ラグビーリパブリック

元日本代表主将の菊谷崇がコロナ禍で広げた世界とは。

2020.06.22

菊谷崇氏。2018年4月、ブリングアップアカデミーの説明会で(撮影:松本かおり)


 ずばり、「国境がない」。2011年のワールドカップ・ニュージーランド大会で日本代表の主将を務めた菊谷崇はいま、インターネットのメリットを皮膚感覚で味わっている。

 話をしたのは今年6月上旬。液晶画面と向き合ってきた春先の日々を、前向きに総括する。

「普段の生活をしていると、毎日、忙しく、オンラインで何かをする考えには至らなかったんですけど、今回は改めて、人間性、スキルも含め、限界を感じずに広がって…。そういう(日々が)3か月目に入っているなと」

 2018年から同じ元日本代表の小野澤宏時、箕内拓郎らとブリングアップ(BU)のラグビーアカデミーを運営。東京ウエスト校(調布市)、東京イースト校(足立区千住緑町)、静岡校の3か所で、ジュニア世代を対象としたレッスンを平日の夕方に組んできた。おもにおこなうのはゲーム形式のセッション。指導陣は選手同士の自主的な対話を見守り、グループで問題を解決する力を養ってもらう。

 週末に活動するラグビースクールとのすみ分けもなされ、徐々に認知度を高めていた。この春は新型コロナウイルス感染拡大の影響でレッスンは中止も、グラウンドで会えないアカデミー生と、オンライン会議アプリでつながった。競争性のあるラグビーセッションや体力維持のためのサーキットトレーニングを実施する。

 その延長で再確認したのが、「国境がない」というオンライン活動のよさだった。 

 5月中旬、ミャンマーの「ドリームトレイン」で暮らす少年少女がBUのサーキットトレーニングの輪に加わる。ミャンマーには日本人スタッフもいるため、言葉の壁はほぼなかった。

 「ドリームトレイン」は、日本のNGO団体である「ジャパンハート」が発展途上国の子どもを貧困や疫病から守り、自立を支援するために作った施設。菊谷が「ジャパンハート」のスタッフと出会ったのは、箕内や元日本代表の松尾勝博らとともにアジア諸国での競技普及にも携わってきた縁からだ。

 国際線が開通すれば現地へボールを届けたいと、菊谷は考える。

「向こうの子どもたちもラグビーに興味を持ってくれているらしくて、静岡であった日本代表とアイルランド代表の試合(ワールドカップ日本大会)、僕やザワさん(小野澤)の映る日本代表の試合をYouTubeで観ているみたい。丁寧にコーチングすると皆、喜んでくれる。そういう指導に飢えている子どもに対し、サポートできたのはよかった」

 奈良県の御所工高(現・御所実高)で始めたラグビーによって、異国との距離感を詰めている。6月には、小野澤から紹介されたスペインのラグビーアカデミー、アルコペンダスアカデミーとも合同オンラインレッスンを始めた。いずれはBUの中学生を現地へ連れて行き、異文化交流を通して見聞を広めたい。

 民間のグラウンドを使うBUの東京イースト校は、6月から通常のレッスンも再開。コロナ禍の行く末は未知数とあって、「カバンの置き場所、消毒、検温、保護者の見学場所など気を付けないといけないことはたくさんある」と菊谷は警戒するが、「子どもの運動機会だけは担保したい」。希望の光を感じたのはつい先日のこと。レッスンに体験参加した6名の子どもが、間もなく正式に入会してくれたようだ。

「保護者にとっても、2か月休んでいる子どもにとっても難しい時期に体験に来てくれただけでも嬉しいと思っています。6人のうち1人は水泳をしている子で、普段はラグビーをしていないんです。僕らが団体競技に必要な人を思いやる部分を伸ばしていけたら。頑張ろうね、って、コーチ3人で話しているところです」

 今後はBU内にある他競技のアカデミー(すでに陸上、アイスホッケーがあり、いずれ野球も開設予定)との交流などにも注力したいそう。家にいながら世界を広げた40歳のレジェンドは、未来のレジェンド候補たちの世界も広げる。

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