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【ラグリパWest】旧姓に戻り、心機一転。伊藤太進[近鉄ライナーズ セールスマネージャー]

2020.04.16

現役を終えた近鉄ライナーズにセールス・マネージャーとして復帰した伊藤太進さん。右奥に座るのはチームトップの中川善雄部長



 差し出された名刺は「伊藤太進」だった。
 姓は旧に戻す。名はたいしんだ。

 所属と役職は「近鉄ライナーズ セールスマネージャー」。この4月、現役時代を過ごしたチームにスタッフとして戻れた。

「とても感謝しています。感謝しても、したりるということはありません。自分はプロ選手で終わり、生え抜きでもありませんでした。それなのに雇ってもらえました」

 太進の丸い眼はよろこびに輝く。この6月で41歳。元FLの口からは謝辞があふれる。
 業務はチームのための新規スポンサーやファンクラブの法人会員の獲得などである。

 ライナーズのGMである飯泉景弘は、ポストを新設してまでして太進を呼び戻した。
「今、ラグビー界はプロ化を打ち出していますが、どう進んで行くか分からない状況です。ただ、どうなるにせよ、これからはライナーズというチーム自体で稼ぐことも必要。親会社(近鉄ホールディングス)もそれを望んでいる。彼は人柄もよく、人脈も多彩です。話も上手なので、適任だと思っています」

 近鉄での現役引退は2017年3月。翌月から摂南大のコーチになる。補佐的役割の1年目は関西Aリーグ最下位の8位。チームはBリーグに降格した。主導的立場になった2年目はAリーグに復帰したものの、3年目は7位で入替戦出場。契約は満了になる。
「仕方ありません。プロとして結果を残せなかったのですから、納得はしています」

 その間、太進は離婚を経験している。
 3人兄弟の次男ということもあり、結婚後に姓を天満に変えていた。それを近鉄での復職に合わせて、伊藤に戻した。

 子供は男の子が2人。小1と幼稚園の年子だ。新しい仕事は子供たちと過ごすのにも都合がいい。定時は9時30分から17時。大阪市内の自宅から子供たちをそれぞれの教育機関に託し、オフィスとなる花園ラグビー場に向かう。仕事をこなし、迎えに行ける。

 チームは今でも居心地がいい。コーチングの勉強を続けることも許してくれた。
 今年7月にはA級コーチの資格認定講習も受ける予定だ。
「契約の段階でお話をさせてもらって、了解をいただいています」

 太進は現在、初歩のスタートコーチ。ただ、トップリーグで25試合以上に出場しているため、アスリート推薦の権利が生じる。BとCの2階級を飛び越え、Aを受講できる。資格を取れば、代表カテゴリーやトップリーグをコーチとして指導できる。
 日本ラグビー協会のコーチ資格の設定は5段階。最上はSである。




 コーチの勉強を物理的に可能にさせるのは雇用形態にある。契約社員ではなく、業務委託。仕事に支障をきたさない限り、副業は可能だ。その契約期間は1年である。

 太進は現役時代、速さと強さを兼ね備えた選手だった。
 ラグビーを始めたのは東生野中。東大阪市に隣接する生野区にある。

 大阪工大高では、本多貴、赤井大介の3人と超高校級のFW3列を形成。3年時の78回全国大会(1998年度)では決勝で12−15と啓光学園に敗れたものの、この一戦は高校大会史上初の大阪決戦になる。
 両校はその後、常翔学園と常翔啓光学園に名前を変えている。

 明大から日本IBMへ。2003年度から6シーズンを過ごす。故郷の近鉄では8シーズン。チーム史上最高となるトップリーグ5位の2011年度も中心選手だった。現役引退のころのサイズは183センチ、101キロだった。

 新職場では日々、スーツにネクタイ。ウインドブレーカーやジャージを脱ぎ捨てる。
「IBMの時は3年目までは社員選手だったので、毎日スーツを着ていました。だから苦にはなりません」

 紫紺の明大時代、チームブレザーに白のグッチのシューズとベルトを合わせた、という伝説を持つ。その2つのアイテムは同じ色の方が映える常識は知っている。今はニューバランスの紺のスーツがお気に入りだ。

 その正装で動き回る東大阪、特に地元の東花園には愛着がある。なじみのカフェ「クィーンズコート」では唐揚げピラフ、「伊吹そば」では鳥こしょうそばに舌鼓を打つ。
「チームメイトも大阪に来たら、東花園に顔を出して、お店に行くんです」
 挙がった名前は成昂徳(そん・あんどっ)ら。現在、三菱重工相模原のPRは2013年度まで8シーズン在籍した。

 1年目の目標は定めている。
「まずは仕組み作りです。コロナの影響がありますが、準備期間と考えて、できることをやっていきます」
 新型コロナウイルスが猖獗(しょうけつ)を極める中で、やれることを考える。

「プレッシャーもあるけれど、楽しみです。自分自身で切り開いていけますから」
 大恩を感じるチームのトップリーグ復帰、そしてまだ見ぬ優勝に向け、太進は営業サイドからそれらを下支えする。