未来を担う子どもたちへ。
徳増浩司さんが上梓した『君たちは何をめざすのか』(ベースボール・マガジン社/6月2日発売)は、2019年に日本各地で開催されたラグビーワールドカップの想い出に浸るだけの本ではない。
夢のような44日の間に、日本各地で信じられないようなことがたくさん起きた。そして、そこには子どもたちの姿があった。
彼ら、彼女たちは、ワールドカップで学んだことを、今後にどう活かすのか。未来へのメッセージがメインテーマの一冊だ。
著者は、茗溪学園高校ラグビー部の監督時代にチームを花園優勝に導き、その後、日本ラグビー協会に勤務した。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐を務めた。
若き日にはウエールズでコーチングを学んだ。ワールドカップの招致、準備に奔走し、アジアラクビーの会長にも就く。豊富な国際経験を活かし、日本人と外国人の子どもたちが一緒にラグビーを楽しむ渋谷インターナショナルラグビークラブを設立。今年になって『Next Step』を立ち上げ、国際舞台で活躍できる人材の育成にも力を注ぐ。
世界のフィールドで活躍してきた著者が、ワールドカップであらためて感じたラグビーの底力と、子どもたちが秘める可能性を綴った一冊になっている。
徳増さんは、先のワールドカップが人々の想像をはるかに超える成功に終わったのは、ラグビーの魅力が磁力になって、多くの人たちを惹きつけたからだと考える。
「関係者、サポーターを含め、日本ラグビーが全力を出し切った。それを見た多くの人たちが、おもしろそうだ、と磁石に吸い寄せられように動きましたよね」
同じような現象を、何十年も前にも見た。
「茗溪学園の(監督の)時、試合が始まると監督の声が届かなくなる。そうなると、選手たち、チームが自分たちで動き始めました。今回、試合の素晴らしさはもちろんですが、日本独特のおもてなしや、国際交流などがミックスして、これまでの日本にはなかったスポーツの楽しみ方や価値が生まれたと思います。そして、地方の人たちのパワーで、試合開催地以外も盛り上がった。そういうことが大きなうねりになり、ワールドカップそのものが(勝手に)動き始めたような気がしました」
終章も含めると6つの章で構成されている『君たちは何をめざすのか』。第2章は「夢の実現、ミラクルストーリー」として、徳増さんが大会中に出会った3人のストーリーが書かれている。
オーストラリアのパースに住むイーサン・パーキンくんの冒険は、著者への3通のEメールから始まった。
「父と一緒にワールドカップ に行きます。レフリーをやらせてもらえないでしょうか?」
10月6日に熊本でおこなわれたフランス×トンガの試合前、沖縄に住む中学1年生の女子、伊礼門千珠さんは半ベソ状態だった。それなのに、試合後は一生の宝物を得た。マン・オブ・ザ・マッチのプレゼンターを務めた。
岐阜に住む小学6年生、村瀬亘くんは、楽しみにしていたニュージーランド×イタリア(豊田スタジアム)が台風の影響で中止になり、泣きじゃくった。でも、やがて、「僕、もう大丈夫やで」と自身で立ち上がった。
幸運が訪れる。人々の優しさに触れる。ラグビーを、それまで以上に好きになった。
第3章には、釜石の高校生からのメッセージもある。第4章、第5章には、大会中に触れ合った人たちとの交流から生まれたエピソードが詰まっている。
ただの想い出話ではない、これからにつながるヒントが各ページにある。
ぜひ、読んでください。
◆amazonでのご購入はこちらから。