ラグビーリパブリック

リモートワーク中のNTTコム選手にトップリーグ中止の件を聞いてみた。

2020.03.25

NTTコム入社1年目の齊藤剣。パソコンで会議を傍聴している(撮影:向 風見也)


 千葉・浦安市にあるアークス浦安パークは、国内トップリーグに加盟するNTTコムラグビー部の本拠地だ。

 天然芝グラウンドが2面あるのに加え、世界最高クラスの規模と言えるトレーニングジム、ベッドが7台あるケアルーム、公式戦会場さながらのロッカールームを備えたクラブハウスが建つ。

 その空間がいま、さながら仮設のオフィスとしての機能も果たしている。社業と選手活動を平行しておこなう社員選手は、3月中旬から新型コロナウイルス感染拡大防止のため出社日数を制限。練習の合間にパソコンを開き、リモートワークに励む。

 3月24日の午後のミーティングルームでは、入社1年目の齊藤剣が画面の向こう側での会議を傍聴していた。明大から入った左PRは、法務監査部に所属。ラグビー部OBで元日本代表の木曽一は職場の先輩でもある。

 それとほぼ同じタイミングで食堂の前を通ったのは、3年目の湯本睦。東海大出身のSHは、在籍するアプリケーション&コンテンツサービス部で早くも「若手社員の状態に目を配りながら、会社としてより良い働き作りをする」という役目を担っており、この時は電話会議のできる個室を探し歩いていた。

「プレーができないのは残念ではあるのですが、いまの世界の状態を考えれば中止は間違った判断ではないと思っている。この期間に自分自身がレベルアップできることをやっていこうというのが、現状の考えです」

 湯本がこう語ったのは、1月開幕の今季のトップリーグの中止が決まったからだ。

「コンプライアンス教育の徹底」のための中断期間にあたる3月23日、再開見込みとされていた4月上旬から5月中旬までのゲームも新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に実施されないこととなったのだ。史上初のリーグ不成立である。

 部内で通達があったのは、公式発表とほぼ同じタイミング。トップリーグを運営する日本ラグビー協会(日本協会)が各部の代表者に決定を告げたのも、その3日前だった。NTTコムのスタッフは、すでに予約していた4月以降の遠征時の列車やホテルのキャンセル作業、帰国を希望する海外出身選手へのヒアリングなどに忙殺された。

 選手もまた、パフォーマンスを披露する機会を失ったこととなる。ただし齊藤は湯本と同じように「他のスポーツでも中止、延期になっているので」と、決定そのものには反論しない。

 各クラブでは今季限りでの引退予定者のモチベーションが議論の対象となっているだけに「ベテランの選手がどう考えるかはわからない」としながら、こう前を向く。

「僕には、来年もチャンスがある。トップリーグの開幕後は忙しくなってしまっていたので、(いまの時期は)部署の先輩方とコミュニケーションを取っていっぱい経験値を積んでいきたいです」

ラグビー、社業とも責任感が増した湯本睦(撮影:向 風見也)

 日本協会は、5月下旬からの日本選手権の実施を希望。出場する上位4チームを決めるためか、各クラブへは5月上旬から試合ができるような準備を求める。

 それに伴い、NTTコムは23日のうちにコーチ陣が会議。3月は個人練習の期間となり、各選手はS&Cコーチ団に課されたメニューを遂行することとなった。

 齊藤や湯本のような社員組は各自のタイムマネジメントのもと、執務とトレーニングに勤しむ。高橋信孝チームディレクターによれば、社内ではラグビーに関する活動もキャリア形成の一部と認識されている。

 全体練習の再開は4月6日だが、その後の状況は流動的。これまで第5、6節で途中出場の齊藤は「開催できるのかも危ないのではと感じていて……」と正直に吐露する。

 もっとも南アフリカ代表HOのマルコム・マークス、オーストラリア代表SOのクリスチャン・リアリーファノら世界的名手がいるこのクラブにあって、「ここには実力がトップクラスの選手しかいなくて、皆、努力する」と刺激を受けてもいる。モチベーションは絶やしたくない。

「実力差があるのに、その差が縮まらないな……というのがおもしろいところです。マルコム・マークスも、ずっとスローイングの練習をしたり走ったり。クリスチャンもずっとキックを蹴っている。トッププレーヤーはやるべきことをやる。この時期、(主力組との)差を縮められるようにしたい」

 かたや実施された全6試合でプレーした湯本は、テンポのよいパスさばき、サイドアタック、相手がラインアウトから攻撃ラインへ球を引き渡す際の鋭いプレッシャーなどを披露しながら、「足りなかった部分は多かった」。目標を設定しづらいなかでも、向上心を保つ。

「日本選手権がどうなるかは決定事項ではないですが、それをあると信じてやっていくしかない。この期間にできることはたくさんある。(試合などの)映像は(時間的に)見やすくなると思いますし、(グラウンドレベルで)目に見えないビジョンを(イメージできるように)工夫して変えていければ、試合中のプレーの幅も広がる。そうしたことにチャレンジしていきたいです」

 現場の人々は力強い。