ラグビーリパブリック

サンウルブズよ、ありがとう。サンウルブズよ、永遠に。

2020.08.09

2016年4月23日のハグアレス(ジャガーズ)戦で初勝利したサンウルブズ(Photo: Getty Images)


 世界で最も過酷でハイレベルなクラブ大会といわれるスーパーラグビーに2016年から参加してきた日本チームの「ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ」が、最後の活動を終えて、笑顔で、でもやっぱり少し寂しそうに鳴いた。

 2020年8月8日、東京・秩父宮ラグビー場でメモリアルセレモニーがおこなわれた。
 5年間、応援してくれたすべての人々に感謝を伝えるため。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、一般のファンは来場できず、スポンサーやファウンダーズクラブ、関係者など数人が見守るなかでのセレモニーとなった。

 5年間の通算成績は9勝1分58敗。毎年、最下位争いの常連だった。他国のラグビー関係者から辛辣な批評をされたこともあったが、サンウルブズは誇り高く懸命に戦い、多くの人の心を打った。スーパーラグビーでのタフな経験が、ラグビーワールドカップ2019での日本代表の歴史的快挙(悲願のベスト8入り達成)につながったのは誰もが認める。ラストイヤーが新型コロナウイルスの影響によりシーズン途中で中断となり、すべてを戦うことができないまま終わりを迎えることになったのは無念だが、サンウルブズは確かに、未来への希望を見せた。

 2017年に、立川理道とともに共同キャプテンを務めたエドワード・カーク(2016~2019/39キャップ)は、こんなビデオメッセージを寄せた。
「今日はサンウルブズのクロージングということで寂しくもありますが、同時に、スーパーラグビーにおいて日本のラグビーが爪跡を残した5年間の功績を讃える日でもあります。いままで本当にありがとうございました。そして、サンウルブズがまた世界のどこかの大会に出て、そこに自分が加わることを楽しみにしています」

 この日、セレモニーに出席した歴代選手・スタッフは次のとおり。

大久保直弥(2020ヘッドコーチ)、沢木敬介(2020コーチングコーディネーター)、稲垣啓太(2016-19)、浅原拓真(2016-19)、三上正貴(2016-17)、クレイグ・ミラー(2019共同主将/2018-19)、堀江翔太(2016主将/2016-19)、坂手淳史(2017-19)、大野均(2016-17)、谷田部洸太郎(2017、2020)、ヴィリー・ブリッツ(2018共同主将/2017-18)、リーチ マイケル(2017-19)、布巻峻介(2017-2018、2020)、徳永祥尭(2017-19)、田中史朗(2017-19)、齋藤直人(2020)、小倉順平(2017、2020)、立川理道(2017共同主将/2016-19)、中野将伍(2020)

 サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパンエスアールの渡瀬裕司・代表理事CEOはセレモニーの冒頭、あいさつでこんな思いを伝えた。
「厳しい壁にチャレンジし続けた5年間だったと思います。選手、スタッフも常に完全燃焼しながら、逆境に立ち向かうというサンウルブズのチームカルチャーを醸成できたのはありがたいことだったと思います。(中略)私の個人的な感想ですが、なんとかサンウルブズがもう一回、世界にチャレンジする機会がくるということを願ってやみません。そういったことも思いながら、5年間の思い出に浸りながら、このひと時を皆様と過ごせたらと思っています」

ヒト・コミュニケーションズの安井豊明社長。すぐ左後ろが大久保直弥HC(©JSRA photo by H.Nagaoka)

 チームのメインスポンサーを務めた株式会社ヒト・コミュニケーションズの安井豊明 代表取締役社長のあいさつも、サンウルブズ愛にあふれていた。
「思い起こせば5年前、結成記者発表の10日くらい前に、サンウルブズのチームスポンサーになってもらえないかという話をいただきました。聞くに、ワールドカップの日本代表の強化を目的に、日本で初めてとなるプロチームを結成して、世界最高峰のスーパーラグビーに参戦するんだという。私もラガーの端くれとして、夢のような話をいただきました。そのときの胸の高鳴りはいまでも忘れることができません」

 大分舞鶴高校、福岡大学でラグビーに熱中した安井社長は、悩んだ末にスポンサーを引き受けた。
 しかし、本当にファンが応援に駆けつけてくれるのか、ホームの秩父宮ラグビー場は観客でいっぱいになるのか、心配の船出だったと振り返る。ふたを開ければ、2016年2月27日に秩父宮でおこなわれた記念すべき初戦は、ほぼ満員の1万9814人が詰めかけ、応援ジャージーは試合前から完売、大盛況となった。

 サンウルブズはいくつかの変化をもたらしたと安井社長は言う。
「ひとつは、秩父宮をはじめとしたラグビー場の風景の変化です。ジャージーを着て楽しそうに家族で応援に来てくれる風景や、若い女性たちのグループなど、いままでラグビーのスタジアムでは見ることができなかった風景がありました。そして、『Awoooo』というおなじみの遠吠え。そこには、心底ラグビーを楽しむというファンの姿があったように思います。サンウルブズは私たちにラグビーの楽しさを教えてくれたのではないかと思っています」

 たくさんの外国人選手と日本人選手が“One Team”となって世界にチャレンジする、戦っている姿に、ファンはどんどん引き込まれていった。
 いつもいい時ではなく、厳しい戦いが続いたサンウルブズだったが、ワールドカップで悲願のベスト8入りを果たした日本代表の選手たちから「サンウルブズがあったからここまでこれた」という言葉をもらい、スポンサーとしてサンウルブズを応援してきて本当に良かったと安井社長は語る。

「残念ながらサンウルブズは今日をもって全部の活動を終了してしまいますが、いつの日か、伝説のチームとなって、またその勇姿が見られるように心から祈念したい。サンウルブズよ、ありがとう。サンウルブズよ、永遠に」

 そして、ラストイヤーに指揮を執った大久保ヘッドコーチはこう締めくくった。
「サンウルブズのファンは世界一だと思っています。5年間で数えるほどしか勝てなかったですけど、勝ったときのスタジアムとチームの一体感というのは、たぶん僕も一生忘れないと思います。ぜひ、サンウルブズを忘れず、この思い出を大事にしてほしいと思います。ありがとうございました」

最後に、セレモニー参加者全員で「Awoooo」(©JSRA photo by H.Nagaoka)