同級生が遠くへ行ったのを受け、日大ラグビー部新主将でHOの藤村琉士が決意する。身長174センチ、体重102キロ。首が太くて眼光が鋭い。
「いい意味でも、悪い意味でも注目されると思う。でも、勝ったら立ち直ったと言ってもらえる」
チームは2016年度以来、中野克己監督のもとタフなクラブ文化の醸成に着手。最前列に入るPR、HOをはじめとしたFWの強化を軸に据え、練習量を増やした。
初年度は関東大学リーグ戦で2部から1部に上がったばかりとあって8位。その後も6位、5位と下位から中位に甘んじていた。しかし、京都成章高から2017年度に入学の藤村はこうだ。
「僕らが入学した時はゴミ捨て場での分別もなぁなぁやったんですけど、いまでは厳しくやっている」
徐々に部の空気が引き締まるなか、昨季は主力PRの坂本駿介主将とHOで主力入りを目指した川田陽登寮長が最上級生を叱咤。朝の清掃を率先しておこなったり、食事を抜かないよう互いに目を光らせたりと、4年生がグラウンド外の規律遵守を徹底した。リーグ戦では22年ぶりの2位に輝き、6シーズンぶりの大学選手権出場も果たした。
それだけに、あの日の出来事は寝耳に水だったようだ。
オフ期間中だった1月19日の朝、東京都稲城市内の寮に警察が捜査に訪れる。別の場所で、当時の部員が大麻所持の疑いで逮捕されていた。幸いにも部内での薬物蔓延はないとわかったが、藤村は唇をかんだ。
「いきなり『捕まった』と(いう報せが)入ってきて。しかもそれが同級生。気づけへんかったというのは、悔しかったかなと」
容疑者が起訴される2月7日までは、グラウンドとトレーニングルームが使えなかった。残された部員がおこなったことは、藤村いわく「まず、寮をきれいにしよう」。運動と言えば、建物外の簡易スペースでの腕立て伏せや腹筋程度だった。
藤村が主将に指名されたのは、雌伏の時を経てからのことだ。本格的な練習を始める3月23日までは、地方出身者の帰省期間、寮へ戻ってきた選手同士の自主練習期間に充てられた。
いま注視するのは、ルームメイト同士のコミュニケーションだ。日大ラグビー部の寮では、1部屋に各学年2名ずつの計8名が入居する。藤村はそのつながりを強化し、お互いの顔つきや態度に敏感なチームを作りたいという。
「お互いにため込まんと、何でも言い合える雰囲気を作っていきたい。まず、部屋の同級生同士が(互いの些細な行動に)気づいてあげて、後輩から先輩への『これを言うのはまずいんと違う?』みたいな感じもなくしていきたいです。掃除や雑用は先輩が率先してやる」
藤村が嬉しいのは、新4年生に主体性があることだ。3月中旬までは複数のリーダー陣と話し合ってトレーニングメニューを考案。私生活では新寮長でFLの足立優理に助けられる。
「大変やと思ったんですけど、周りが支えてくれる。ついてきてくれる。僕が1人でやっている感じではないです。朝に皆を起こしてくれているのが寮長だし、下のチーム(控え組)の4年生も練習の雰囲気がどうだったかを教えてくれる」
大学と関東協会へは4月までの対外試合の自粛を申し出ている。あらゆる意味で「注目」されるなか、目指すのは初の大学日本一だと藤村は言う。
先の大学選手権準々決勝では優勝する早大に14-57で大敗したが、「できるとこ(手応え)はあった」とのこと。たくさんの勝ちたい理由を胸に秘め、こう結ぶのだった。
「優勝を目標に掲げるチームは日本で数えるほど。俺らも、そういうチームになっていこうと話しています」