アンケートで集まったユーザーの声は、その一つひとつがラグビーをめぐるストーリーだ。第1回の1987年から2019年、この33年間の間に生まれたファンもいる。ラグリパ・ユーザーに行ったアンケートから、ラグビーワールドカップ(RWC)名勝負ベスト5を見ていこう。4位は2試合が並んだ。
4位◉1991年大会 日本 52-8 ジンバブエ
「名将と名手。必然のビッグウィン」
「なんといってもRWC初勝利。大学生のとき感動してみていた。ここから先が長かった…」(いばっち/神奈川県/48)
「1991年RWCへの取り組みを継続できていたら、1995年のブルームフォンテーンの悲劇はなかった」(匿名)
大会関係者は、この試合を英国の子どもたちに観てもらえてよかった、とメディアに伝えた。北アイルランドはベルファスト。レイヴェンヒル の小さな競技場、すでに決勝トーナメント進出の消えたチーム同士の対戦。それでも集まった9000人の観客は、大会未勝利の日本のアタックに沸いた。重ねたトライは9で第2回大会の1試合最多トライ記録だ。試合後、現地のラグビーファンは興奮でピッチになだれ込んだ。
太田治、田倉政憲の両PR、LO林敏之、FL梶原宏之らFW陣が果敢に、そして運動量豊かにボールを獲り続けた。SH堀越正巳が神業の素早さでボールをパスアウト、平尾誠二&朽木英次のCTB陣がチャンスを演出、WTB吉田義人は相手ディフェンスを切り裂くランで2トライを奪った。
すべては宿沢宏朗監督の2年半に及ぶ強化の賜物だ。セレクション、情報収集、マッチメイクまで、この大会の勝利のために準備を尽くした。91年3月にはジンバブエと日本B代表の練習試合を敢行、情報収集と分析の末のBK勝負。後半7トライの猛攻は、日本の戦い方が、相手の戦意を削ぐほど的を射ていたことを物語る。
「試合が進むうち、みるみる自信が崩れていった。一生懸命タックルしたつもりだが、日本はどこからでも攻めてくるのでどうにも防ぎようがなかった」
ジンバブエのブライアン・カリン主将は試合後に語った。(*1)
4位◉1995年大会決勝 南アフリカ 15-12 ニュージーランド
「最強同士が激突。世界史の出来事」
「南アフリカの国歌もNZの国歌も歌えるようになり、大人になった今、子ども達と一緒にあらためて見たい」(ともさん/滋賀県/42歳)
「生まれて初めて見た延長戦。足が攣ってもピッチに戻っていく選手。fulltimeノーサイドで十分じゃないかと違和感を持ちつつ、感激」(Gomi/京都府/69)
勝ちたい。勝たねば。負けられない。戦う者同士にかかるプレッシャーが強くなるほど、その勝負もまた重く厚みを増す。ラグビー史上、別格の強豪とされる二つの国がRWCの頂上で激突することになった。
1995年の大会は優勝した南アフリカ、マンデラ大統領の大会でもある。人種隔離政策に伴う国際制裁から、RWC初出場となる南アは、この大会に向けて国をあげた強化を結実させようとしていた。それは、新たな国家の指導者を先頭に新たな歩みを始める南アを後押しする面があった。NZとの決勝は、いちスポーツを超えた国家事業。感動的だった開始直前のジャンボジェットの飛来、機体の腹に書かれた「GOOD LUCK BOKKE」の文字が印象的だ。しかしその素敵なアクシデントも、映画「インビクタス」で描かれたようなパイロットの善意ではなく、秒単位で計画された演出だったという(*2)。
そして、RWC1995はもちろん、ラグビー界では「フェノメノン」ジョナ・ロムーの大会だ。196センチ、120キロの体躯の高速移動は世界を沸かせ、立ちはだかるディフェンダーを文字通りになぎ倒して決勝に導いた。見どころは、それでもロムーを止めた南アのタックルの雨。188センチのSH、ユースト・ファンデルヴェストハイゼンの勇敢な血を這う一撃は、勝敗に影響した。
3位◉2003年大会決勝 オーストラリア 17-20 イングランド
「貴公子の右足が一閃」
「両チームディフェンスが良いので見応え」(アダツ/山梨県/15歳)
「やっぱりウィルキンソンのDGに勝るものはない」(あきりん/神奈川県/46歳)
「オジサン軍団イングランド。ウィルキンソンのDG。北半球のユニオンで、唯一優勝」(kawa/東京都/50歳)
