新型コロナウイルスが世界的に流行するなか、ラグビーマンのアセリ・マシヴォウは日本にいた。母国のフィジーがロックダウンを実施していたからだ。
「飛行機も飛んでいなかったので、ずっと日本で自分のトレーニングをしました。いろいろな公園に出かけてランニングしたり、同期とゲームをしたり」
ここでの「同期」とは、入ったばかりのNECのルーキーたちだ。
国内トップリーグ加盟の同部のトレーニングへ、マシヴォウは今年の初めころから参加していた。日本政府が国民に自粛を求めた時期は、個人での鍛錬、少人数のグループによる自主練習に注力。そしてこの夏は、2021年1月からのシーズンに向けセッションを濃密にしている。
異国で人生を切り開きたい身長189センチ、体重108キロの23歳は、静かに決意を込めた。
「来年のトップリーグが始まる時には、自分のスピード、アジリティ、身体の重さもベストの状態にしたい。来季は、今季よりもNECをよくしたい」
首都のスヴァで、アセリ・マシヴォウ・ランドランドラ氏の四男として育った。「きょうだいは8人います。上から男性、男性、女性、男性、僕、女性、女性、女性です」。父の地元は中央地区のナイタシリ州にあるセラという村のようで、長男のパテモシはオーストラリアでオージーボールをプレーしているとのことだ。
自身はニュージーランドのケルストンボーイズ高へ進み、ユニオンラグビーに没頭。卒業後の進路に迷っていたところ、拓大からオファーを受けた。働きながらニュージーランドのクラブラグビーへ参加すること、勉強をし直してニュージーランドの大学を受験することも選択肢にあったようだが、最終的には「お父さんも『君のチョイスをサポートする』って」。極東へ飛んだ決意の裏には、切実さがにじむ。
「僕は8人きょうだいで、10人家族なんです。ここ(日本)で頑張って、チームに入って、お金を送って、家族をヘルプする。家族のために頑張る。これは、他の外国人選手も一緒だと思います」
日本特有の長時間練習、慣れない言語に戸惑った。常夏の国で育った青年にとって、雪の降る人工芝でタックルする経験はショッキングだった。それでも踏みとどまったのは、家族への思いがあったからだ。
「1年生の時は帰りたかった。でも、2、3年生になったら『ここまで来たら、ここでラグビーをしよう』『トップリーグでプレーしたい』と思うようになりました」
拓大で副将を任されるのに先立ち、トップリーグのプレー先について思案する。NECにはかつて元フィジー代表のネマニ・ナドロが在籍し、入団直前の時点でもサナイラ・ワクァ(現近鉄)、現副将のマリティノ・ネマニといったフィジアンがいたため親しみがあった。そもそも、日本に長く暮らすことで日本のよさも見つけていた。
「ご飯が、おいしすぎます。僕が好きなのは、寿司と焼肉です」
新天地で感銘を受けるのは、所属選手のスキルへのこだわりだ。ベテランの廣澤拓や退団前のワクァからは、空中戦のラインアウトについて貴重な助言を受けた。跳躍時に体幹を固定させるよう意識すれば、下で支える選手を楽にさせられることを再確認できた。
「先輩たちもフレンドリー。環境がいいです」
チームではFW第3列をメインポジションとし、同時出場は3名までという「特別枠(代表歴のない海外出身者の出場枠)」を争う。遠い故郷へエネルギーを送りたい。