ラグビーリパブリック

【コラム】これからの花園

2020.04.30

1963年から全国高校大会の会場に。第1グラウンドの、大型ビジョンの向こうに第2グラウンドがある(撮影:宮原和也)

■私は、W杯を契機にスタジアムにおけるサッカーとラグビーの共存がより進むのではないか、と期待していた。しかし、現実はそう甘くなかった。

 「高校ラグビーの聖地」と呼ばれる花園ラグビー場を、地元サッカーチームのFC大阪などが運営することになった。所有者である東大阪市が4月、公募していたラグビー場一帯の指定管理先として、優先交渉権者に指名した。別に手を挙げていた日本ラグビー協会を含む事業者グループは次点となった。ラグビー界にとっては、数少ない専用スタジアムの運営を他競技のチームに委ねるという異例の事態。サッカーとラグビーは共存の道を歩めるのだろうか。

 公募は昨年11月に開始。現在、ラグビー場の運営を委託されている「東大阪スタジアム」やJFLに所属するFC大阪など3社でつくる「東大阪花園活性化マネジメント共同体」と、人材派遣会社のヒト・コミュニケーションズや日本協会など7つの事業者グループでなる「ワンチーム花園」の2者が応募し、選定部会で前者の得点が上回った。今後は市議会承認などを経て7月までに協定を結べば、ラグビー場は今年10月から20年間、共同体が運営することになる。

市の決定に対し、日本協会を含む事業者グループは質問状を送付。明らかになっていない選考過程の情報公開を求めるという。しかし、決定を覆すことはできないだろう、と事業グループの関係者は見ている。

 元々、東大阪市とFC大阪の距離は近かった。昨年1月、両者は地域活性化のための連携協定を結んだ。11月には、FC大阪が花園第2グラウンドに5千席以上の観客席を寄贈する計画が発表されていた。大阪から3番目のJリーグチームを目指しているFC大阪にとって、地元でホームスタジアムを確保できる意味は大きい。市から見ても、税金を投じることなく客席の整備を進め、利用者にも喜んでもらえる。そんなウィンウィンな関係を土台とする共同体の案を上回る計画を、事業者グループは提示できなかった。日本協会関係者は「ラグビー側の見立てが甘かった」と認めている。

 市はラグビー場の運営は「今までと同じ方針」と強調しており、当面は高校ラグビーなどの利用は今まで通りできそうだ。ただ、関係者によると、公募の際に日本協会幹部が「サッカーとラグビーが共存するモデルケースを」とタッグを呼びかけたにもかかわらず、FC大阪にないがしろにされた経緯があったという。花園ラグビー場を本拠とする近鉄ライナーズにも警戒感は広がっており、チーム関係者からは「この先ライナーズは花園にいられなくなるかもしれない」という不安の声も出ている。今回の決定に対するラグビー側のわだかまりは小さくない。

 昨秋のW杯日本大会の成功は、サッカー界の協力なくして成り立たなかった。横浜や東京など主要会場の多くはJチームの本拠地で、芝生が傷つくリスクを承知でラグビーのために会場を空けてくれた。一方で大会前には秩父宮ラグビー場をFC東京が本拠として使用した事例もあった。私は、W杯を契機にスタジアムにおけるサッカーとラグビーの共存がより進むのではないか、と期待していた。

 しかし、現実はそう甘くなかった。トップリーグとJリーグの期間が重複したため、昨季のトップリーグ王者神戸製鋼は、ヴィッセル神戸の本拠ノエビアスタジアムを今季1試合しか使う権利を得られなかった。ノエスタの管理運営権を所有するのはヴィッセルで、その意向が最優先で反映されるのは当然のことだが、長年ノエスタをホームとしてきた神鋼にとってみれば釈然としない出来事に映った。

そして今回の花園でも、サッカーとラグビーの微妙な関係は明らかになった。

サッカー界はJリーグ発足以降、野球と肩を並べるプロスポーツとして全国のスタジアム整備を少しずつ進めてきた。ビジネスである以上、ラグビー界がそこから譲歩を引き出すのは、そう容易ではない。

ただ、一つのスタジアムでラグビーやサッカーを楽しめるなら、その地域やファンにとって理想的な形となる。コロナ収束後のスポーツがどうなるのかはまだわからないが、スタジアムに集まって応援することの価値は今まで以上に高まるはず。その日を見据え、日本協会はサッカー界との共存のあり方を本腰を入れて探ってほしい。花園はその試金石となるはずだ。交渉の余地はまだ残っている。

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