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違反降格で移籍市場注目のサラセンズ W杯準優勝戦士と欧州最優秀選手が日本のチームに加入か

2020.05.22

サラセンズ、イングランド代表でコンビを組むジョージ・クルース(左)とマロ・イトジェ(Photo: Getty Images)


 来季へ向けてラグビー界の移籍市場は活発化しているが、特に注目されているのはサラセンズの選手たちの動向だろう。
 ロンドンを拠点とするサラセンズはこの10年間で、ヨーロッパチャンピオンに輝くこと3回、イングランド最高峰リーグのプレミアシップでも5回優勝するなど、世界的にも人気がある強豪クラブ。ラグビーワールドカップ2019日本大会で準優勝だったイングランド代表のスコッドには、サラセンズ所属選手が最多で9人もおり(追加招集のSHベン・スペンサーを含む)、そのうち8人が決勝の試合登録メンバーに名を連ねていた。

 しかし、2016年から3シーズンにわたって選手の年俸総額の上限を定めたサラリーキャップ制度に違反したとしてプレミアシップから厳しい処分(2019-2020リーグの勝点から最終的に105ポイント減、罰金約7億円)を科され、協議を重ねた末、今シーズン終了後に2部リーグのRFUチャンピオンシップへ降格することが発表された。

 そのため、サラセンズは大幅な選手削減と賃金カットをしなければならず、スター選手の多くが期限付きのローンを含め移籍するのではないかと予想されている。

 2017年8月にサラセンズと5年契約を結び、同クラブでの年俸は75万ポンド(約1億円)といわれるイングランド代表主将のCTB/SOオーウェン・ファレルは、サラリーキャップの制限を受けない選手(マーキープレーヤー)であり、チームに留まる。新型コロナウイルスで試合がおこなわれずクラブの財政状況が悪化したこともあり、9月までの5か月間は給料の約90%は繰り延べとなるが、昇格へ向けて尽力することになるだろう。

 もうひとりの看板選手であるLOマロ・イトジェは、フランスのラシン92から高額オファーを提示されたと伝えられているが、サラセンズはこれを阻止。イングランドラグビー協会は海外に拠点を置く選手をナショナルチームには選出しない方針をとっており、他のプレミアシップクラブも「例外的な状況として特例を認めるべき」との声に反対した。
 しかし、イングランド代表の若きリーダーでもある25歳のイトジェがさらに成長するためには、国内2部リーグでプレーするよりもハイレベルな舞台で力をつけた方がいいという意見もあり、国内のレスター・タイガースへローン移籍するのではないかという話が浮上。同クラブのディレクター・オブ・ラグビーであるジョーダン・マーフィーはこの噂を否定したが、スター選手をめぐる騒動はなかなか収まらない。

左からビリー&マコのヴニポラ兄弟、そしてオーウェン・ファレルもサラセンズ所属(Photo: Getty Images)

 同じくイングランド代表の主力選手であるヴニポラ兄弟は、トンガにルーツがあり、ニュージーランドで生まれた兄のPRマコ・ヴニポラとオーストラリア出身の弟ビリー・ヴニポラは南半球のスーパーラグビーに参戦するのではないかと一部メディアで報じられた。しかし、弟はサラセンズ残留を明言。兄はまだ契約を更新していないが、近年はけがが多いこともあり、他クラブへは移らず来季は体を回復させるためのシーズンになりそうだ。

 ワールドカップ決勝で先発したHOジェイミー・ジョージとユーティリティBKエリオット・デイリーも残留が確認された。

 スコットランド代表であるWTBショーン・マイトランドはグラスゴー・ウォーリアーズへの移籍が噂されたが、サラセンズと新たに2年契約を結んでいる。

 その一方で、ワールドカップ準優勝メンバーでもあるHOジャック・シングルトンはグロスターへローン移籍し、同じく銀メダルに輝いたSHベン・スペンサーはバースへ移ることになりそうだ。
 今年のシックスネーションズでイングランド代表デビューを果たした22歳のFL/NO8ベン・アールは1年ローンでブリストル・ベアーズに加わる。

 ウェールズ代表のWTB/FBリアム・ウィリアムズはシーズン途中の今年2月にスカーレッツへ移籍。
 昨年のワールドカップで南アフリカ代表PRとして決勝の舞台に立ち、栄冠に輝いたヴィンセント・コッホはサラセンズのライバルチームであるセール・シャークスが獲得に動いている。
 元オーストラリア代表のLOウィル・スケルトンはフランスのラ・ロシェル入りと伝えられており、今年ウェールズ代表デビューを果たしたCTBニック・トンプキンズをめぐってはドラゴンズとカーディフ・ブルーズが争奪戦を繰り広げている。

豪代表復帰を望む声も多いジャイアントロックのウィル・スケルトンもサラセンズ退団へ(Photo: Getty Images)
2019ワールドカップで準優勝となり、ファンの祝福に応えるジョージ・クルース(Photo: Getty Images)

 そして、バースに在籍していた元イングランド代表のSO/FBフレディー・バーンズが豊田自動織機シャトルズに加入することを明らかにしたように、ジャパンマーケットも魅力的とされ、昨年のワールドカップ決勝に出場したサラセンズLOジョージ・クルースも日本へ向かうと予想されている。イングランド代表として45キャップを持つ30歳のクルースについて英国メディアのデイリーメール紙は、パナソニック ワイルドナイツに加わるのではないかと報じている。

 さらに、イングランド代表として21キャップを重ねたサラセンズのベテランで、ヨーロピアンラグビー・チャンピオンズカップ2018-2019のプレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたFB/SOアレックス・グッドはNECグリーンロケッツ入りが噂されている。

2018-19シーズンの欧州クラブシーンで最優秀選手に選ばれたアレックス・グッド(Photo: Getty Images)