ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】紅一点の福娘。木下友紀子 [報徳学園ラグビー部顧問]

2020.08.11

報徳学園のラグビー部顧問になって2年目に入った木下友紀子さん。元ラガールで関西学大時代にはラグビー部のトレーナーだった。後方2人目はスクラム指導をする西條裕朗監督



 「いとくほうとく」
 なんやねん、その言葉。
 ゆっこはん(木下友紀子)は思った。

「同期がことあるごとに呪文のようにつぶやいていました」
 漢字で書けば、『以徳報徳』。花園出場45回を誇る報徳学園の校訓ですわな。偉大なあっちん元先生も名刺に刷ってはる。「行っとく? ほうとく」、ではない。
 ゆっこはんは、この私立男子校の社会科教員として2年目に入った。ラグビー部の顧問もやってはる。

 同期はタカト。ともに青春終わりの大学4年間、関西学院のラグビー部にいた。タカトは報徳のOBでもある。

 2年前の夏合宿、タカトはヒザのじん帯を切った。最後のシーズン絶望や。CTBとしてレギュラー奪取直後の大悲劇。その日は部屋から出てこんかった。なのに、一夜明けたらやる気マンキチ。高らかに宣言や。
「チームに勢いをつけるためにまたAに上がる。せやから、みんなも頑張ってほしい」
 以徳報徳には自分を犠牲にしても人のために生きるという意味も含まれている。

 トレーナーやったゆっこはんはぽっかーん。心の中で思った。
<なに言うてんねん。オペもせんとやるってか。せやけど、すごいな、タカト。こんな状況でも、そんな言葉が出てくるんや>
 そんなやつを生み出す高校って面白い。そこで教員になることを考える。

「絶対にやめとけ。ゴリラみたいなやつばっかりやで」
 タカトは強硬に反対した。しかし、男が女に圧倒されるのは世の常。しぶしぶ母校のことを教え、模擬面接をする。

「タカトに教えてもらったことをそのまま面接で答えたら、受かりました」
 ラグビー部を率い、学校のえらいさんでもあるゆーちゃん先生は振り返る。
「私も面接官のひとりでしたが、彼女が一番しっかりしていました」
 ここの先生方は中高合わせて100人ほど。常勤の女性は4人らしい。

 こういう展開、ドラマやったらタカトとの間に愛が芽生える。
「そんな気持ち、1ミリもありません。タカトはいいやつやけれど」
 ちゃんちゃん♪

 元々、ゆっこはんはラガールやった。
 三田(さんだ)のラグビークラブジュニアで幼稚園から始める。かかりつけ医のタバ先生が創始者やった縁やね。
「母に、やりたい、って自分から言ったようです。ピアノはいやや、って」
 生まれながらにアクティブでんな。

 小学校はお父さんの転勤で北関東方面に住み、高崎ラグビークラブの少年部に移籍。中学で三田にリターンや。
 北摂三田高では平日はマネージャー。週末は選手。土曜はSCIX(シックス)、日曜は兵庫レディースに参加してたんや。

 大学入学後、グラウンドで見た2コ上のよーこ先輩に報徳と同じく惹かれまくる。
「りりしかったんです」
 宝塚歌劇は5駅北上。同じトレーナーになり、トレーニングや食事管理をやる。

 1年からの関西リーグは8、6、4、4位。最後の2年、監督をやったムタはんの言葉が心に残るで。
「脳みそから血が出るくらい考えろ」
 グレート。ゆっこはんは言う。
「言葉としては綺麗じゃないけれど、考えて動け、先を読め、っていうことです」
 学生主体を標榜するチームにとっては生命線であり、生きて行く指標にもなりますな。

 監督の言葉を日々、ゆっこはんは実践している。こーたろーコーチは証言する。
「こっちが作らなあかん、と思った資料は、『できてます』やし、配布物は、『配っておきました』ですもん。仕事できまっせ」
 不惑も半ばにきたおっちゃんもびっくり。

 ゆっこはんは楽しくつとめている。
「ここに来させてもらって、よかったです。外から思っていた以上に素直で明るい子が多い。素直なら何をしても伸びますから」

 グラウンドには毎日立つ。それでも、簡単には動かへんで。
「声をかけるのと見守るバランスが大切やと思います。男の子は自分で分かって動かんと身につかないし、意味がない。だからそうなるようにヒントを与えたりします」
 幼稚園から楕円球を通して、隣にはずっと男子がいた。その行動はお見通しや。
 副将のカイト君は話す。
「僕たちに寄り添ってくれる、お母さんのような存在です」

 ゆっこはんは関学時代、年末年始は西宮神社で巫女(みこ)になった。白い着物に朱の袴で、幸運を呼ぶ飾り品や笹を授けた。
「ラグビー部の休みとバイトの期間がぴったりはまりました。母の実家も近いので」
 神社は商売の「えべっさん」で知られる。

 つまり、「福娘」なんやな、ゆっこはんは、野生の王国に降臨した。
 これは、ぐぅいーんと行くんとちゃうのん? 報徳の花園最高位は77回大会(1997年度)の4強やけどね。
「日本一になってほしい」
 ゆっこはんの願い、あんたら部員93人が一丸になって、かなえたげんとな。
 福娘、お大切に。


Exit mobile version