ラグビーリパブリック

妻は看護師。NECの大和田立がコロナ禍で抱いた決意とは。

2020.07.10

「美幌」の文字が入ったヘッドキャップをつけてプレーするNECの大和田立(撮影:松本かおり)


 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の都市の経済に大きな打撃を与えている。NEC入社7年目の大和田立は、地元の北海道美幌町に関する報せに胸を痛める。

 美幌高ラグビー部時代には卒部式などのイベント、社会人選手となってからは夏合宿でも使ったホテルが閉館したのだ。

「寂しいですね。高校生の時から使わせてもらったホテルだったので、思い出はありました。合宿も今後、どうなるのかなという感じ」
 
 残念なニュースに触れた時期は、自らも外出を制限していた。NECが参加する国内トップリーグは3月下旬にシーズン不成立となっており、チームのトレーニング施設への立ち入りも一時的に禁じられた。

 帝京大では9まで続く大学選手権の連覇のうちV2からV5を経験した28歳は、通信販売で購入した腹筋ローラーで鍛錬。持久力維持のためには、朝5時に起きて人通りの少ない道を走るしかなかった。

 身長178センチ、体重95キロの突破力自慢のFLは、開幕6連敗したまま中断したリーグ戦を端的に総括。素直な心境を明かした。

「もどかしさと言いますか、(シーズンを)最後までやりたかった気持ちはものすごくあります。ワールドカップ(2019年の日本大会)があれだけ盛り上がったなか、アピールの場がなくなったのには悔しい気持ちが大きかったです。ほとんどの選手が不本意なシーズンだったと感じていると思うんですよね。今季は監督が代わって(浅野良太氏が就任)、ここ数年で一番ハードワークしていた。だけどハードワークだけじゃ、通用しなかったということです。アタックで最後にミスが起きてトライをとりきれないことがありました。ちょっとしたパスミス、細かい技術(のエラー)と言いますか…。がむしゃらだけじゃなく、最後の繊細さ(が求められる)。最後の最後でとりきれるチームには、丁寧なところがある」

 気持ちを前向きにさせたのは、家族の存在だった。高校時代から交際していた1学年上の妻は、関東の近郊の病院で看護師として勤務。命と向き合う現場は多忙を極めたようだ。

 家庭内では掃除や子どもの世話に注力する夫も、ニュースで院内感染の問題を耳にするたび「自分が(ウイルスに)かかって、それを患者さんにうつしてしまわないかを意識して行動していました」。何より社会の変化に皮膚感覚で接するうちに、自分がラグビーをする意味を問い直した。

「奥さんが頑張って患者さんの生死に関わるなか、自分はいい環境で好きなことができていた。できることを後悔しないようにやろうと、すごく考えさせられましたね。最近は家にいることがほとんどだったので、改めていい環境でやっていたんだな、とも考えさせられた。今後、この状況がどうなるかわからないですが、自分のできることをやる。トップリーグが始まれば、いい順位を目指せるよう全員でレベルアップできたら」

 ヘッドキャップに記された「美幌」の二文字に、複層的なストーリーがにじむ。

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