ラグビーリパブリック

大体大の安藤栄次・新ヘッドコーチが「(選手に)目線を合わせる」と誓うわけ。

2020.06.02

オンライン取材に応じてくれた大阪体育大の安藤栄次ヘッドコーチ


 大体大ラグビー部が、他大学出身の新ヘッドコーチ(HC)を招いた。早大で2度、大学日本一となった安藤栄次。古豪復活へ対話を重んじる。

「日本人の場合の選手とコーチの間柄で言うと、選手側が委縮する場合が多いと感じます。特に若い子にはコーチに言われたことだけをやる場合があって、それがあまりよくないのではないかと思いまして。コーチが選手と話していくなかで彼らの悩み、問題点に気づける。ですので、一方通行にならないように、選手とコミュニケーションをしながらやろうとは思っています」

 1968年に創部して大学選手権で3度の4強入りを果たしてきた「タイダイ」だが、近年は低迷していた。昨年度は加盟する関西大学Aリーグで8チーム中8位に終わり、2季連続で進んだ入替戦では関大に21ー43で敗戦。2度目の同Bリーグ降格を余儀なくされた。

 2018年から同部に携わる久門大朗チームディレクターは、抜本的なチーム改革のためフルタイム指導者を探した。ここで白羽の矢が立ったのが、現役時代にタフなSOとして活躍した安藤だった。

 早大卒業後の安藤はNECを経て2012年に三菱重工相模原へ移籍し、2015年からは同部でコーチに転じている。久門は安藤がプレーしていた頃の三菱重工相模原で通訳を経験していて、現職に就いてからも連絡を取り合っていた。

 久門が本格的に声をかけた2020年冬頃は、三菱重工相模原の加盟する国内トップリーグが延期や中止の発表を重ねていた時期だった。安藤は大学クラブのHCという「新しい場所、新しい役職でのチャレンジ」に魅力を感じ、今回の決断を下した。三菱重工相模原からの出向という形を取れるため、単身赴任で久門の求めるフルタイム勤務が叶う。

 中谷誠監督兼ゼネラルマネージャーのもと、グラウンド上の多くの領域を任されそうだ。肉体強化へ注力する文化を見直し、防御の役割分担を明確化したいという。

「(過去の)映像を見た限りでは、ひとりひとりの立つ間隔(がばらついたり)、ポジショニングがどうしてもダブったりするシーンがあったり、場所、場所で大外にかなりスペースを作られたりするシーンがありました。体力的な部分でも改善が必要だとは思いますが、それぞれの役割の明確化をしてあげたいと思います」

 学生時代に師事した清宮克幸氏(現日本協会副会長)、日本代表に選ばれた際に指導を受けたジョン・カーワン元HCに「自分で引っ張っていくリーダーシップは魅力。トップに立つ人間の立ち振る舞いを学べた」と敬意を示しながら、もっとも影響を受けたコーチには三菱重工相模原のHCだったジョージ・コニアの名を挙げる。

「コニアは僕の見本となっている。それはなぜかというと、細かく、丁寧なコーチングをされるんですけど、情報が多すぎるわけではない。(首脳陣同士での)事前のミーティングを多くおこなっていて、たくさんの情報をコーチ陣で精査をして、必要なこと、必要ではないことを整理。何をどう伝えるかを共有していました。コニアが教員を経験しているからだと思うのですが、人に教えることに長けている」

 コニアの教えが現在の指導スタイルを支えていそうだが、これから活きそうな経験は他にもある。

 安藤は2018年、当時同僚だった伊藤雄大コーチとともに福島の聖光学院高で客員コーチを務めた。三菱重工相模原のCSR活動の一環で月に1回ずつのペースで通い、初の全国大会出場を果たした。その過程では、「伝え方」について多くを学べたと話す。

 例えば、パスを呼び込む際にスペースへ真っすぐ駆け込むよう「ストレートラン!」と専門用語で伝えたら、生徒たちはタックラーが固まる場所へ突進するなど「それぞれ、自分のなかでの『真っすぐ』を走ってしまう」。自分たちの「常識」だけではものごとは進まないことを、校庭で再認識した。

「大事なのは、目線でした。これは大人が相手でも一緒だと思うんですが、(教える側が)話しかけにくい存在になってはいけないですし、より自分自身の目線を下げることが重要だと意識しました。監督さんが教育的な指導をするなかで私たちはラグビーを伝えるのですが、3年生などリーダーの子たちは僕たちのメッセージをポンと受け取る。しかし、2年生以下はわからないことがあるのに聞けないという状況がありました。ここで私たちは、なるべく(円陣の)2~3列目にいる子たちに目を合わせてメッセージを伝えたり、デモンストレーションをやってもらったりしていました。後ろにいる子たちがやることを理解することで、チーム全体の理解度アップにつながる」

 この感覚は、大学生へのコーチングでも活かしたい。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け本格始動は6月以降となったなか、「自粛期間が長かったので、活動再開後に安全にコンディションを戻すプログラムを立てていきたい。あとはオンラインのツールを使い、チームがどう戦うかなど頭の準備に時間をかけている」。目標は今季中のAリーグ復帰だが、三菱重工相模原は2017年度までの6シーズン、下部からトップリーグに上がる入替戦で苦杯をなめてきている。その歴史を踏まえ、こうも口にする。

「ターゲットが(入替戦)ひとつだけだと、なかなかうまくいかないことも多かったです。(シーズンの構造上)どのチームと当たるかが試合へ漠然と準備を進め、直前に相手が決まって『どうする?』とバタバタする。さらに三菱重工相模原の場合は(戦力差のある下部の)リーグ戦のなかでなかなかレベルアップが図れず、(最後は)入替戦独特の雰囲気で飲まれてしまうところがあった。何か立ち返る武器がないと、パニックに陥った時に冷静さを取り戻せない。だから大体大も、武器を持つ。入替戦でも(結果と同時に)そこでどれくらいのパフォーマンスをするかが大事。ここをゴールというより、飛躍のためのステップにしたい」

 温厚な人柄と深い想像力をにじませる38歳はいま、静かに燃えている。

Exit mobile version