世界のラグビーは4年サイクルが定着、選手たちの身に着けるアイテムにさえ技術の粋が凝らされた。保守の権化・イングランドが、襟のないボディスーツ様のジャージで戦ったのは象徴的だ。ラグビーはフィジカルが極まり、情報化で戦術も均一化。新しい発見には乏しい大会だった。
が、延長となった決勝は大会史上屈指のドラマになった。
主役はイングランドの司令塔、ジョニー・ウィルキンソン。対するオーストラリアは、エディー・ジョーンズ監督に率いられ、ラグビーリーグ(13人制)出身選手を育成し起用するなど、万策を尽くして地元開催のファイナルにたどり着いた。
オーストラリアが追いつき14-14で延長戦に入ったこの試合、記録されたトライは両軍通じて2つだけ。PGによる息詰まるシーソーゲームとなった。延長で3点ずつを加え、17-17で迎えた終了1分前。イングランドのSOウィルキンソンが、なんと利き足と逆の右足で、決勝DGを決めた。イングランドは、準決勝でフランスを24-7で倒した試合もキックによるスコアの意図が明確で、5PG3DGの内容だった。
延長に入る前のブレーク中には、チームの円陣を離れ、ひとりキックの感触を確かめるウィルキンソンの姿があった。ウィルキンソンは後半にDGを2本、左足で外している。
2位◉2019年大会 日本 28-21 スコットランド
「台風から奇跡の回復。“戦う前”にあった勝利」
「後半、50分頃から終了まで恐くてまともに見れなかった」(たなえつ/奈良県/59)
「死ぬまで覚えていたいし、多くの方に語り継ぎたい。試合終了直前のカウントダウンからの一体感は、生涯もう一度感じることができるかどうか」(ミキティ/大阪府/36)
決戦は10.13、横浜。
現在も日本国内に深い爪痕を残す台風19号の猛威が、前夜まで試合会場を襲っていた。
何かと因縁の深いスコットランドと、初の決勝トーナメント進出を賭けて戦うことになった日本。すでに日本を弱小国と捉える空気はなく、同じく8強入りのかかったスコットランドは、試合前から神経を尖らせていた。もし試合が中止となれば、規約をたどればスコットランドは予選プール敗退となる状況。横浜決戦を控えたスコットランドは開催側を強く牽制していた。
しかし、日本チームも、大会を支えるスタッフも、心境は別の次元にあった。
横浜国際総合競技場のスタッフ、大会スタッフは、プライドと長い期間をかけてこの大会のために準備を進めてきた。台風直撃となった10月12日の試合は中止となったが、スコットランド戦の朝、横浜の芝は青々と輝き、泥濘戦を覚悟していたジャパンのスタッフを驚かせた。
アイルランド戦で手応えを掴んでいたジャパンも準備は万全。13日の決戦の最中、激しいやりとりの中にも、日本選手たちの余裕が感じられたのは、判官贔屓ではなかった。老獪さにスキルも備えたはずのスコットランドに、先制され、追いついて差を広げ勝ち切った大一番は、まさに2019ジャパンの、それを支えた多くの人々の集大成と言えた。
1位◉2015年大会 南アフリカ 32-34 日本
「好勝負の感激とサヨナラ逆転のインパクト」
「ハリー・ポッターシリーズのJ.Kローリングが、小説でも書けない、と言った試合」(ラグビー題材でWEB小説書いてる人/神奈川県/31)
「真夜中のテレビ観戦、マンションの窓、ところどころに灯がともったお宅があった。まだまだ少ないラグビーファン、最後のトライの瞬間、時間を忘れて歓喜の声をあげた」(ako/大阪府/59)
「同時に今まで負けた理由を探していた自分に腹が立った瞬間でもある」(とんこ/大阪府/40)
ラグリパ・ユーザーが選ぶRWC名勝負第1位は、2015年「ブライトンの奇跡」の頭上に。
おそらく他国のファンの声とも響き合う結果だ。世界中の誰も予想していなかった熱戦と最終スコアもまた、長く、無数に積み上げられた日本の準備の結晶だった。
チームはかねて「BEAT BOKS」の言葉を頭に心に刻みつけながら、厳しい練習を乗り越えてきた。試合が始まり、複数の日本選手たちが感じ、交換していたのは、「いける」「やれる」といった手応えだ。
先に仕掛ける。取られたら、すぐに取り返す。僅差のまま、最後の5分へ。秒ごと、分ごとに自分たちの勝ちパターンを実現していった。
「とてつもなく重く、強かった」(LO真壁伸弥)という南アのコンタクトにも、日本は数で勝負し続けることができた。ハードワークの文化は、終盤になればなるほど、選手にさらなる自信と、没入感を与えていた。
