ラグビーリパブリック

「狼に食べられないように」外出制限下のトゥールーズより。

2020.04.19

2019年、福岡でアメリカとのプール戦を終えて、娘のルイゾンちゃんと(Photo/Getty Images)

 2月末から急激に新型コロナウイルス感染者数が増加したフランスでは、3月17日から厳しい外出制限措置がとられている。

 生活必需品の買い物、病院・薬局に行く、自宅から半径1km以内で1時間以内の1人での運動等、外出が許可されるケースは最小限。警察が取り締まりをしていて、外出中に外出理由の証明書を携行していなければ、135ユーロ(約16,000円)の罰金が課される。全てのイベント、スポーツの大会も中止、または延期され、ラグビーも例外ではなく、選手達もそれぞれ自宅で自粛している。

 外出制限が始まって約1か月、スタッド・トゥールーザンのマクシム・メダール(フランス代表FB/WTB)が近況を語ってくれた。理髪店も休業しており、彼のトレードマークの「もみあげ」も伸び気味だ。

 メダールは、2005年にフランスの名門クラブであるスタッド・トゥールーザンのプロチームで18歳でデビューして以来、「ルージュ・エ・ノワール」(チームカラーの赤と黒)のジャージーを着てFBやWTBで活躍、長きにわたってチームの主力となっている。その間に獲得したフランス代表キャップは63を数える。(聞き手・福本美由紀)

——この外出制限の期間、どう過ごしてる?

「落ち着いた、静かな日々を過ごしている。普段は家族と過ごす時間がないから、家族との時間を堪能している。また、ラグビーやメディアのプレッシャーから解放され、心身ともに休めている。特にワールドカップの後はバランスをとるのが難しかった」

準々決勝ウエールズ戦後。昭和電工ドーム大分にて(Photo/Getty Images)

 フランスのシーズンは長く、試合数も多い。特に今年は、昨季のTOP14で優勝した後、すぐにワールドカップ準備合宿に入り、大会ではフランスチームの全4試合に出場。ワールドカップ期間中、フランス代表に8人、そして南アフリカのチェズリン・コルビと主戦力を欠き、昨年度チャンピオンは今季苦戦していた。日本から帰国後、チームの戦列に合流して順位を上げなくてはならなかった。息つく暇がなかった。

「ワールドカップ期間中に家のリノベーションをし始めて、まだ完全に終わっていない。今の世の中、庭づくりや大工仕事、電気関係など、すぐに電話して業者に来てもらうけど、今は誰にも来てもらうことができない。お陰で、想像力を使いながら自分の手でするようになった。若い頃を思い出して楽しい」

——家事もする?

 彼のパートナーのクレマンスが、「料理は彼がすべてしてくれてるわよ!」と答える。本人が、「体重を増やさないように気をつけているから、ローファットのアスリート食だけどね」と付け足す。

——フィジカルやメンタルは維持できていますか。

「外出制限が始まった時に、チームがウェイトの器具を貸し出してくれた。チーム内のつながり、またチームに関わる全てのスタッフとの輪を維持するために頻繁にビデオ会議があり、チームの会長と選手とのオンラインでのアペリティフ(軽い飲み会)もある。また選手をいくつかのグループに分けて、例えばストレッチ100点、腹筋100点、カーディオ400点というように点数を集め、週ごとに最も点数が多いグループが勝ちというゲームもしている。スタッフがうまく工夫してくれていて、選手同士のつながりやチームの一体感も維持できているし、全員がオンの状態でいられる」

 メンタルは、ワールドカップ期間中もしていたように瞑想をしている。チームからも、メンタルプレパレーションのメニューを与えられている。

欧州チャンピオンズカップのプレーから。スタッド・トゥールーザンの一員としてプレーするメダール(Photo/Getty Images)

「厳しいのは、フィジカルよりもメンタルの維持かな。シーズンが再開されるのか、されるなら、いつ、どのようなコンディションで…先のことがわからないから。それ以外は問題ない。家族でトレーニングセッションを一緒に楽しむこともある。僕は一軒家に住んでいるし、外出できなくても庭に出ることができる。一緒にいられる家族もいる。今回の外出制限で、家族と家にいることがこんなに居心地がいいことだとあらためて気づいた。恵まれていることに感謝している。

 何よりも、僕たちを感染症から守るために日々最前線で戦ってくれている医療関係者に感謝している。今、僕たちが健康で、家族と一緒にこうやっていられるのも彼らのお陰だから。そんな中で、スポーツ選手としてできることは限られているが、『家にいよう』というメッセージを発信して人々に呼びかけている」

 TOP 14 RugbyのSNSのアカウントには、各チームの選手が「家にいよう」と呼びかけている動画が投稿されている。ラストにメダールが愛娘のルイゾンちゃんと登場する。「コロナウイルスと戦うために」とメダールが言うと「おうちにいてね。おうちにいればオオカミに食べられないのよ」と愛娘が言う。
  
 父親となり、またベテラン選手として参加した昨年のワールドカップでは、試合後はいつもルイゾンを腕に抱えてスタンドのファンに手を振っていた。そして、常にロッカールームの掃除をしていた。試合会場でも、練習会場でも、ほうきを持って床を掃き、ゴミを拾い、散乱しているボールやウエイト器具、空になったペットボトルを、いつも黙々と片付けていた。

 オオカミに食べられる人が、これ以上増えないことを祈るばかりである。

(2020年4月13日インタビュー/福本美由紀)


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