指折りのアウトプットの名手だ。観戦初心者と見られるネットユーザーの質問に、よどみなく答えてゆく。例えば……。
試合を観ていても、なぜレフリーが笛を鳴らしたのかがわからないことがあるのですが。
「基本的に笛が鳴らされるタイミングはブレイクダウンと言われる、人と人とがぶつかってできる密集の状態でのことが多いので、僕たちも『え? いまのが反則?』と思うことは多々あります。レフリーも人間なので、その行為が反則かどうかは個人差があります。ですので、観ている方が『いまのは何で反則?』と思うのはある意味で当たり前です。それより、ラグビーではアドバンテージという時間があります(反則された側に優位な状況ではしばらくプレーが続く)。そういう時にはドロップゴール、キックパスという(決まれば得点に近づく半面、相手に球を渡しやすい)ギャンブル的な選択も生まれる」
早大の司令塔として先の大学選手権を制した岸岡智樹は、3月25日、クリエイターの創作を支援する株式会社ピース・オブ・ケイクが都内に持つ会場で「全国ラグビー勉強会」というオンラインイベントに出席。昨秋のワールドカップ日本大会を機にラグビーに興味を持った方などを対象に、このスポーツの楽しみ方を伝えた。かねて同社が運用するコンテンツ共有アプリ『note』で試合のレビューなどを書いている。
2、3月に計2度、ニュージーランドへ留学した。2度目にあたる2月20日からの滞在は3月21日までの予定だったが、11日に帰国した。現地では当時、新型コロナウイルスの感染拡大には大らかに構えていたようだが、3月中旬以降、状況は変わった。
結果的に好判断で都内へ戻っていた岸岡は、この春からのクボタ入りを前に「観戦初心者が最初に覚える3つのルール」「監督からどんな指示が出るのか」など、多様な質問に応じた。
「ボールを前に投げてはいけないスローフォワード、前に落とすノックオン、オフサイド(その時々にできるオフサイドラインより前でプレーする反則)の三つを覚えると、基本的に観戦できるのかなと」
「ラグビーは監督がグラウンドに立たない数少ないスポーツ。指示はマイクなどで下のコーチなどに伝える。試合中、全ては選手がリードし、次に何するかを決めて、おこなう。監督の指示は試合前やハーフタイムなど、15人が集まった時にしか出ないのが大きな特徴です」
ちなみに、ハーフタイムにあると助かる首脳陣からの助言は「こういうところにスペースがあるよ、とか、ピッチ上で見られないこと」のようだ。
「全てを見ようとはしていますが、視野は限られている。優先順位的に自分の中で見ていないところを『(監督から)見れば』と言ってくれるだけで、選択の幅が広がる部分はあると思います」
ラグビーは「頭を使うスポーツ」だと捉える。そのため普段から「いかに相手にとって嫌なプレーをするか、ルールの隙を突くかといったことを考えて試合を運んでいる」という。しかしこのスポーツを科学的に捉え続けるなか、局面ごとに一喜一憂するおもしろみも再確認し始めたという。
「すごいプレーには『わっ』と叫んで、応援するチームがミスをすると『ああっ』と落ち込むという見方が僕にとって新鮮で、そういう見方をしている時の方が楽しいかなと思います。人を吹っ飛ばしてすごいトライをして皆で叫ぶ、これがラグビー。一周回って、そういう楽しみ方になっています」
シンプルな楽しみ方だけを味わうのではなく、さまざまな楽しみ方を味わいつくした末にシンプルな楽しみ方を味わう。そんな「一周回る」ことで得られる感慨を、いつの日かグラウンド上でも表現する。