最終スコアは34-32。インジュアリータイムの連続攻撃は、あの逆転トライでフィニッシュとなり、歴史が作られた。
このイングランド大会はRWC史上最多の観客動員を記録(248万人)。開催国イングランドが予選プール落ちしたにもかかわらず冷めなかった大会の熱狂は、大会序盤から輝きを放った日本を抜きには語れない。日本にとっては、1991年大会ぶりの勝利でもあった。
最後に紹介したいコメントは、そのジンバブエ戦を推してくれた小学生のもの。
「まだ生まれてないけど記念の勝利!」(ゆうき!/神奈川県/9)
一つしか選べない名勝負に、直接体験していない試合を選んでくれた。2015年を知り、2019年を知るその目にも、1991年のジャパンは、きっとジャパンとして映るだろう。何度見ても、いいな。ラグビーにはそういう試合がある。
注釈)
*1 藤島大著「序列を超えて」より引用
*2 参考・「ラグビーワールドカップ激闘の奇跡Vol.1」内「栄光と激闘の記憶・第3回大会」(文・美土路昭一)
「WOWOWでラグビーワールドカップ™ 感動と興奮の名勝負選!」
ラグビー世界最強を決めるラグビーワールドカップ。1987年に⾏なわれた第1回⼤会から、2019年の⽇本⼤会まで、WOWOWではその歴史に残る名勝負19試合をお届けする。 6月7日(日)午後0:45からWOWOWプライムでは、「1991年大会 アイルランドvs日本」を無料放送でお届け。
<今後の放送予定>
★ラグビーワールドカップ™ 感動と興奮の名勝負選! 〜⽇本代表 激闘の軌跡〜 ラグビーワールドカップ、あの感動と興奮が再びよみがえる。1991年大会から2019年大会まで、日本代表の激闘の軌跡10試合をお届けする。
・1991年⼤会 アイルランドvs⽇本
6⽉7⽇(⽇)午後0:45[WOWOWプライム]※無料放送
ゲスト解説: 堀越正己 / 解説: 吉田義人 / 実況: 住田洋
・1991年⼤会 ⽇本vsジンバブエ
6⽉28⽇(⽇)午後2:30[WOWOWライブ]
ゲスト解説: 堀越正己 / 解説: 吉田義人 / 実況: 住田洋
・2003年⼤会 フランスvs⽇本
7⽉5⽇(⽇)午後2:00[WOWOWライブ]
・2007年⼤会 カナダvs⽇本
7⽉12⽇(⽇)午後3:30[WOWOWライブ]
・2015年⼤会 南アフリカvs⽇本
7⽉19⽇(⽇)午後0:15[WOWOWライブ]
・2015年⼤会 サモアvs⽇本
7⽉23⽇(木・祝)午後0:30[WOWOWライブ]
・2019年⼤会 ⽇本vsロシア
7⽉23⽇(木・祝)午後2:30[WOWOWライブ]
・2019年⼤会 ⽇本vsアイルランド
7⽉24⽇(金・祝)午後0:30[WOWOWライブ]
・2019年⼤会 ⽇本vsスコットランド
7⽉25⽇(土)午後0:30[WOWOWライブ]
・2019年⼤会 ⽇本vs南アフリカ
7⽉26⽇(日)午後0:00[WOWOWライブ]
★ラグビーワールドカップ™ 感動と興奮の名勝負選! 〜全9⼤会 決勝の記憶〜
世界一を目指し、強豪国同士が激しい戦いを繰り広げた名勝負の数々。1987年大会から2019年大会まで全9大会の決勝を余すところなくお届けする。
・1987年⼤会 ニュージーランドvsフランス
6⽉21⽇(⽇)午前10:30[WOWOWライブ]
解説: 薫田真広 / 実況: 四家秀治
・1991年⼤会 イングランドvsオーストラリア
6⽉28⽇(⽇)午後0:30[WOWOWライブ]
解説: 薫田真広 / 実況: 鈴木健
・1995年⼤会 南アフリカvsニュージーランド
7⽉5⽇(⽇)午前11:30[WOWOWライブ]
・1999年⼤会 オーストラリアvsフランス
7⽉11⽇(土)午後0:00[WOWOWライブ]
・2003年⼤会 オーストラリアvsイングランド
7⽉18⽇(土)午前10:00[WOWOWライブ]
・2007年⼤会 イングランドvs南アフリカ
7⽉23⽇(木・祝)午前10:30[WOWOWライブ]
・2011年⼤会 フランスvsニュージーランド
7⽉24⽇(金・祝)午前10:30[WOWOWライブ]
・2015年⼤会 ニュージーランドvsオーストラリア
7⽉25⽇(土)午前10:30[WOWOWライブ]
・2019年⼤会 イングランドvs南アフリカ
7⽉26⽇(日)午前10:00[WOWOWライブ]