元スコットランド代表主将のグレイグ・レイドローが来日するニュースは、ラグビーファンを驚かせた。レイドローはNTTコムと契約し、2021年1月からのトップリーグへの出場を目指す。
来るシーズン、史上初の4強入りを目指す新興クラブは、なぜレイドローとサインしたのだろうか。今年10月に35歳となる老獪なSHの獲得の裏には、グラウンド内外における戦略があった。内山浩文ゼネラルマネージャー(GM)が取材に応じ、その背景を語っている。
レイドローが千葉・浦安市にあるNTTコムの施設へ訪れたのは、2019年。ワールドカップ日本大会に向けた練習会場として、国内トップクラスと言われる豪華なジム、クラブハウス、2面ある天然芝グラウンドを使用。施設の設立のバックボーンを大企業が支えている点も含め、興味を持ったようだ。
チームがレイドローに求めるのは、「知識、経験で教えてくれる部分が多い」と内山GM。試合で本人の活躍を期待するのはもちろん、その知見で周囲の日本人選手を成長させて欲しいとも考えている。自らが採用時代に獲得した金正奎共同主将の名を挙げ、こんな話もしていた。
「うちにはいい主将がいる。ただ、うちはラグビーの強化以外でも育成を図ろうとしている。だから、(長年チームの先頭に立つ)正奎のカテゴリーももう1段階、上げられたら。その点、(レイドローからは)学ぶことが多いと思います」
グラウンド外でも頼る。「ラグビー以外の層へのリーチを考えた」。つまりはワールドカップなどで何度も日本代表と対戦してきたレイドローの持つ物語性、キャラクターにも注目。「彼の象徴的なキーワードとして、リーダーシップ、キャプテンシーが挙げられます」とし、その知見を講演開催や地域連携活動でも共有したいと話すのだ。
首尾よく事が運べば、レイドローに日本の経営者向けのリーダーシップ論を語ってもらう時が訪れるかもしれない。内山GMが続ける。
「全員が役割を果たすこと、目的意識を共有すること、自分たちに疑いを抱かないことが必要…。こういう(レイドローが普段から強調する)ことを(希少な実体験に基づき)教えてくれる人はなかなかいない。正確な判断を下せるのは(周りからの)信頼があるからだ、自分の置かれた環境で自分を証明するため、努力し、(その場に)適応して学んできた、という話もします。まさにこれは、道徳の世界の話です。ラグビーの強化のためだけに選手を獲得するのではなく、選手をオープンにしていって、ラグビーの醍醐味をいろんなところに枝分かれさせ、子どもたちへの教育、管理職向けの講演などとタイアップしたいと考える…。そういうチームは、これから多くなると思いますよ」
日本では2022年1月以降、従来のトップリーグと異なる新リーグが発足予定。クラブの事業性(チケット販売などによる利益の確保)や地域活動がこれまで以上に要求される。
内山GMは以前から、新たな取り組みを始める際は所属選手の意見を聞いてきているという。特に日本代表経験者で2019年加入の山田章仁からは、顧客満足度を高める目的で有益な話し合いができているそうだ。
「勉強になりますよ、彼らの話。最近は社員選手でもいろんなことを考えてくれる人もいる。そもそもトップリーグに来る選手って、もともといたチームでリーダーになっているなど(社会人としても)光るものがある。昔、ラグビーをやっていた人たちって、社会でも偉くなっているじゃないですか。いまは(競技力向上で)仕事と向き合う時間が減っているだけで、持っているポテンシャルは高い」
欧州市場の主役クラスたるレイドローがその輪に加われば、マネジメントサイドと選手サイドの相関関係はさらにおもしろくなるか。内山GMは、今度の新リーグの事業計画についてレイドローの見解を聞きたいという。
「一流の目線で評価してくれるのはものすごいプラスです。僕ら(社員スタッフ)も(これからの変化に)適応し、学び続けなきゃいけない。その学ぶ機会を、選手たち(との交流)に求めているところがあります。やはり、プロの世界のいろいろなことがわからないから。これからの各チームは、強化につながり、かつ学ばせてもらえる選手を(獲得対象として)選んでいくようになるんじゃないかな」
欧州ラグビー界きっての大物の波及効果を十分に享受すべく、契約期間は2年とした。レイドローを呼んだ効果が、レイドローが去った後にも見られたらいい。