ラグビーリパブリック

今は、アタマの部分を鍛えています。新・都立大ラグビー部の取り組み。

2020.05.04

アタマを鍛える。オンラインでミーティングを重ねる(写真提供:藤森啓介氏)


 2020年4月1日、東京都立大が生まれた。2005年に都内の旧・都立大、科学技術大、保健衛生大、短期大を統合してできた首都大学東京が名前を改称したものだ。

 設立母体が新型コロナウイルス緊急事態宣言推進の東京都ゆえに新・都立大も現在は閉校中。5月11日から授業はオンラインで始まる。関東大学リーグ戦3部のラグビー部は5月いっぱい集まることはできない。首都大として最後の名前の試合(3月29日、vs 防衛医科大)。5月に都内の国公立大が覇権を争う大会、さらに定期戦(6月、vs 横浜市立大。7月、vs 大阪府立大)が中止となった。

 4月23日、オンライン画面に全部員の顔がそろった。全員ミーティングとグループ(学年、ポジション、マネージャーなども混合)、ポジション別に5人一組に小部屋でのミーティングを開催した。

 ひとつのテーマは「リーダーとは?」。ミーティングでは他の部員の話を否定しないことが原則。全員が考えて自分の言葉で話す。グループの進行役、ファシリテーターが全員に発表する。「今まで自分が考えていたリーダー像と違うことが分かった。興味がわきました」。成果を実感したのは今季、新・都立大主将となったHO福原大毅だ(神奈川・川和高出身)。「これまでリーダー像についての僕の『正解』はチームの中心で全員を引っ張る役目と思っていました。しかし本当は部員のリーダーシップを高めることが大切だと」。

 部では今季の目的は「人として成長し、愛されるチーム」とした。成長するために全員参加が大事だ。マネージャーは週1回、モチベーションをあげる映像を作成している。下級生は食事・安全班の責任者として部員の体重管理を任せる。
「今は、できることを企画しています」と話すのは今季、ヘッドコーチ(HC)に就任した藤森啓介氏(34歳)だ。ポジションはSH。早大出身、1985年生まれのプロコーチだ。
 今季のチームスローガンは「As One(団結する)」。スローガンにちなみ藤森氏は「As Oneプロジェクト」を設定し指導に入った。それは(1)リーダーシップ開発、(2)チームビルディング、(3)戦術勉強会、(4)組織マネジメントという内容だ。

 オンラインを通しての効果をこう話す。「リーダーシップ能力を伸ばすことはラグビーのグラウンドでもすごく大切なことです。例えばグラウンドで30人の円陣の中で『このプレーについてどう思う』と聞いた際に、1人か2人しか発言しません。キャプテンや副キャプテンになってしまいます。他の人間は考えなくなってしまう。(小グループミーティングで)絶対にしゃべる空間をつくっておくことで全員がリーダーシップを発揮できることにつながる。オンラインでは発言する際に早くまとめて考えたことを短い言葉で伝えることが大事」。試合中のコミュニケーションにも役立つ。

 ビジネス手法のコーチングを採り入れていることは学生の将来も考えてのことだ。卒業し就職した際に「大学でラグビーをやっていました、だけではない。ラグビーを通してリーダーシップスキルや組織マネジメント力を鍛える。その環境を整えて現場で学ばせないといけない」とコーチ自身の役割を設定している。大西鐵之祐先生の「ラグビーを通してナショナルリーダーを輩出する」という教えを都立大ラグビーに注ぎ込む。福原主将も新鮮な指導に「社会へ出てからも役に立ちます」と語る。

