 チームはいま、最もこだわっているのはベーシックな部分だ。セブンズはパスミスひとつ、ディフェンスの立ち位置ひとつで失点につながるスポーツ。1年延期になったことをプラスにとらえて、基本のところをもう一度見つめなおして取り組んでいる。
 坂井は、個人としてはディフェンスが永遠の課題とし、力をつけていきたいと語った。

 もちろん、成長した部分はある。リオのときと比べたら、キックオフでコンテストできるチャンスが増えてきたと坂井は実感している。
「当時はコンテストできる人が桑水流さん一択でしたが、いまは190センチを超える選手が増えています。セブンズのセットプレーでいちばん大事なのはキックオフ。もう一回マイボールになるかならないかで試合は大きく変わるので、ここは非常に大きな変化だと思っています」

2015年のロンドンセブンズでシールド優勝のトロフィーを掲げる坂井克行(Photo: Getty Images)

 セブンズが好き。自らを奮い立たせるものは何かと訊かれ、坂井はそう答えた。
「セブンズにかかわって11年。協力してくれる家族に感謝しています。身長は172センチであまり大きくないですが、けがをしない体に産んでくれた親にも感謝したいと思います。そして、織機(豊田自動織機)の一員ですので、トップリーグよりもセブンズを優先させていただいている会社にも感謝しています。とにかく、何がモチベーションかというと、僕はセブンズが好きだという一点に尽きる。当然、シャトルズにも成長させてもらいましたが、セブンズがよりいっそう自分を成長させてくれたと思っています」

 早稲田大学の3年生だったころ、レギュラーではなかったにもかかわらず、セブンズから声をかけてもらい、ラグビー人生が大きく広がった。2012年4月に男子セブンズ日本代表のヘッドコーチに就任した瀬川智広氏(2016リオオリンピック後に退任)は、当時23歳だった坂井にキャプテンを任せ、期待された青年は国際舞台で経験を積み重ねていった。
「いろんなつらい思いもいい思いもしながら、32歳までやってこれたのはセブンズのおかげだと思っています。僕のモチベーションというのは、セブンズが好きだということと、セブンズに対して恩返しがしたい、という思いだけです」

 リオのときと同じなら、東京オリンピックで男子ラグビー日本代表の最終登録メンバーに選ばれるのは12人だ。坂井を含め、候補選手たちは熱い思いをもってチャレンジをしている。