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魅惑の「オフロードパス」には手順がある? 早大の古賀由教が自宅で見つけた法則。

2020.09.05

古賀由教。2季連続の大学日本一を目指す早稲田大学のキーマンのひとり(撮影:向 風見也)


 根っからラグビーが好きだ。早大の古賀由教は2020年春、ひたすら過去のゲームを観た。

「ラグビー理解力を高めるため、ほとんど毎日、1回は試合を観るようにしました。自分の去年の試合は10試合程度だったので、それ以外にも去年のワールドカップ、昔のワールドカップ、今年途中で終わったシックスネーションズ(欧州6か国対抗)、スーパーラグビー(国際リーグ)と、(テレビなどで)やっている試合はほとんど見ました」

 おりしもチームは、東京・上井草にある強化指定選手中心の寮を一時解散させていた。古賀も兵庫県の実家へ戻っており、自主トレと並行し頭の訓練に時間を割いた。

 画面の向こうから感じ取ったのは、オフロードパスの有用性だ。

 タックルをされながら球をつなぐオフロードパスは片手でボールを操る形が多く、即興性と縁が強いようにも映る。そのため日本国内では、「強豪国の手足の長い大型選手向きのプレー」として忌避されがちだった。

 ところが昨秋のワールドカップ日本大会では、日本代表の多国籍軍がオフロードパスを多用して鮮やかなトライを演出。市民権を得ていた。

「日本人の概念もいいふうに崩れたと思っていて、他の試合を観る時もオフロードパスに重点を置くことが多くなりました」

 こう述懐する古賀は、「自粛期間」の直前にニュージーランドのウェリントンへ留学。今年2月中旬からの約1か月間、スーパーラグビーのハリケーンズの面々と汗を流していた。ここでは、オフロードパスが才能に依拠するプレーでないと肌で感じたという。

「ハリケーンズの選手も、オフロードの練習をしていて。『もともと皆がうまかったわけじゃなくて――互いの声(試合中の連携)もありますが――まずはスキル練習があって、ああいうつなぎができるんだ』と思いました。日本代表の選手もたくさん練習して放れるようになったと、記事で読んでもいました」
 
 複数の試合に触れながら留学経験を思い返したことで、古賀は新たなトレーニングメニューを考えた。

 テレワーク勤務中だった兄の大就さんをパートナーにして、オフロードパスの想定練習を実施。同大OBでもある兄の動きに沿って、投げるべきか、投げざるべきかを判断する。

「コーチ陣と動画を共有して『こういう練習は、しても大丈夫ですか』と聞いたうえで、やっていました」

 身長175センチ、体重82キロ。一線級の選手にあっては決して大柄ではない古賀だが、反復練習を通して投げ手のサイズや偶発性と無関係なオフロードパスの手法を具体化。その実感は、そのままワールドカップの日本代表をまねたい子どもたちへのアドバイスとなるかもしれない。

「相手(受け手)を確認する。自分が膝をついて倒れた時、相手が手を出していたらそこへ放る。手を出していなかったら、その場でラックを作る。手足(の長さ)とは(無関係)で、隣の選手とのコミュニケーションが大切です。(ぶつかり合うタックラーとの)コンタクトで勝つのが大前提になるかもしれないですが、(タックルが強力であっても)ステップワークで相手をずらす(芯を外す)ことはできる。そうして半歩、前に出たところから、(受け手と)目と目が合ったら、投げられる」
 
 東福岡高を経て入った早大では1年時から主力入り。好走者の揃うWTB、FBに入り、鋭く粘り強い突破を披露する。年下の選手を集団の輪へなじませる朗らかな性格でも知られ、雨天時のオフに実家近くで実施していた中学生の全国大会を観に行くほど、この競技を愛している。

 今季は学生ラストイヤー。全体練習は6月中旬から再開させている。卒業後のステージにも視線をやりつつ、昨季たどり着いた大学日本一の座へ最上級生として到達したい。

「いまは練習ができていないチームもあるわけで。そう考えれば、いま皆と一緒に練習ができているだけでも幸せです。もし試合が開催されればそれに感謝して、いっぱい、トライが取れたらいいなと思います」

 恒例の夏合宿もおこなえぬ特異なプレシーズンにあっても、自分なりの課題意識と笑顔を忘れない。

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