東京都立大のヘッドコーチに就任した藤森啓介氏

 藤森氏は長崎のラグビースクールで楕円球と触れた。地元の中学を卒業すると幼馴染と一緒に早大学院へ国内留学。早稲田ラグビーに触れた。2004年に早大入学、「実力は3軍、4軍クラス」。同期にはジャパンのジャージを着ることになる畠山健介、五郎丸歩らそうそうたるメンバーがいた。
 卒業後、大学院に通いながら早大コーチを務める。2010年、大阪の早稲田摂陵高監督に就任した。「素人集団を激戦区の大阪で決勝に進めるにはどうすればいいか」、ゴールを設定し考え続けた。その成果は2016年11月、「第96回全国高校大会 大阪第2地区予選決勝」へ。結果は常翔学園に7-69で敗れたが足跡を残した。
 2019年春に高校を退職しプロのラグビーコーチへ。恩師・中竹竜二元早大監督が代表を務める一般社団法人スポーツコーチングJapanに参加。日本ラグビー協会技術委員会ユース部門でも教える。昨年度は、全国地区対抗関東1区2部の国際基督教大(ICU)を担当、2位まで引き上げ念願の1部2部入替戦へ。1部4位の東京外国語大と対戦、後半逆転され22-33で涙を飲んだがこちらも素人集団と一緒にラグビーの楽しさを味わった。

 昨年12月12日、当時4年生の首都大部員から請われ、その部員のコーチングをコーチした。その際に練習したのが首都大3年部員たち。「1回限定で来てもらったのですが『そのプレーはどういう意味を持つの? なぜプレーしたの?』と選手たちに問い考えさせて答えさせていました。そこに手ごたえ、『アタマを使うラグビー』を感じた」(福原)。
 首都大は2014年、5部の時にOB会がテコ入れし西山淳哉氏(日本IBMラグビー部在籍、三菱重工相模原などでプレー)をコーチに招いた。途中から西山氏の伝手で元中大監督、岩崎誠氏も指導に加わった。その成果は翌年度5部優勝、入替戦も制し4部へ。2年後の2017年度は4部優勝、入替戦も勝利で3部昇格と順当に進んできた。2020年度は西山氏との契約が切れるため新4年生たちが「コーチ無しで送る」「新しいコーチを依頼する」で話し合った。偶然だが一度の出会いで藤森氏のラグビー理論に共感し就任をお願いした、という。

 都立大の練習や試合映像を見た藤森氏は、「ラグビーをまだ知らないという感じでした。対戦相手も見ると僕が持っている戦術や戦略を駆使すれば、このリーグ(3部)で1位を狙えるだろう。ラグビーの原理原則、構造の理解をしっかりやっていければ勝ち星を拾っていける。そのために必要なスキルを学生に提供していく」。

 ラグビーの全体練習は、今はできない。「他のチームは(オンライン機器を使い)トレーニングしているところもある。自分で目標を立ててください。それを週1回のミーティングで確認できます。自分で立てることに意味があるので」。福原主将は「ナショナルチームレベルの試合映像を見ています。筋トレも」と実践する。

 今季の都立大ラグビースタイルはどうなるか。藤森氏は早大学院―早大で大西鐵之祐氏の「接近・連続・展開」を学んだ。大学1・2年時は清宮克幸監督、3年から大学院時に中竹氏と良き指導者の理論を会得している。「ラグビーのプレー哲学は、ボールを動かして外に展開することを重視しています。広く人を立たせて相手の幅を広げて自分たちが優位なポジショニングをとっていく、というコンセプトです」(藤森氏)。

 練習は緻密におこなう。「練習で50%ミスするように作ります。たくさんミスしてくれと言っています。日本一、ミスしましょう。そのミスを練習で学んで話し合い埋めていく。ミスしないときは僕の練習が悪かったと話します。ミスした相手を否定しない。組織のリーダーの僕がそういう姿勢を見せないと『ナイスチャレンジ』と言えない。チャレンジできなくなってしまう」。

 その成果は「2部昇格をして、その喜びを同期、後輩、マネージャー、コーチ全員で喜びあいたい」(福原主将)とする。

早くグラウンドへ戻りたい。都立大の部員と藤森HC(写真提供:藤森啓介氏)