「初めてのラグビー体験教室」。2年前から保育園や幼稚園で「お試し」開催されてきた事業が、このたび市の予算に組み込まれ今後も行われることになった。
群馬県館林市は、今年10月から市内の4園で、一般園児へのセッションとしてラグビーを扱うことを決めた(3月24日閉会の館林市議会にて)。2019年ワールドカップ関連を除けば、ラグビーの継続的なセッションに行政の予算がつくのは珍しいこと。「授業」の進行は元日本代表の三宅敬氏が代表理事を務める特定非営利法人 ワイルドナイツスポーツプロモーションが行う。
今回の導入に向けては、2年間にわたるモニターセッションの成果が大きな後押しとなった。
実際にラグビー授業を受けた園の先生方からは、成果の声が寄せられたという。
「ラグビーの体験を通して、協力、協調して遊ぶ姿が見られるように」
「適応障害の子がいて、少し心配していたが、教室が始まると元気に遊んでくれた」
「その日のお絵かきの時間は、ラグビーの話で持ちきりだった。家庭でも話題に上がっている様子」
授業の狙いは「思いやり」と「協力」の気持ちを育むことに置いている。
このモニタリングをリードしたのは、館林市ラグビー協会の小礒守正さんだ。
幼児を対象としたイベントにおいて今回の取り組みで気をつけたのは、ラグビー普及ではなく、青少年育成のツールとしてラグビーを扱ったことにある。
「2019年のワールドカップのさなかでさえ、ここ館林では、ラグビーに興味を寄せてくれる方は多くありません。その中で『ラグビー普及』を謳っても、一緒に事業に取り組んでくれる人は少ない。ただ、ラグビーを体験してくれれば、子供たちは喜ぶし、指導者次第で、いろいろなことを吸収、共感してくれるんです」
「私自身の青年会議所での活動の経験から、子供たちの育成活動にラグビーを採り入れる、という順番にした。普及があって学びがあるのではなく、地域の子供たちの育成を一緒にというメッセージをまずお伝えしてきました」
小礒さんは、生まれ故郷の館林をあえて「ラグビーがない地域」と表現する。足利工大附高校(現・足利大附高校)でラグビーを始め、山梨学院大でもプレー。卒業後は普及活動などに携わり、現在は館林市ラグビー協会副会長も務める。不毛の地での普及の難しさは、地元としてよく知っている。その逆境が今回の「育成ベース」のアイデアにつながった。他府県でも突破口を作るチャンスになるのでは。
2年間のモニタリングにあたっては、三宅敬氏らの献身的なバックアップがあった。のべ200人に届こうかという子供たち、園の関係者へのセッションは、すべて無償で取り組んでくれた(新年度からは晴れて予算がつくことに)。
鬼ごっこ遊び、ボールリレー、体当たり体験…。思いやりなどの精神面はもちろん、ゴールデンエイジと呼ばれる園児世代のラグビー体験は、「走る、投げる、蹴る、倒れる、起き上がる、当たる」など体のバランス感覚も養ってくれる。
この秋からは4つの園の庭で、また子供たちの楕円球を追う歓声が響くことになる。