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【ラグリパWest】いずれはジャパンのリアルLOに。 能勢涼太郎[兵庫・川西北陵高校]

2020.09.01

196センチの長身を誇る川西北陵高のNO8能勢涼太郎。サッカーのゴール上部に手が届く。この8月下旬には日本協会が主催する2020年度の第1回TIDユースキャンプに参加した



 キンちゃんは192。
 能勢涼太郎は196ある。

 大野均を25歳下の高2は4センチ見下ろす。日本が誇るLOは先ごろ引退した。代表キャップは史上最多の98を誇る。

 愛称「りょーたろー」は、兵庫の川西北陵に入って楕円球を追いかけ始めた。
「抜けた時の爽快感はすごいです」
 日焼けの中にある細い目を輝かす。

 監督の村山太我(たいが)の評価は高い。
「コロナで練習できない時期があったから、涼太郎は始めてまだ1年くらいです。でも、あれだけの体なのに走れるし、ハンドリングもいい。重心も低くなってきました」

 出身はサッカー。幼稚園から中学まで続けた。そのおかげで、高身長にありがちな、体の成長に神経の発達がついていかず、動作が緩慢なところは少しもない。身長と動き。天は二物を与えている。

 現在はNO8だが、村山はFBでの起用も考えている。LOをさせないのは、FW2列目に段差が生じるのを防ぐためだ。同じサイズの部員はいない。

 涼太郎はラグビー選択の理由を話す。
「入学後の勧誘に圧倒されました」
 来いよ、来いよ、絶対できる、楽しいよ。上級生たちは口々に誘いをかける。
 部のTwitterに上げた入部勧誘の動画も、みんなが生き生きと映っていた。

 保健・体育教員でもある村山のコーチングも心地いい。部員たちの動きを黙って見やり、時折、助言をする。
「オラオラ系の先生なら、すぐにサッカーにシフトするつもりでした。先生のお蔭でラグビーを楽しく続けさせてもらっています」

 村山は今年35歳になる。御影(みかげ)でFWとして競技を始め、天理大ではアメフトに転じた。高校時代の恩師は松原忠利(現・関西ラグビー協会理事長)だ。
 赴任先の宝塚東ではアメフト、伊丹西ではサッカー、武庫荘総合ではラグビーの顧問をこなした。

 他競技を加えた豊富な指導経験から、主体は女子マネ5人を含めた33人の部員に置く。
 県大会では8強入りが目標。中央では無名でも合同チームにならないのは、部員と監督の熱意の融合でもある。




 県立の川西北陵は県東部の川西市にある。大阪と境を接し、付近には小高い山やニュータウンが散在する。
 学校創立は1983年(昭和58)。全日制の普通科校で、女優の松下奈緒も通った。
 1学年は7クラス。40人学級で全校生徒840人ほどである。

 ラグビー部は創立の6年後にできた。
 ジャージーはグレー、黒、白の渦巻きだ。土のグラウンドは、野球、サッカー、陸上と共有するが、無理をすればトラック400メートルがとれるため、狭さは感じない。
 ただし、ラグビーポールは仮設だ。

 学校には緑があふれる。村山は話す。
「森を切り開いて、上にポコンと校舎を乗せた感じです。熊は出ませんが、鹿やタヌキは出ます」
 自然に包まれ、涼太郎は育っている。

 8月22、23日には、日本協会主催の合宿に参加した。TID(Talent Identification=人材発掘・育成)として、体の大きさや脚力を持つ者(Bigman&Fastman)に特化し、技術や意識向上などを目指した鍛錬の場である。

 涼太郎は昨年12月に続き、2回目の参加になった。コロナを考慮して、オンラインで行われた合宿で成長を感じる。
「去年は1年生で意見を言えませんでしたが、今年はたくさん話せました」
 3人ほどのグループワークでスクラムの強化などのテーマで自分の考えを示せた。
「教えてもらっていることは身についていると思います」

 196センチは参加80人の中で、最長身。そこに至る歴史を振り返る。
「牛乳は1日1リットルは飲んでいました。ヨーグルトも果汁なんかをかけて1日1パックは食べます。食べようと思えば、いくらでもいけますが、2パックは母に止められます」

 休みの日には半日は布団から離れない。
「ゲームより寝ることが大事です」
 寝る子は育つ、を地で行く。公務員である父と母の身長は男女の平均。弟は170センチほどである。
「親族の間では『突然変異』と言われてます」

 あるプロ野球のスカウトの言葉がある。
「身長は才能。これは練習でつかない」
 体重はトレーニングやプロテインで増やすことができるが、背丈を伸ばす方法はない。その才能は尽きない。村山は言う。
「まだ伸びていますよ」
 昨年の全国大会県予選のパンフレットは193。そこから3センチ上乗せした。体重も8キロ増の91になっている。

「夢は2メートルになること。海外の選手と渡り合って、高校からラグビーを始めた僕でもやれる、ということを証明したいです」

 9月3日には100回記念全国大会の県の抽選会がある。2年から3年。そして、大学へ。一連の流れの中で着実に進化をしていきたい。
 その先に、桜のジャージーがあれば言うことはない。