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【再録・ジャパン_06】中村亮土[2013年10月号/解体心書]

2020.07.13

「自分の存在価値はなんだ?ジャパンで試合に出られないとき、深く考えました。そういう時間も含め、すべてが成長できる時間だった。今年も日本一に。そして世界へ。」 (撮影:髙塩 隆)

*『ラグビーマガジン』にかつて掲載された2019年日本代表選手のインタビューを抜粋して再録。

【高められる場所で。】
[連載・解体心書] 中村亮土(帝京大4年)

 大学日本一を4年続けてきた真紅のジャージーの下に、はち切れんばかりの肉体。そこには、豊かな可能性も詰まっている。5連覇を目指す帝京大学を牽引するスキッパーは、堂々としている。日本代表に選出されて2年目。ジャパンでの日々は活躍の場というより鍛錬の場となっているけれど、今春は初キャップも得て進化を証明した。歩んでいく先は大学ラグビーの頂点であり、世界の大舞台へと続いている。(文:田村一博/年齢、所属などはすべて当時のもの)

 ぶっとい腕に盛り上がる胸板。下半身は以前から他を寄せ付けないたくましさだ。大学ラグビー界の先頭を走り続ける帝京大の主将を務める。中村亮土は、肉体も希望もパンパンに膨らんでいる。

 日本代表選出2シーズン目。学生としてのラストイヤーには、誰もが経験したことのない5年連続の大学日本一がかかっている。春は桜のジャージーを目指し、秋からは前人未到の頂点に向かってひた走る。あちこちから視線を注がれる男は、それだけ期待も大きく、忙しい。

 大学4連覇、日本選手権を戦い抜いてしばらくすると、今年もまたジャパンに招集され、数か月を過ごした。『サクラの季節』を終えてチームに合流したのは6月最終週。早大との試合を戦い、7月上旬には春シーズンを終えた。

 久々の合流。4年生になってからチームの仲間とともに過ごした時間は少なかったが心配は何もない。「シェイプの形やサインに違いはありますが、ジャパンも帝京も、大切にしている土台の部分は変わらない」ので戸惑いはない。

 SOに関しては、特に立つ位置に浅い、深いの違いはあるが、ジャパン、帝京大で使い分けるのではなく、「状況によって判断しようと思っています」と言った。

「大学では、基本的に判断するスペースを持つために深めに立っていますが、チャンスが来たらどんどん前に出ていきたいですね」

 ジャパンで得たものを積極的に帝京ラグビーに持ち込み、自分と仲間の連携を深めようと思っている。

 ジャパン招集以来、もっとも徹底されたのは、『コミュニケーション』のことだった。「誰でもできることです。ただ、求められたレベルは簡単ではなかった」と振り返る。

 パスひとつにしても、黙ってもらうのと、「いま」「ここ」と伝えるのでは大きく違う。自分のことを伝える。相手の声を聞く。FWが動きやすいように指示を与え、周囲を動かしておいて自分が動く。それらを意識して声を出したつもりでも、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチには「それでは大学レベルでしかない」と高いクオリティーを求められた。

「でも、最初は何を言われているのかすら分からなかったのが、少しずつ理解できるようになりました」

 相手がUAE(5月10日/93―3)とはいえ、この春、テストマッチ出場の機会を得た。決して妥協しないチームだ。指揮官が、一定のレベルに達したと認めた証しだった。

 やっと巡ってきた初キャップ獲得の達成感は、思っていた以上に自信となった。相手とのレベルの違いは分かっている。ただ、勝って当たり前という雰囲気の中で結果を残す。この国のラグビーマンたちの代表として桜のエンブレムを胸に戦う。そういう重みに身が引き締まった。

 前半35分、ベンチから飛び出た。その瞬間を忘れない。出場直後に走った。回ってきたボールを手にすると、思い切って自ら前に出る。ビッグゲインだった。

「ファーストタッチから行こうと思っていたんです。周囲の先輩たちも、『いけいけ』という感じだったので。あの試合、とにかくやれることはすべて全力でやろうと思っていた。とにかくボールにたくさん触りたかったから、どんどんブレイクダウンにも入った。ひとつのプレーが終わったら急いでリポジション。プレーの善し悪しに関係なく、日本を代表して戦えたことが大きかった。『あの場』で得られるものは、あそこにしかないものでした」

 それだけ胸に訴えかけるものがあるのが、いまのジャパンだ。招集されて2シーズン。学ぶことは際限なくある。叱られたことも。そのすべてが自分を成長させている。

 ただ、学びの場として参加していては成長のスピードが高まらないことは自身も深く理解している。だから、出場機会が簡単に巡ってくる集団ではないと理解はしていても、メンバー発表のたびに自分の名がなければ唇を噛んだ。出られない理由を見つけようと、自分にベクトルを向けた。

「本当に悩んだ時期がありました。ジャパンを抜けたいと真剣に思った。初キャップを得た後、また、まったく(試合に)出られなくなった。起用してもらえれば力を出せる自信はあったし、結果も残せるのに…と。自分がジャパンにいる存在価値が分からなくなったんです」

 ピッチに立ちたい。出られない。なぜ。自問自答の日々はしばらく続いたが、考え抜いた末に自身の不甲斐なさがすべての根源と気づいた。

「そう理解したとき、本当に情けなかった。帝京で必死に練習している仲間と、不甲斐ないから試合に出られないだけなのに悩んでいる自分を比べて…恥ずかしいな、と。それに気づいてからは吹っ切れました。自分で這い上がるしかないとあらためて心に誓いました」

