2003年に発足した国内最高峰ラグビートップリーグで過去5回優勝のサントリーは、世界のレジェンドの力をチームの力に変えてきた。
アラマ・イエレミア、ピタ・アラティニ(以上、元ニュージーランド代表)、ジョージ・グレーガン、ジョージ・スミス(以上、元オーストラリア代表)、フーリー・デュプレア、スカルク・バーガー(以上、南アフリカ代表)と、多士済々のメンバーがパフォーマンスを発揮。日本人選手の育成にも寄与してきた。第6節終了時点で不成立となった2020年シーズンも、マット・ギタウ、ショーン・マクマーン、サム・ケレヴィというオーストラリア代表経験者がいた。
「日本の選手が彼らと一緒に練習、試合、生活をすることで、世界レベルの選手のラグビースキル、練習態度、準備への姿勢、ラグビーナレッジを吸収して成長につなげる…。それが外国人選手を採る理由のひとつになっています。一方、日本代表として活躍したい選手は、彼らを学ぶ対象であると同時に『ここを超えたら世界レベルになれる』と捉えてくれている。学びの部分、目標としての部分、両方の側面があると感じます」
こう語るのは、2019年に就任したサントリーの脇健太ゼネラルマネージャー(GM)。2021年1月開幕予定の新シーズンに向けては、ボーデン・バレットと契約した。ニュージーランド代表83キャップ(代表戦出場数)を誇り、ワールドラグビー年間最優秀選手に2度選出された稀代のプレーメーカーである。
クラブではかねて、2017年加入のギタウが2020年限りで辞めるとわかっていた。後継者探しが急務とされていた2019年夏、脇GMはニュージーランドへ渡ったのである。
対面したバレットは、事前にサントリーや日本のラグビーに関する基礎知識を持っていたという。
「サントリーはアグレッシブアタッキング(リスクを恐れずどんな局面でも勇気を持って攻める姿勢を持つこと)を大事にしていますが、それにも彼は『僕のフィロソフィーにも合っているね』と。他にも『(会話のなかで)そのことは、インターネットで調べたよ』と応じることも。彼はハリケーンズにいた(時期が長い)ので、彼の周りには(同部OBの)イエレミアなどサントリーを知る人が多かった。僕が出向いた時にはある程度、サントリーのことを知ってくれていました」
サントリーが外国人選手の採用を検討する際は、グラウンド内外での貢献度について調べる。現在は元監督で現イングランド代表指揮官のエディー・ジョーンズ ディレクターオブラグビーからも「代理人からでは得られないアドバイス」をもらうなどし、チームにフィットしそうな大駒へピンポイントで声をかける。
さらに今回のバレット入りを後押しした1人は、サントリーホールディングス代表取締役会長の佐治信忠氏とのこと。脇GMは、獲得に向けた社内調整をこう振り返る。
「我々の理解者である会長が、『日本ラグビー界に少しでも明るい話題を提供できるのなら』と言ってくれたのが決め手になったのかもしれません」
ニュージーランドでは国内残留組で代表チームを組む傾向が強い。そのため、2023年のワールドカップ・フランス大会出場も期待されるバレットがいつまで日本にいられるかは未知数だ。しかしサントリーは、その時の戦力とは無関係に未来を見据えている。2022年から参加する新リーグで王座につけば、さらなる高みに挑戦できそうだからだ。
というのも、今年まで25年続いた国際リーグのスーパーラグビーは発展的解消を遂げると見られている。関係者によれば、同リーグに加盟していたクラブはニュージーランドなどそれぞれの国でリーグ戦を開く見通しである。さらに、それらのリーグと日本の新リーグはほぼ同時期に開かれそうで、シーズン終盤以降へは各国上位チームによる国際大会の実施も検討されている。
つまり日本のトップクラブになれば、世界のトップクラブに挑めるかもしれないのだ。脇GMはこの件をあくまで仮の話と認識しながら、こうも展望する。
「世界に挑むクラブになりたいというのがサントリーの描くビジョンでもあります。そういう(世界と戦う)場があると、選手、コーチ、スタッフはわくわくするんじゃないでしょうか」
ビッグネームと既存選手との相乗効果で、安定的に優勝争いを演じてきた黄色いジャージィ。新時代の到来も心待ちにする。