神奈川の東海大相模高でラグビー部に所属する園楽太郎は、将来、スポーツ用品メーカーに就職したいという。靴のサイズが30センチと大きく、足の横幅はさらに広いため、なかなか好きなデザインのスパイクを履けないからだそうだ。
「これが欲しいのに、サイズがない…。自分以外にもそう感じている人はいると思うんです。大きな人たちにもかっこいい服や靴を提供したい。それが、(進路を希望する)理由のひとつです」
この夏、その大きな足を踏み入れたのは世界への登竜門だった。
公式で身長181センチ、体重117キロというフロントローの園は、「2020年度第1回TIDユースキャンプ」にリストアップされている。8月22日からの2日間、一芸に秀でた選手の発掘と育成を目指す通称「ビッグマン&ファストマン キャンプ」のオンライン合宿に参加した。
日本ラグビー協会のTID(タレント発掘)担当である野澤武史リソースコーチから冒頭で告げられたのは、「君たちは、日本代表へのレールの上に乗りました」の一言。その後も高校日本代表の品川英貴監督ら年代別代表の指導者と画面越しに対面する。
20歳以下日本代表の水間良武監督が話したスクラムの講義では、組み合う前の姿勢など詳細なテクニックを教わる。その後、改めて過去の日本代表の試合映像を見たら「(水間の講義内容と)同じふうに組んでいる」と感じた。
大学までは続けたいというラグビーの道に、さらなる可能性があるのだと知れた。
「ビッグマンは日本代表とは関係ないと思っていたら、年代別代表の監督などが参加されていて、『レールに乗っている』と言われ、関係なくないんだ、と驚きました。願ってもないチャンス。頑張って、いい結果を残したいです」
楽しく人生を送って欲しい。名前にそんな願いが込められた青年は、幼稚園児の頃から空手を習っていた。礼節も磨くべしという家庭の方針があったためで、小学5年になると柔道も始める。
楕円球と出会ったのは、通い始めたばかりの柔道場でラグビー少年と出会ったからだ。
のちに横須賀高へ入る永田隆一郎は、幼少期からラグビーボールを追いかけていた好漢だ。もともと身体が大きかった園は、この永田に誘われて田園ラグビースクールへ入るのだった。やがてタックル、突進の爽快感、人生初の団体競技に「仲間と一緒に勝った喜び」を覚える。東海大相模の中等部へ進み、本格的に競技を続けることとなった。
東海大相模中、高の現校長は土井崇司。大阪の東海大仰星高の監督、総監督として通算3度の高校日本一に輝いた知将である。チームを率いる三木雄介監督も「ギョウセイ」のOBだ。元柔道少年が門を叩いたのは、無形の力を重んじる集団だった。
部内では選手間の活発な話し合いも促され、園自身も「自分の思っていることはしゃべれ、とすごく言ってもらえている」とその恩恵を受けた。「昔はそんなにすらすらと話せていないと思います。語彙力がそんなにないので」と謙遜しながら、今回のビッグマン&ファストマン キャンプ中も整理された発言で議論を進めた。
ちなみに今回のキャンプでは、自薦制度が設けられていた。
園も当初は、昨年のサニックスワールドユース予選のプレー、スクラム練習の動画などを編集。提出前に三木監督へ相談し、突破したシーンをスローモーションにしたり、大勢のなかで動く自分に印をつけたりと目に留まる工夫を施した。
ただし「願ってもないチャンス」と出会えたのは、別な理由からだ。野澤リソースコーチらタレント発掘部門の目利きは、この才能を早くからチェックしていたようだ。本人は笑う。
「自己PRのビデオをラグビー協会さんに送ったのですが、返信が来なくて。落ちたのかなと思ったのですが、もともとリストに入っている…と」
外出自粛が求められたこの春は、チーム主催のオンライントレーニングやボールを使った個人練習、走り込みで身体に鞭を打ってきた。夏は再三の捻挫に苦しんだが、秋に向けて徐々に状態を整える。
次世代を担う「ビッグマン」に認定されたのは、そんなタイミングでのことだった。これからどんな道へ進むにしても、「(2日間で)全部、吸収しようと思っていた」。最高峰に触れた意味は、今後の競技生活で示してゆく。