ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】マイコ、再び。飯泉苺子 [東京・荏原第六中学校2年生]

2020.08.14

夏休みで久しぶりに大阪で合流した飯泉家。母・奈美江さん、妹・凛子さん、苺子さん、父・景弘さん(左から)。太閤秀吉が旗印に使った「千成びょうたん」の前で=新大阪駅=


 マイちゃん、大阪に戻って来たん?
「はい。1年しかいなかったけど、みんな私を大切にしてくれますから」
 黒い瞳は輝く。髪はカラスの濡れ羽色。ボブにした毛先は丸みを帯びる。

 マイちゃんこと飯泉苺子(いいずみ・まいこ)は、マスクが手放せない中、初の里帰りをする。中2の夏休みである。

 単身赴任をした父を追い、オチがないと怒られる住民総芸人の街に移り住んだのは昨年4月。予定通り、中1の一年間を過ごし、今年3月、母と妹の待つ東京に帰る。

 しばらく見ない間に大きくなった?
「サンダルを履いています」
 ベージュの涼しげなかかとには10センチ近いヒール。濃紺のワンピースは胸元にV字の赤白紺のワンポイントが映える。

「これは布施で買いました。800円と1000円。安くないですか?」
 奈良への近鉄沿線にある下町がお気に入り。
「なんばに行けば、東京にあるお店がありますが、そんな服はどこでも手に入ります」
 自分のテイストを持っている。

 大阪在住の父・景弘は近鉄ライナーズのGM。現場レベルの最高責任者である。
「仕事は大変だと思います。私がいつ電話しても、誰かと話している最中なんです」
 その父のため、昨年は勉強とごはん作りなどの家事を並び立たせた。今では、誰に頼ることなく、ひとりで生きられる。

 通った中学は英田(あかだ)。父の仕事場である花園ラグビー場に一番近い。
「最初、読み方にびっくりしました。東京の私の周りは名前に一とか六とか数字がついて、パッとしません」
 今、在籍しているは荏原六中である。

 英田ではバレーボール部に入った。部の友達にLINEで戻ったことを伝えた。
「みんな、大盛り上がりだったようです。部員のみさきちゃんの家でタコパをしました」
 タコ焼きパーティーはしゃべりまくりながら、タコだけではなく、チョコレートなど好きな具材を入れた。
 気がつけば夜。7時間が経っていた。
「タコ焼き器が一家に一台ある、って聞いて、嘘やって思ってました。でも、本当にあった」
 百聞は一見にしかず。身をもって知る。

 言葉はちゃんぽんになる。
「敬語を使う時は標準語ですけど、友達と話す時には大阪弁が出てしまいます」
 集合時間を聞かれて答えた。
「3時ちゃうのん、知らんけど」
 東京の友は返す。
「知ってるの、知らないの、どっち?」

 知らんけど、に深い意味はない。
 大阪の接尾語。事実に間違いはないのだが、柔らかくするとか、若干の責任回避を含んでいる。そういうあいまいさは東京にない。
「友達も増えました。多文化に触れて、視野が広がった、と思います」


 大阪の地で磨いた度胸は、国内だけにとどまらない。今年3月にはオーストラリアに渡った。コロナで行き来ができなくなる前に2週間の短期留学。父は話す。
「我が娘ながら行動力がすごいです。自分ひとりでエージェントとメールのやり取りをして、すべてを決めてきました」
 婚前に客室乗務員だった母・奈美江も世界を見ているため、反対はしなかった。

 青い空と白い砂浜が美しい北のケアンズで語学学校に通い、ホームステイをする。
「学校には校則がなく、授業は30分があったり、90分があったり、新鮮でした。もっと、いたかったです」
 日本とどっちがよい?
「どの視点で見るかだと思います」
 今月19日で14歳になるとは思えない。

 帰国、そして帰郷をして、荏原六中ではダンス部に入った。
「バレーボールがなかったんです」
 部員は女子ばかり27人。チーム名は「6 KISS♡」だ。
「部活は楽しいです」。

 ただ、踊ることと比べても、この浪花の地には別物のよさがある。
「どこかのタイミングで、もう一回住みたいな、と思っています。少なくとも、1年に何回かは顔を出したいです」

 来阪は今月4日。2つ下の妹・凛子と家族4人で父の1LDKに泊まる。15日に祖父母のいる浜松に移動する。滞在は12日を予定している。

 引き続き、この街でひとり暮らしを続ける父を思いやる。
「よく頑張っていると思います」
 父の現役時代、ともに戦った重光泰昌、佐藤幹夫らはコーチになった。
 可愛がってくれた人たちはまだチームに残る。応援には熱がこもる。

 来年1月には、翌年発足予定の新リーグを睨んだ戦いが始まる。近鉄は、そこでの四強進出に目標を置く。
「勝ってほしいですね」
 父が家族と離れる生活は3年目に入った。その二重生活が報われてほしい。
 大阪で刺激を受け、成長曲線を上げた娘はそのことを切に願っている。


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