身長189センチ、体重112キロと筋骨隆々。スクラムの最前列中央に入れば持ち前の怪力で向こう側の塊を蹂躙し、球をもらえば早く走り、強くぶち当たり、守っては接点の球へ丸太の腕を絡める。
南アフリカ代表のHOとして33キャップ(代表戦出場数)をマークし、昨年のワールドカップ日本大会で世界一に輝いたマルコム・マークスは、今年、日本最高峰ラグビートップリーグでもプレーしていた。大型補強で話題を集めたNTTコムの一員として、中止前の6試合すべてに先発。インパクトをもたらした。
「これが世界ナンバーワンのHOというものを見せてくれる」とは、SHの湯本睦。日本でも圧巻のパフォーマンスに触れて「頼もしい」と感じたうえ、練習中も舌を巻いた。
ある日の走り込みセッションで他選手よりも前を走っていると、すぐ後ろにマークスの気配を感じたのだ。持久力の求められるSHのなかでもスタミナに自信がある湯本にとって、走りよりもパワーが目立つポジションの選手に追いつかれそうになることは稀な経験だった。
クボタとの第3節(1月25日/大阪・万博記念競技場/●27-28)では、後半5分にこんなことがあった。
場面は敵陣22メートル線付近左のラインアウト。タッチライン際からの投入役だったマークスはSHの湯本に球を渡すと、一気に駆け上がる湯本に並走する。
最後は湯本からラストパスを受けたマークスが、相手SOでオーストラリア代表71キャップのバーナード・フォーリーを弾き飛ばしてトライ。喜んでマークスに抱きついた湯本はなんと、そのまま片手で抱え上げられた。
ちなみに2人は、1994年生まれの同級生である。
湯本はこうも続けた。
「一緒にラグビーができることはすごく嬉しいですし、世界のプレーヤーたちと敵、味方として戦えている(ことで)日本ラグビーのレベルは上がっている。彼らが日本を選んでくれているのは嬉しいですし、この経験がいまの自分のラグビー人生において感慨深いものだと感じています」
左PRの齊藤剣が強調するのは、才能の塊に映るマークスの努力家としての一面だ。マークスは練習後、ひとりで走りだしたり、ラインアウトの投げ込みを始めたりと、自主的に基礎固めに注力していたようだ。
マークスを見て再確認した「うまい選手は、練習をする」という普遍は、オーストラリア代表26キャップのクリスチャン・リアリーファノからも感じ取った。普段から周りとよくコミュニケーションを図る通称クリスチャンは、齊藤と同じ明大卒2年目でSOの松尾将太郎とよくキックを蹴り込んでいた。
「トッププレーヤーは、やるべきことをやるんだなと改めて感じます。オフにクラブハウスへ来たら、彼らは必ず何かをしています」
世界中の綺羅星が列島の戦士と切磋琢磨する時間は、また訪れるだろうか。