 ウエールズに勝った試合、勝利に向かって必死に支えあい、ひとつになったチームの姿を見た。この集団から絶対に離れたくないと思った。

「ずっとチームに関わっていたい。2015年のワールドカップに出ようと思うなら、それは当然だと思っています。いつも選んでもらえるようなプレーをしたいし、そういう態度を示したい。そういう毎日を過ごさないといけないと思っている」

 そのためにもこれからの数か月間、チャンピオンチームの主将として先頭に立つ。誰からも尊敬されるような日々を過ごし、日本一になりたい。就職先も、自分を高められる場所に決めた。一分一秒も無駄にしない覚悟がそこにある。

「キャプテンになってから、それらしいことは何もしていない」と苦笑いする男は、他校の選手たちが日本代表という視線で自分を見つめることも、リーダーの一挙一動を見逃さない仲間の視線も、まったく意に介さないと言う。

「去年ジャパンに選ばれてから、周囲が自分を見る目が変わりました。だから、それに見合うだけの姿勢、態度でいつもいなければならない。そう思えるようになりましたから」

 窮屈でなく自然体。人としての成長がそこにある。

 連覇を続けるチームのことを、「上手くなりたいと思うなら、それをとことん追求できる場所」と言う。

「本当にこのチームに来てよかった。去年の泉さん(主将)も優勝直後に言いましたが、支えてくれている多くの方々に感謝、です」

 年々応援してくれる人が増えていることを感じている。国立競技場のピッチに立つと、それが強く感じられるのだ。

 特に昨季は見事な試合内容で、スタンドを赤く染めた人たち以外からも大きな祝福を受けた。

「一緒に喜んでくれる人たちが多くなればなるほど、やっぱり嬉しいですね。観ている人たちに感動を伝えられるようなラグビーをやって、帝京の環境のすばらしさを知ってもらいたい。そして、それを知った人たちに、どんどん帝京に来てほしい。そうなれば、チームの文化は継承していけるし、長く強いチームでいられると思っています」

 亮土の名には、両親の思いが込められている。「朗らか」「清々しい」という意味も持つ「亮」の字。あたたかな気持ちを持ち、大地に根を張って生きてほしいと名付けられた。

 南国は鹿児島生まれ。中学校まではサッカーに熱中したことで下半身がたくましく育ち、高いキック力を身につけた。サッカー名門校でもある鹿児島実業に進学しながら楕円球のフットボールに転向したのは、「もともと父のすすめがあって、高校に入ったらラグビーをやると決めていた」からだ。父・信也さんは東京にいた若い頃、日本選手権や満員の早明戦観戦でスタジアムを訪れ、このスポーツに魅せられた。楕円球を追ってくれたら…の思いは、自然と息子に伝わった。そして亮土は、いつも期待に応えながら成長を続けた。

 今季は、トップリーグチームに勝つことも目標に掲げる帝京大。中村亮土は、学生王者の主将として、ジャパンの一員として、チャレンジの真ん中に立つ。注目される中で結果を残してこそ、また一段階段を上へ。今回も、そうやって生きたい。

File
●名前/中村亮土(なかむら・りょうと)
●生年月日/1991年6月3日、鹿児島県出身
●身長・体重/178㌢・95㌔
●学歴/武岡台小→武岡中→鹿児島実業高校→帝京大学経済学部
●代表歴/日本代表(キャップ1)、U20日本代表、7人制日本代表
●家族構成/父・信也さん、母・章子さん、姉・麻衣さん、誌穂さん
Rugby
●ラグビーを始めた年/高校1年
●ラグビーを始めた頃の憧れの選手/トニー・ブラウン(当時・三洋電機SO)
●ポジションの変遷/WTB→SO→CTB→SO
●尊敬する選手/日本代表・廣瀬俊朗主将(主将として、選手として、人として)
●目標とする選手/スキルフルな選手(パス、キャッチ、ランと幅広い能力)
●もっとも敵にしたくない相手/帝京大学(すべてを知られている)
●どこに勝つのが一番うれしい?/ファイナルで戦う相手
●影響を受けた人物/岩出雅之監督(自分で考えられるようにしてくれた) 
●気に入った遠征地/九州(落ち着く)
●好きなラグビー場/国立競技場(ここまで全勝)
●好きな海外チーム/アイルランド(情熱的)
●ラグビーのゴールは?/指導する立場になる
自分のこと
●好きな食べ物/フルーツ(特にメロン)
●苦手な食べ物/梨
●好きな本/岩出雅之監督の著書(信じて根を張れ!楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる)
●好きな映画/『しあわせの隠れ場所』『ワイルド・スピード』
●好きなタレント/ローラ
●好きな音楽/長渕剛(『Myself』が好き)
●趣味/マリンスポーツ(釣り・貝取り・銛突き)
●ニックネーム/リョート
●これがなければ生きていけない!/仲間
●最近凝っているもの/ウィニングイレブン2013
●もしラグビーをやっていなかったら/Jリーガ—(浦和レッズが好き)
●試合前のジンクス/ナシ(以前は音楽を聴いていたが主将になって自分の世界に入らなくなった)
●いまイチバン会いたい有名人/長渕剛
●無人島に3つだけ持っていけるとしたら/ナシ(そこにあるもので暮らす)
●ディナーに3人招待できるとしたら/ローラと2700(お笑いコンビ)の2人
●地元自慢/食べ物がおいしい(とりの刺身、さつまあげ)
My Favorite
❶日本代表で初キャップを得た、今年5月10日のUAE戦(アジア五カ国対抗/93-3)で着用したジャージー。「やっと巡ってきたチャンスだったので気合いが入りました」。この時は背番号22。早く10番か12番を着たい。
❷今年の誕生日に同期のみんなからもらったネクタイピン。「みんなで、お互いにお祝いしているんですよ。大事な試合で使います」