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【ラグリパWest】生え抜き最年長、トモの穴を埋める。 松岡勇[近鉄LO]

2020.05.25

トンプソン ルーク退団後、その穴を埋める期待がかかる近鉄LOの松岡勇



「朴訥でしょ」
 松岡勇への吉村太一の評だ。

 ぼくとつ=質朴で無口なこと。無骨で飾り気のないこと(広辞苑・岩波書店)。

 14年目に入ったLOをチームディレクターはほめる。2人は近鉄に所属する。

 松岡はこの5月で36歳。生え抜きチーム最年長。SOの正面健司が1歳上だが、神戸製鋼からの移籍組だ。
「どっかからすごいスピードになった。時間がどんどん進んで行った感じです」
 ベテランの実感はない。

 愛称「いさむ君」は「トモ」ことトンプソン ルークとセカンドローのコンビを組んだ。その戦いぶりを真横で見てきた。
「同じプレーは難しい。でも、そうなりたいと思ってやってきています。トモさんはずっと痛いところに頭を突っ込んできました」

 トモは日本代表としてW杯は最多タイの4大会出場を誇る。キャップは71。近鉄のみならず日本の英雄は今年2月、生まれ育ったニュージーランドに去った。
 その後継者としての期待がかかる。

 松岡は社員選手だ。近鉄バスに勤務する。
「売り上げの計算とか、お客さまの問い合わせに答えています」
 今は9時から18時まで定時で働く。新型コロナウイルスの影響で、チーム活動は中断されているからだ。

「運転手さんたちのお金で買ったトレーニング機器が営業所にあるのですが、空いている時間はそれをやらせてもらえます」
 勤務する大阪・八尾の営業所は協力的だ。

 ただ、通勤時間はかかる。自宅は兵庫の宝塚。阪急、JR、近鉄の3線乗り継ぎで、1時間30分は見ないといけない。
「僕が勝手に住んでいるだけですから」
 以前は河内永和在住も、阪神間にこだわりがあった。夫婦は神戸甲北高の同級生だ。

 住まいは清荒神、売布神社、中山寺と由緒ある神社仏閣が並ぶ一隅にある。
「窓を開けて寝ても、なんの音もしません。静かな所です」
 松岡は丸刈り。190センチ、107キロ。僧兵の武蔵坊弁慶はこんな感じだったか。

 競技を始めたのは中3から。兵庫県ラグビースクールに入った。
「兄貴がいてないとやってません。小学校はサッカー。真似してやってきました」
 3つ上に兄・毅がいる。神戸甲北、大阪体育と高校、大学も追いかける。

 兄は豊田自動織機のLO。2019年度シーズンを最後に引退した。身長で1センチ、体重で3キロ、松岡を上回っていた。兄弟の体格は180センチある父・猛の血を引いている。

 松岡は4年時の大学選手権(43回=2006年度)で準決勝に進出する。
「カントーは予想以上に激しかったです」
 V6を達成する関東学大に3−34と及ばない。しかし、3回目となるチーム最高位の4強入りを果たした。

 この大会で松岡たちは、関西リーグの伝統となる「送り出し」を創る。
 12月17日、花園で1回戦を戦ったのは大体大と京産大。平瀬健志と小西賢一の両主将は東海大仰星の同級生。お互いの試合前に花道を作り、拍手で選手たちの健闘を祈る。

「平瀬の提案で早めに花園に行きました。京産の試合中、僕らはアップしていたのですが、勝ってるぞ、すごいな、ってなりました」
 京産大は帝京大に10−7。準決勝で早大に12−55で敗れるが、同大抜きの関西勢2校による4強進出は初めてのことだった。

 近鉄に入って5年目。チームはトップリーグで最高の5位に来た。そこまで、試合に出ない、出るが年ごとに入れ替わった。

 チームスローガンの「REVIVE」の意味がよく分からない。直訳すれば「甦る」だ。
「寝てる時間を少なくする、ということをコーチに教えてもらいました。それからタックルしてすぐに立つを繰り返しました。そうしたら6年目から出れるようになりました」

 心に残る対戦相手はサントリー。トップリーグ制覇は東芝と並ぶ最多5回を数える。
 2015年11月28日、愛知・瑞穂で25−19と勝利する。トップリーグの公式戦としては11戦してこの白星が残るだけだ。

 この時はトモと両LOで先発した。
「勝ててうれしかったですよ。サントリーとは接戦するイメージが強いんです」
 2015年を挟んで前年は30−31、翌年は13−14。ともに1点差負けだった。

 しかし、今いるリーグはサントリーと戦えない二部のトップチャレンジ。松岡のトップリーグ出場のキャップ数は95。表彰対象である大台の100を前に足踏みをしている。

 コロナによって、トップリーグとトップチャレンジの24チームでリーグ戦をする方針も不透明になっている。
「口でわあわあ言えない。態度で、姿勢で見せたい。それしかできないですから」
 フォーマットや開催時期に関係ない。
 やることは決まっている。
 愚直に前に出る。
 松岡はトモの意志を継ぎ、生え抜き最年長のつとめを果たしていく。


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