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【ラグリパWest】三男坊、人生の大勝負。竹田宜純 [近鉄/FB]

2020.04.10

近鉄でプロ選手となった竹田宜純。2023年のワールドカップフランス大会出場を目指す



 人生一度きり。
 ヨシこと竹田宜純(よしずみ)は強く思う。

 安定の代名詞だったトヨタ自動車を退社する。スーパーラグビーのサンウルブズに合流。そして4月、近鉄に入団した。

 社員選手からプロへ。楕円球でのみ生をつなぐ。
「悔いを残したくありません」
 180センチ、95キロのFBは今月29日で29歳。家族は妻・明(めい)、そして5歳を頭に3人の子供がいる。

 ヨシの父・寛行はやめることに当然ながら反対した。
「でも、今しかできないことがある、と言われたらね…。やりきる、やりきらない、というのも大事なこと。最後は嫁が、孫の面倒くらい私が見るから、と言いました」

 父はこの5月で還暦だ。安定の塊、奈良の地方公務員として生きている。御所実の保健・体育教員。1989年、前校名の御所工に赴任する。部員2人と廃部寸前だったラグビー部監督に就任。30年以上をかけ、冬の全国大会準優勝4回の強豪に育て上げた。

 ヨシは4兄弟の3番目。全員、父の下で楕円球を追った。ヨシより5学年上の長男・英生(ひでき)、3学年上の次男・和史(かずふみ)は中国電力に勤めている。

 2学年下の4男の祐将(ゆうしょう)は三菱重工相模原のSO。トヨタ自動車で一緒だった。ヨシより1年ほど早くプロになる。
「弟を見ていると楽しそうでした。ラグビーが充実している感じがしました」

 大きな転機は昨秋のワールドカップ。日本代表に同期の中村亮土や後輩の流大ら同じ帝京大の卒業生が6人出場していた。
「一緒にやった仲間が活躍していました。自分もあの舞台に立ちたいと思いました」

 年齢的なことを考えれば、2023年、次のフランス大会が最終機会になる。そこへたどり着くには、まずは試合に出ること。つまり、評価対象にならないといけない。

「移籍した一番の理由は、出場機会です。素晴らしい環境を与えていただいて申し訳なかったけれど、違う環境、逃げ場のない状況で自分を高めてみたかったのです」

 トヨタ自動車のFBはジオ・アブロンがおり、今年からウィリー・ルルーが加わった。南アフリカ代表キャップは17と61。選手層の充実を考えた補強だったが、ヨシにとっては考え込まざるを得ない状況になる。

 ポジションはFBにこだわりがあった。
「CTBもやったけど、FBで勝負したい。自由さが好きなんです。アタックはどこにでも入れる。ラストパスを通す楽しみもある。ディフェンスの穴を後ろからの声で埋めることもできる。面白いのです」



 トヨタ自動車から退部のリリースが出たのは昨年11月。在籍は2014年度から6年間だった。すぐにサンウルブズから召集がかかる。6試合中2試合に出場した。

 3月6日、ブランビーズ戦(14−47)は先発フル出場。次週の14日、クルセーダーズ戦(14−49)には後半30分、SOガース・エイプリルと交代出場する。
 ともにオーストラリアでの試合だった。

「すごくよかったですね。英語が飛び交う中で、コンタクトの強さなどを経験でき、タフという言葉を実感できました」
 この試合を最後に新型コロナウイルスの感染拡大でリーグそのものが中止になる。
 そして、近鉄に合流した。

 近鉄をGMとしてけん引する飯泉景弘は、ヨシの獲得理由を語る。
「ウチには今、本職のFBがいません。セミシを充ててはいるのですが、彼は本来、WTBで使いたい。ブラインドサイドからのアタックなど攻めが多彩になるからです」
 日本代表入りが噂されるセミシ・マシレワと同じ扱い。トップチャレンジからトップリーグ復帰を目指すチームの期待度は高い。

 すでに、ホームである花園ラグビー場の近くに家族と引っ越した。近鉄沿線である。
「昔は橿原神宮の近くに住んでいて、乗るのは常に近鉄でした。親しみがあります」

 白橿中まではサッカー部。キック力が養われる。御所実では2009年度の高校日本代表に選ばれた。同期には松島幸太朗らがいる。
 帝京大では1年から公式戦に出場。大学選手権9連覇の内、2〜5(47〜50回大会)の優勝に貢献した。

 父はさらっと話す。
「1年生からフルに出て、4連覇をしているのはヨシしかおらんはずです。大八木さんでも3連覇のはずですから」
 LOとして日本代表キャップ30を持つ大八木淳史は同志社大時代、その中心となって19〜21回大会で3連覇を果たした。
 記録的にヨシはその上を行く。

 旧国名・河内での生活は気に入っている。
「家族みんな銭湯が好きなんですが、徒歩圏内に2軒はあります」
 総合的なスーパー銭湯ではなく、昔ながらの番台のある風呂屋がお気に入りだ。

 快適な生活の中で未来を語る。
「僕を迎え入れてくれたチームに貢献したい。国内のトップ4に入れるよう力を尽くします」
 人生29年目の大勝負。家族のためにも、ヨシは覚悟を持って日々を過ごす。


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