混乱の状況が続く中、4月1日、世の中は新年度を迎えた。
大学生は社会人へ。新たなフィールドへ踏み出す。困難な中での新生活は、深く記憶に刻まれることになるだろう。
早大を主将として11年ぶりの日本一へ導いた喜びに浸る間もなくサンウルブズに合流。スーパーラグビーの舞台で揉まれた齋藤直人も、この春からサントリーに入社して新生活を始める。
ただ、例年のフレッシュマンとは違う門出になる。同社は新型コロナウイルスへの対策により、原則出社禁止となっており、テレワーク、テレビ会議で業務が進められている。入社式も中止となり、新入社員研修もWebを活用した形式が用いられる。
齋藤は、会社、チームの配慮もあり、当初の予定では、スーパーラグビーシーズンが終わるまでは、サンウルブズでのプレーに専念するはずだった。
しかしリーグの中断決定により、現在はサンウルブズも活動停止中。再開の日に向けて、個人で準備を重ねている状況だ。
開幕から6試合を戦ったサンウルブズの中で、ルーキーながら全試合に出場した。そのうち2試合が先発だった。
パワフルな相手との戦いの中で、短期間のうちにタフさが増した。「これまでも外国のチームと試合をした経験もあり、慣れているところはありましたが、(相手選手に対し)大きい、恐いという感情がありました。でも、それがなくなった。体や目が慣れてきた」と話す。
チームは初戦のレベルズ戦に勝っただけで、その後5連敗。大敗の試合もあれば、3連覇中のクルセイダーズ相手に前半を7-14と健闘した試合もあった。
その足取りを振り返り、齋藤は「結果はついてきていませんが、試合を重ねるごとに、自分たちがやるべきもの、目指すものは、共有できているように感じています」と話した。
3月14日におこなわれたクルセイダーズ戦前日のことだった。
実際、翌日の試合では(最終スコアは14-49も)多くの選手たちが気持ちの入ったプレーを見せたのだから、その試合を最後に、リーグを中断に追い込んだ新型ウイルスの出現が悔やまれる。
そのままシーズンが続けば、さらに進化を続けたであろう齋藤。しかし、1月中旬からの2か月のサンウルブズでの時間に得た「気づき」は大きい。
自身の課題を「すべての面で足りない」と言う。なかでも、「チームが劣勢の状況にあるときや、ブレイクダウンで圧力を受けているときの球さばきや判断がまだまだ」と感じている。
いいお手本は近くにある。
南アフリカ代表として10キャップを持つルディー・ペイジだ。
「スクラムハーフからの声かけ、判断でチームに勢いやエナジーを与えられる。強気のランもある。(それを見ていると)自分はまだまだ足りないと感じます」
サンウルブズに限らず、再びプレー可能な時期が来たときには、そこに注力してピッチに立ちたいと考えている。
早大の上井草寮からの引っ越しは、レベルズ戦翌週がバイウイーク(試合なしの週)だったため、チームに時間をもらい、同期でサンウルブズのチームメートである中野将伍とともに荷物をまとめ、サンゴリアスのクラブハウスへ運び出していた。会社の寮への荷物の移動も会社の協力を得て完了。目の前の試合に集中していた。
結果的には大学の卒業式は中止となったものの、「中野も僕も(サンウルブズのツアー)メンバーに選ばれていたので参加するつもりはなかった」と話す。その覚悟から、高いレベルの中に身を置き、刺激を受ける日々がどれだけ充実していたかうかがえる。
トップリーグや日本国内の各大会が中止となる中、もっとも遅い時期まで試合を続けられたチームの一員として、「ラグビーをプレーできる環境にいることに感謝し、自分たちのパフォーマンスや結果で苦しい立場にいる人たちに勇気を与えられれば」と語っていた。
自分自身も含め、多くの人たちが大きな困難に立ち向かっている。その闘いは簡単には終わらないだろう。
大学生から社会人となり、人のために尽くす気持ちはさらに強くなっている。