チームを率いる者として、どっしり構える。
こんなときはバットを思い切り振ることが大事。1か月に及んだ海外ツアーの最終週は「テイク・ア・スイング」をテーマに過ごそうと選手たちに呼びかけていた。
サンウルブズを率いる大久保直弥ヘッドコーチ(以下、HC)は親分肌だ。
スーパーラグビーの中断が発表された3月14日におこなわれたクルセイダーズ戦を最後に、活動を休止中の狼軍団。そのチームを率いる指揮官は、常に前向きな姿勢で選手たちのモチベーションを高めてきた。
テイク・ア・スイング。
バットを思い切り振ろうという意味だ。
大久保HCはクルセイダーズ戦への準備を重ねた週、選手たちの内面にアプローチした。新型コロナウイルスの影響で2週間の予定だったツアーが1か月に延び、疲労が蓄積していた。
「3連覇中の王者が相手です。強い圧力を浴びる中で、迷ったプレーをしていてはうまくいかない。パス、走る、タックル。すべてのプレーを、思い切ってやる。そのマインドセットが必要だと考えました」
試合には14-49と完敗した。しかし前半は7-14。迷いなくプレーした時間は少なくなかった。
日本人の指導者として、初めてスーパーラグビーで指揮を執る。同僚の沢木敬介コーチングコーディネーターとのコンビネーションも良く、選手たちに「絶対に成長させる」とメッセージを送り、賛同者たちをチームに迎え入れた。
「何かの偶然でここに集まった人間たち。後世に伝えられるシーズンにしよう。(プロチームとして)常にエナジーを感じてもらえる試合をしよう」
そんな覚悟を持ってシーズンに臨んだ。
スーパーラグビーの舞台は必ず選手たちを高める。
大久保HCが自信を持ってそう言い続けてきたのは、2018年からこのチームの指導陣に加わり、何人もの選手を目の当たりにしてきたからだ。
2019年のワールドカップで活躍した姫野和樹、中村亮土や、チームを支えた徳永祥尭。最後までW杯スコッド入りを争い、今季のサンウルブズでも存在感を示す布巻峻介もそうだった。
「(スーパーラグビーの)遠征は本当にタフです。時差もある。移動日程もきつい。プロチームですから、その中で結果を残すことを求められる。うまいだけでは生きていけない世界です。日本で何十回練習するより、1回遠征に行く方が選手の力になる。ワールドカップでは、そこで生き抜いた選手たちが活躍した」
大久保HC自身、現役時代はニュージーランドの州代表でプレーすることに挑戦し、サウスランド代表のジャージーを着たこともある。
当時を思い出し、「(南島の南端に近いインバカーゴの)ほったて小屋みたいな空港にスーツケースひとつで到着し、なんとかひとりでグラウンドにたどり着いた」と笑う。
「そんな当時を考えたら、先駆者たちの挑戦もあり、スーパーラグビーが近くにある現状は、選手たちにとっては幸せなこと」
だから、このステージを利用して選手たちにステップアップしてほしい。残す成績によっては、リーグからの排除が白紙になるかもしれない。そんな希望を胸にシーズンに入った。
そんな思い通りにことは進まない。
でも、日々進化し続けよう。成長させ続けよう。指揮官は、チームに、選手に、自分自身に呼びかけ、問いかけ続ける。
持論を持つ。
「プロにとって、現状維持や自己満足は悪だと思っています。常に次のステージを目指す。勝った負けたの世界にいる。いつも先のステップに進めるように行動することが大事」
選手、コーチとしてそう思い続けてきたから、20年近くプロとして生きてこられたと思っている。
「ここには誰ひとり、チームのために汗をかくことをしない人間はいません。(厳しい日々にも)誰ひとり下を向く者もいない」
いま、同じ時間を過ごす周囲の仲間たちを誇りに思っている。
だからこそ、ふたたびこのチームで戦える日を待つ。そのときに向け、フルスイングする準備をしておく。