オリンピック東京大会の延期が決まったのは今年3月下旬。男子7人制日本代表として2020年夏のメダル獲得を目指してきた羽野一志は、「残念な気持ちが強く、あまり考えたくないなと思う日もあった」。周囲の選手が「準備期間が延びた」と前向きに語っているのを聞き、驚いたほどだ。
現在、大会の開催そのものを危ぶむ声もある。そんななか羽野は、こう気持ちを整理している。
「1年先は長いですし、(東京大会が)100パーセントあると決まったわけではない。オリンピックを掲げすぎると、自分のなかでしんどくなってしまう。いまはラグビーができることに幸せを感じながら、ラグビーがうまくなることをポイントに置いてやっています。そして、いまの活動がオリンピックにつながるようになればと思っています」
身長185センチ、体重87キロの29歳。愛知・西陵高、中大を経て2014年にNTTコム入り。15人制のWTB、FBとして力強いランを繰り出してきた。
7人制でも力を発揮し、2016年のオリンピックリオデジャネイロ大会で4位入賞。東京大会を目指すチームは今年、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で足踏みを余儀なくされたが、6月末から定期的に男子セブンズ・デベロップメント・スコッド(SDS)の練習会、合宿が実施されている。候補選手が複数のグループに分かれ、鍛え直す。
8月10日から3日間のキャンプは東京、大分の2か所に分かれておこなわれた。以前のキャンプから東京のグループへ入る羽野が、現状を説明する。
「前回(の合宿で)は東京のなかでも2チームに分かれていた。片方がジム、片方がグラウンドへ。どちらかに感染者が出ても、片方が活動できるよう工夫しました。今回は(東京側では)ひとチームでやっています。それが大きな進展ですね。練習内容は前回と変わらない。ボールスキル、コンタクトをしないようなスキルが多い。あとはただひたすら走るメニューがあって。練習ボリュームは、コロナになる前(より)は少ないです。でも久々ということで、皆、はぁはぁ言いながらやっている印象です」
8月10日におこなわれた共同取材の直前までバイクを漕いでいたという羽野の額には、汗が滴っていた。自粛期間中も怪我の回復具合を見ながら筋力トレーニングと走り込みを重ねてきたとあって、「コンディションはいい状態」だと胸を張る。そして、あらためて強調する。
「(延期決定を受けて)考え方を変えた。確かにオリンピックがゴールになるのですが、それでは(距離感が)遠いので、近いところに(直近の)ゴールを定めています。いまはラグビーのスキル練習が多いですが、自分は、結構、スキルが下手だなと思った。だから、スキルをうまくするという近いところにゴールを設けています。そうすると練習にも身が入りますし、漠然と『延期…』というマインドにもならない」
原則として、東京大会はおこなわれるものと信じる。一方で、東京大会の開催可否に振り回されないよう自分のすべきことに集中する。
己に言い聞かせるように「いまやっている練習を100パーセントやれば、それが自ずとオリンピックにも繋がる」と繰り返した。