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福岡堅樹「自分の決めたものを貫く」、医学の道へ。7人制も日本代表引退、現役は続行。

2020.06.14

将来について語った福岡堅樹(写真提供:パナソニック ワイルドナイツ)


 ラグビー界のスターである福岡堅樹が、7人制日本代表からの引退を発表した。東京オリンピックへの挑戦を断念。昨年のワールドカップを最後に15人制の代表からも退くことを決めていたので、もう桜のジャージーを着ることはない。
 ワールドクラスのウイングと称賛された27歳の青年は、パナソニック ワイルドナイツの一員として現役を続けるが、かねて公言していた憧れの医師になるため、医学の道を力強く歩んでいく。
 6月14日、会見に臨み、自らの口で将来について語った。

「私は、ラグビー7人制日本代表からの引退を表明します。まずは、オリンピックを目指すという挑戦を応援していただいたファンの皆様、サポートしてくださったチームの関係者の皆様には申し訳ないと思っています。今回このような結論に至った理由は、自分のなかで後悔したくない、後悔しない人生を生きたいという思いがいちばん強かったからです。東京オリンピックの延期がささやかれ始めたときから、自分のなかでは、どうするかということは常に考えていました。どの選択がいちばん後悔しないだろうかと、常に考えていました」

 ワールドカップを戦うためにすべてを犠牲にしてラグビーに打ち込み、2019年の日本大会で悲願のベスト8入りを達成。そして、東京オリンピックを日本代表選手としての集大成にすると決めていた。ワイルドナイツの一員としてトップリーグ2020の第2節までプレーしたあと、オリンピック競技である7人制ラグビー(セブンズ)に専念することを表明し、痛めていた膝のリハビリを経て、3月から7人制日本代表候補選手たちが集う強化合宿などに参加していた。しかし、今年夏に予定されていた東京オリンピックは新型コロナウイルスの世界的大流行により1年延期が決まった。

「7人制の合宿にいるときに、オリンピック延期の可能性が浮上してきた段階から、自分のなかではどうするか考え始めていました。(日本代表)引退のタイミングは、東京オリンピック単体で設定したものではなく、2019年の日本でのワールドカップとセットで考えていた。だから、ここで一つ途切れたからといって、ずらすことは自分のなかではできなかったです。必ずここでと決めてやってきたことを変えたくないという自分のなかの思いであり、一度決めた引退のタイミングをずらしてしまうと、また何かやりたいことが出てきて、どんどんずれてしまって、タイミングを失ってしまう可能性も考えられるので、自分の決めたものを貫きたかったのです」

20歳のとき、2013年4月20日に地元・福岡でおこなわれたアジア5か国対抗フィリピン戦で日本代表デビュー。
テストマッチ38試合に出場し、通算25トライ125得点(Photo: Getty Images)
日本代表として最後の試合となった2019ワールドカップ準々決勝後、ファンに手を振る(撮影:高塩隆)

 後悔はない。東京オリンピックに挑戦できず少し心残りはあるが、セカンドキャリアに進むというところで、後悔はしていないと言い切れる。コロナでオリンピックが延期になったことについては、「自分はこういう運命だったのかなと受け入れることができたので、落胆はしなかった」。
 日本代表の活動から離れ、これからは勉強に費やす時間が増える。セカンドキャリアへの準備に充てられるので、タイミングとしてはむしろよかったかなと、自分のなかでスッキリと受け入れることができたという。

 コロナ禍、医療従事者たちが大変な状況にあるなかで、改めて医学の道に進みたいという思いは強くなった。自分の親族や身の回りに医療従事者はたくさんいる。その人たちの奮闘ぶりを見て、決意するものが確かにあった。
 祖父は内科医、父は歯科医という、医師の家系に生まれ育った。高校生のときに膝の前十字靱帯を損傷し、手術をしてくれた整形外科医にも感銘を受け、医学の道へ進むことを決めた。大学は、1年間の浪人生活を経て筑波大学の情報学群に進学したが、医師になるという志は持ち続け、改めて、勉強に取り組む。

 医療に携わる人間として理想像はあるかと訊かれると、こう答えた。
「医学を学んでいき、研修医などを経験するなかで、いろいろと変わることはあると思うのでどの分野に進むかははっきりと言えないですけど、アスリートとしての気持ちもわかるので、けがを治すことだけではなく、精神的な部分でもしっかり寄り添ってあげられるようなお医者さんになれたらいいなという思いはずっと持っています」

 東京オリンピック挑戦は断念したが、世界中のトップアスリートたちが集う夢の舞台は一度経験している。2016年のリオデジャネイロオリンピックに7人制ラグビー日本代表として出場し、オリンピアンになった。それ以前にもセブンズの国際舞台は踏んでいたが、リオオリンピックでも活躍し、強豪のニュージーランド代表から金星を挙げるなどしてベスト4入りの快挙を達成している。
「オリンピックという舞台では、メダルを獲るか獲らないか、その大きな差というものを実感させられたので、今回こそは必ずメダルを獲りたいと思っていました。なので、多少の悔いは残るかもしれないですが、自分自身が挑戦しなくても、(7人制日本代表候補には)すばらしい選手たちがたくさんいます。彼らがきっとメダルを獲ってくれると信じて応援したいです」
 コロナが収束に向かって東京オリンピックが開催されれば、そのことにも感謝をして、成功を祈りながら応援するつもりだ。

2016リオオリンピックの準々決勝でフランスを破り歓喜(Photo: Getty Images)
パナソニック ワイルドナイツで優勝したい思いは強い(撮影:早浪章弘)

 福岡は、日本代表から退くことを表明したが、ラグビー選手として引退するわけではない。
「次のトップリーグではパナソニック ワイルドナイツの一員として、自分らしい最高のパフォーマンスができるように、準備したいと前向きに検討しています。これからも応援よろしくお願いします」

 ワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督も、来年も福岡と一緒に戦えることを楽しみにしており、こんなメッセージを送った。
「彼の意志を尊重したいです。福岡選手はすばらしい選手であるとともに周囲に良い影響を与えられる人です。そして、幸運なことに我々は来年のトップリーグの舞台でもう一度、福岡選手のプレーを観ることができます。パナソニック ワイルドナイツと彼のサポーターは、福岡選手が来年のトップリーグに出場してくれることを非常に楽しみにしており、良い形で医学の道へ送り出してあげたいと思っています」

 福岡は、野武士軍団で5年目となる次のシーズンがラグビー選手としてのラストシーズンになるとは明言していない。しかし、心に期すものはある。
「パナソニック ワイルドナイツとして自分自身は優勝を経験していないので、後悔がないように、最後はチームのみんなと笑って終えられるようなシーズンにしたいです」

 自分の人生だ。決めたことは貫く。
 最後に、福岡堅樹から若者たちへのメッセージを記しておきたい。
「自分の力ではどうしようもない、コントロールできないことがある。それは仕方がないと受け入れて、そのなかで、いまの自分には何ができるか、ということにフォーカスしてほしい。自分にできることをしっかり考えて、自分の道を貫いてもらえたら、それがいちばんいいのかなと僕は思います」

ワールドカップで日本中を熱狂させた福岡堅樹。これからも自分の人生を懸命に突き進む(撮影:松本かおり)