ラグビーリパブリック

国境を越えて団結したサンウルブズ。特別な存在となったチームは、存続か、解散か…。

2020.06.02

多国籍軍だったサンウルブズ。彼らは特別な存在となった。写真は2017年のスコッド(撮影:松本かおり)


 クラブラグビーの世界最高峰リーグともいわれるスーパーラグビーに、日本から参加するチームとして生まれたサンウルブズの、5年間の戦いが終わった。
 今後、どうなるかはわからない。
 2020年大会を最後にスーパーラグビーから除外されることは1年前に決まっていて、ラストイヤーは大久保直弥ヘッドコーチのもとに集まった選手たちが懸命にプレーしていた。が、新型コロナウイルスの世界的大流行により6試合を戦っただけで中断となり、再開を検討したオーストラリアの国内大会に参戦することを新たな目標に交渉や準備をしてきたが、その願いも叶わず、無念のシーズン終了となった。
 これで解散するのか、それとも存続するのか……。サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパンエスアールの渡瀬裕司CEOは「まだ何も決まっていない」と言った。日本協会とともに話し合うこととなる。

 コロナ禍、オーストラリア国内大会への参戦断念が発表された翌日の6月2日、渡瀬CEOと大久保ヘッドコーチがオンラインで会見をおこなった。

6月2日にオンラインで会見をおこなったジャパンエスアールの渡瀬裕司CEO(撮影:松本かおり)

 まず、渡瀬CEOがオーストラリア国内大会参戦を断念することになった経緯を説明した。
 スーパーラグビー2020は3月中旬の第7節を最後に中断となり、新型コロナウイルスが収束に向かっているニュージーランドとオーストラリアが国内リーグとして再開することを検討してきた。サンウルブズは今年のスーパーラグビーでオーストラリア・カンファレンスに入っていたこともあり、同国内のリーグに参戦することを目標にオーストラリアラグビー協会と連携をとって準備を進めてきたが、最終的には参戦は難しいという結論に至った。

「その大きな理由は、オーストラリア政府から、サンウルブズの選手・スタッフの入国について許可がとれなかったからです。仮に入国できたとしても、ただちに14日間の隔離をおこなわなければならず、隔離の間は指定された施設内から出ることができないため、トレーニングはできるようにしてほしいという要望も通らなかった。準備してオーストラリアに入国できたとしても、2週間隔離して、実際に練習を開始できるのは6月20日過ぎということで、予定されている7月4日の開幕には間に合わないということから、サンウルブズ参戦は現実的ではないという結論に至りました」

ラストイヤーにサンウルブズを指揮した大久保直弥ヘッドコーチ(撮影:Hiroaki.UENO)

 大久保ヘッドコーチは、「率直に言ってこういう終わり方になってしまったことは残念」と気持ちを明かした。それでも、スーパーラグビーが中断になってからの2か月、もう一度プレーできるように、渡瀬CEOをはじめ多くの人が選手のために一生懸命、粘り強く交渉を続けている姿を横で見ていたから、「納得しています」と言った。

 最後の望みが絶たれたことは、選手たちには5月30日に伝えられた。事実を淡々と聞かされた選手たちは悔しさもあったに違いないが、ジャパンエスアールの努力やコーチングスタッフたちの献身に対し、感謝のメッセージが選手たちから返ってきたという。
 2020年のサンウルブズは、スーパーラグビーと国内トップリーグの開催時期が重なったこともあり、選手を集めるのに苦労した。それでも、渡瀬CEOいわく、覚悟を決めた選手が国内外から集まり、退路を断って参加してくれた選手もいた。
「そういう思いのある選手が集まった集合体だということが、まとまりのあるチームになれた大きな一因だと思います。のびしろのあるチームだったがゆえに、こういった形でシーズンが終わるというのは、選手・スタッフは本当に無念だったと思います」(渡瀬CEO)

 大久保ヘッドコーチは、選手たちに胸を張ってほしいと伝えたという。2020シーズンのはじめは急造チームで臨んだが、開幕までの4週間、誰一人不満を口にせず、一致団結して2月1日のレベルズ戦(福岡・レベルファイブスタジアム)勝利につながった。コロナで6試合しか戦えず、ラストイヤーは1勝5敗という不完全燃焼で終わったが、「選手、チームの努力が否定されるわけではないと思っています。私自身現場にいて、本当に日本のラグビーの歴史に名をのこすチームだったと思います」(大久保ヘッドコーチ)。

参戦5年目にしてシーズン開幕戦初勝利となった2020年2月1日のレベルズ戦(撮影:Hiroaki.UENO)

 サンウルブズは多国籍軍だった。5年間を振り返れば、日本のほかに、ニュージーランド、オーストラリア、フィジー、サモア、トンガ、南アフリカ、ジョージア、アメリカ、アルゼンチン、そして韓国や台湾出身の選手もスコッドに名を連ねた。

