ラグビーリパブリック

東京五輪延期で悩む選手たち。全英ライオンズ南ア遠征は同時期開催、女子W杯に影響も。

2020.04.08

ワールドカップ2019決勝でトライを決めたあと、手を合わせる南アのチェズリン・コルビ(Photo: Getty Images)


 今夏に開催される予定だった東京オリンピックは新型コロナウイルスの世界的流行によって延期となり、国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会などが話し合った結果、新しい日程は2021年7月23日~8月8日に決まった。パラリンピックは同年8月24日~9月5日に開催される。

 オリンピックでは7人制ラグビー(セブンズ)が、パラリンピックでは車いすラグビー(ウィルチェアーラグビー)がおこなわれる。

 新しい日程は、当初2020年に予定されていた日程からちょうど1年後であり、IOCは、この延期が国際競技イベントの日程にもたらす混乱を最小限に抑えることができるとしている。2021年におこなわれる他の世界的なスポーツ大会の日程も考慮して決定されたため、選手や国際競技連盟(IF)の利益にも沿うものだと主張した。

 現時点でのスポーツイベントカレンダーを見れば、2021年は、3月にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、6月中旬から7月中旬にかけてはサッカーのUEFAユーロ(欧州選手権)とコパ・アメリカ(南米選手権)がある。
 8月にはアメリカで世界陸上競技選手権が開催される予定だったが、世界陸連(ワールドアスレティックス)は東京オリンピックの成功に協力し、世界陸上を2022年に延期することを明らかにした。
 7月16日から8月1日までは福岡市で水泳の世界選手権が予定されているが、国際水泳連盟は日程変更について柔軟に対応する方針を示している。

 このように、東京オリンピックは多くのビッグイベントとスケジュールがかぶらないように調整されたが、その一方で、ラグビーのドリームマッチは不運にも開催時期が重なってしまった。

ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズのツアーは経済効果も大きい(Photo: Getty Images)

 イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの一流選手が集まって4年に一度結成される「ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ」が、東京オリンピックで盛り上がる7月から8月にかけて南アフリカへ遠征し、ワールドカップ2019のチャンピオンである同国代表“スプリングボックス”などと試合をおこなうのだ。ツアーは7月3日のストーマーズ戦から始まり、南ア代表とのテストシリーズは7月24日が第1戦、同31日が第2戦、そして最終の第3戦が8月7日に予定されている。

 しかし、ライオンズのマネージング・ディレクターであるベン・カルバリー氏はロイター通信に対し、「南アフリカと東京の時差を考えると、ライオンズの試合とオリンピックイベントがぶつかることはないはず」と語っており、心配していない。「私たちは世界チャンピオンに対して素晴らしいシリーズを期待している」と言う。

 英国メディアの『Sportsmail』によると、テストマッチは3試合とも南ア時間午後6時(日本時間:翌日の午前1時)キックオフで調整が進んでいるとのこと。そうなれば、日本のファンも東京オリンピックとライオンズの南アツアーをどちらも楽しむことができそうだ。

 だが、選手のなかには非常に難しい決断を迫られている者がいる。そのうちのひとりは、昨年のワールドカップで南ア代表の優勝に大きく貢献し、ワールドラグビーの年間最優秀選手賞にノミネートされたチェズリン・コルビだ。コルビは15人制の代表に選ばれる前に7人制の国際舞台で活躍し、前回の2016年リオオリンピックで銅メダルに輝いている。ワールドカップ優勝後には、東京オリンピックへの強い意欲を公言していた。

 新型コロナウイルスの問題が起こらなければ、2020年は7人制代表として東京オリンピックに挑み、2021年は15人制代表として12年に一度しかチャンスが巡ってこない(4年ごとに南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドと順次遠征している)ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとのテストマッチを経験できたに違いない。しかし、東京オリンピックが1年延期され、不運にも日程が重なり、どちらかを選ばなくてはならなくなった。
 ヤマハ発動機ジュビロに所属するクワッガ・スミスも、リオオリンピック3位とワールドカップ日本大会優勝を経験したスター選手で、東京オリンピックで金メダルを狙う7人制南ア代表の候補として期待する声は多い。

 さらに、東京オリンピックを視野に入れてセブンズでのキャリアを続けながら、スプリングボックス入りも夢見てスーパーラグビーで挑戦してきたスピードスターのロスコ・スペックマンやシアベロ・セナトラなども難しい決断を迫られている。

 リオオリンピック陸上男子400メートルで金メダルを獲得したウェイド・バンニーキルクのいとこでもあるコルビは、現在26歳。スミスも同じ1993年生まれだ。彼らにとって、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと対戦できるチャンスはほぼ間違いなく来年の一度きり。東京での大舞台をあきらめて2024年のパリオリンピックを目指すという選択肢もあるが、そのときは30歳になっている。

2019年、女子で史上初めてNZの年間最優秀マオリ選手に選ばれたサラ・ヒリニ(Photo: Getty Images)

 女子のトップラグビー選手にとっても東京オリンピック延期は悩ましい問題になった。
 2021年9月18日から10月16日にかけて、ニュージーランドで女子のラグビーワールドカップが開催されるのだ。東京オリンピックと日程は重ならないが、7人制ラグビーが実施されるオリンピックが終わってから、15人制のワールドカップが開幕するまでわずか6週間しかないため、チームの強化プランなどにより、どちらかを選ばなければならない選手が出てくるかもしれない。
 2017年のワールドカップで優勝を遂げた女子ニュージーランド代表の主力には、7人制代表の現主将であるサラ・ヒリニ(サラ・ゴス)や、ワールドラグビーセブンズシリーズの歴代最多トライゲッターであるポーシャ・ウッドマンなど、7人制と15人制の両方で活躍するスター選手が複数いた。リオの決勝で泣いたニュージーランドの選手たちは東京オリンピックで悲願の金メダル獲得を目指しており、初の自国開催となるワールドカップも、彼女たちにとってはラグビー人生最高の夢舞台であることは間違いない。