 2018年からチームに携わり、2020年に指揮官となった大久保ヘッドコーチは、国境を越えて団結したサンウルブズという存在は、社会に訴えるものも大きかったのではないかと主張する。
「サンウルブズがこの5年間で証明してきた、国境を越えて団結する力。そのために一人ひとりが何をしてきたか、いますぐに評価するのは難しいですが、この困難な状況だからこそ、国境を越えて、文化を超えて、一致団結して戦っていくというサンウルブズのアイデンティティ自体は、私自身はもっと評価されてもいいと思います。このアイデンティティを、現場に携わってきた人間として、今後ともファンの皆さんを含めて、共有していきたいと思っています」
 2020年のチームは、実質的に約3か月しか一緒に活動できなかったが、「2年も3年も一緒に仕事をしているんじゃないかと思えるようなチームだった。いろんな言葉が飛び交ったチームでしたが、一人ひとりの行動がすばらしかった」と指揮官は振り返る。

 サンウルブズはもともと、2019年のワールドカップ日本大会へ向けて日本代表が勝つための強化の器として誕生し、スーパーラグビーに参戦してきた。「その役目は十分に果たしてきたのかなと思います」と渡瀬CEOは言う。

チーフスの主軸だった日本代表主将リーチ マイケルは2018年からサンウルブズに加わった(撮影:松本かおり)
2016年のハグアレス戦でスーパーラグビー初勝利。歓喜のサンウルブズ(撮影:高塩隆)

 あっという間の5年間。しかし、思い出はたくさんある。

 初勝利は2016年4月23日、東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれたハグアレス(ジャガーズ)戦だった。デビューイヤーに7連敗と苦しんでいたサンウルブズは、同じ年に新規参戦したアルゼンチンのチームに挑み、36-28で激闘を制し歓喜した。

 2017年はライオンズ(南アフリカ)相手に7-94と大敗した試合もあり、元南ア代表ヘッドコーチのニック・マレットからは「日本のラグビー関係者はスーパーラグビーをなめている」と批判されたこともあった。
 2016年末から2017年にかけて、スーパーラグビーの参加数を18チームから15チームに減らすことが話し合われていたとき、実は、サンウルブズを外そうという声があったことを渡瀬CEOは2日の会見で明らかにした。

 そんな厳しい声を見返すかのように、2018年には初開催となった香港のモンコックスタジアムで南アフリカのストーマーズに挑み、同点で迎えた試合終了間際の攻防でターンオーバーから逆襲し、SOヘイデン・パーカーが劇的なドロップゴールを決め、海外での初勝利という歴史を刻んだ。

 参戦4年目だった2019年の3月2日には、ニュージーランドのハミルトン(FMGスタジアム・ワイカト)で優勝2回を誇る強豪チーフスを下し、アウェイゲーム初勝利を果たした。

 そして、2020年3月14日にオーストラリアのブリスベン(サンコープスタジアム)でおこなわれたクルセイダーズ戦(14-49)が、サンウルブズにとってのスーパーラグビー最後の試合となった。

 5年間の通算成績は9勝1分58敗だった。

「我々が想像する以上に多くのファンの方々がこのチームを応援してくれて、競技場でも大きな声援を送ってくれました。どこにもない、サンウルブズの応援のカルチャーも作ってくれた。そういったことを十二分にみんなで再認識したうえで、今後の在り方を考えていきたいと思います」(渡瀬CEO)

2016年大会で9トライを挙げ、トライ王を争った山田章仁。後ろは大野均(Photo: Getty Images)
サンウルブズの初代主将を務めた堀江翔太(Photo: Getty Images)

 サンウルブズは今後、どうなってしまうのか。
 日本代表の強化につなげるためにも存続を望む声は多いが、まだ何も決まっていない。渡瀬CEOは「(契約的に)選手を抱え続けるということは、いまのところは考えていない」と話し、参戦する特定リーグがないため、状況は難しいとの見解を示した。臨時的に編成されるバーバリアンズ(ホームグラウンドを持たず、世界中から選手を招集して編成される伝統あるクラブ)のような存在になる可能性もあるが、いずれにしても、ファンとのつながりは今後も続けたいと考えている。

 締めくくりとして、渡瀬CEOは「ぜいたくを言えば、試合ができればベストだと思う」と希望を述べた。しかし、コロナ禍で許される状況かというところも検討しなければならない。タイムリミットもある。「ファン感謝祭のような形の方が現実的かなと思っていますが、それも実際に、物理的に、競技場で集まってできるのか……。ひょっとしたらそれはオンラインになるかもしれないですが、ただ、何かできることはあると思うので、検討していきたい」と答えた。

 かつて所属した選手からも惜しむ声があがっている。
「過去の選手もツイッターなどにあげてくれ、初年度に真っ先にサインをしてくれた堀江(翔太)選手や立川(理道)選手を含めて、みな、サンウルブズに関していろんな思いを持ってくれている。感謝の気持ちは非常に大きい」(渡瀬CEO)

 そして、選手時代にニュージーランドへ渡りサウスランド地方代表でプレーしたことがある元日本代表FLの大久保ヘッドコーチは、選手が力を伸ばす、チャレンジできる舞台の必要性を改めて訴える。
「選手の向上心は抑えられない。世界にいろんなリーグがありますが、スーツケースひとつで、すべてを犠牲にしてでも海外で成功したい、日本の企業に所属しないで自分の実力で勝負したい、という選手は僕が知っている限りたくさんいます。サンウルブズはどんな形でもいいので、名前をのこしてもらえればうれしいです」

サンウルブズは多くのファンに愛された(撮影:松本かおり)